47話・新しい家族
「お義兄さま。お帰りなさい」
「今帰りました。アリーズさま」
「あ、さま付け。止めましょうよ。お義兄さま。もうわたくし達は義兄妹なのですから。ねぇ、コン?」
「きゅうん」
フェリックスは出仕務めから帰って来ると、玄関ホールで使用人たちの先頭に立ち、義妹となるアリーズに出迎えられる。義妹は胸元に白狐を抱いていた。アリーズによく懐いているオスの狐だ。
その姿に微笑ましさを感じながらフェリックスは、茶色の髪に琥珀色の瞳の自分とは外見は全く似てない可愛い義妹を前にして「ええ」と頷く。
義妹のアリーズは亜麻色の髪に苺色の瞳をした美少女で、十四歳の社交界デビューの時に「ブロワ国の薔薇の妖精」と、持て囃された少女だ。もうじき望まれて王家に嫁ぐ。
「では後で晩餐の席で会いましょうね」と、アリーズと別れフェリックスは自室に向かった。
フェリックスは数ヶ月前にこのエベルー伯爵家の跡継ぎに迎えられたばかりだ。未来の王太子妃殿下となる彼女とのこの関係になれそうにない。このまま名前に様付けで呼んでいてもいいような気がするが、この愛らしい少女は彼に嫁ぐまでにもう少し打ち解けて欲しいのだと酷なことを言う。
実家が貧乏男爵家の三男坊であるフェリックスとしては身に余る光栄だというのに。これ以上、親密になっては彼女のことを溺愛しているエドバルト王太子にいらぬやっかみを受けそうである。
彼はエドバルト王太子の侍従長に二十代半ばという若さで就任した。その前はアリーズの父のもとで侍従見習いをしていたが、嘘のつけない所と仕事を真面目にする姿勢が買われたようである。
エベルー侍従長のもとで、他の侍従同様に陛下に仕えていたが、王太子が婚約した時から王太子付きになった。
元王太子のジグモンドには、生真面目すぎる性格が難となったのか嫌われた。きっかけはアリーズの身に異変が起きた事だ。アリーズが何者かに毒を盛られたのか髪や瞳の色が変わった事で、王太子は彼女に冷たい態度をとるようになっていた。一番苦しんでるのはアリーズ嬢なのに、王太子はその気持ちを慮ろうとしなかった。彼女を遠ざけるようになりそのうち、ギタ国の王女フロアと名乗る女性を側におくようになった。
その女性は髪の色や瞳がアリーズ嬢に似ていて、フェリックスには彼女がわざと似せているように思えて気味悪かった。
黙っていることが出来なかったフェリックスは、ジグモンドには婚約者のアリーズ嬢への態度を改めるように進言し、フロアという女性の身元が明らかになるまで遠ざけるようにお願いしたのに一向に聞き入れてもらえずに、遠ざけられたのは彼の耳に痛いことを言ったフェリックスの方だった。
一方的に王太子に解雇され王宮から辞していると、どこから聞きつけたのかシェルプト辺境伯が訪ねて「ではしばらく自分のもとで働かないか」と、言ってくれなかったなら今の自分はないと思う。
お義兄さまと慕ってくれるアリーズには申し訳ないが、まだ実感が湧かない。それに廃嫡されて家を追われたアデマールのことを思うと申し訳ないような気もしてくるのだ。自分がいくらエベルー侍従長に望まれて、この家の養子に迎えられたとしても。
晩餐の席でまだ打ち解けるにはぎこちない様子のフェリックスをアリーズは見咎めることもなく、今日あった出来事を面白おかしく話してくれた。
彼女の隣の席に行儀よく座るコンは、煮込み料理を前にして大人しく食事していたが、先に食べ終わるとちょこちょこアリーズのお皿の中からソーセージを抜き出しては「めっ」と、アリーズに叱られていた。
それを見ているだけで癒されるような気がしてくる。アリーズは心優しい少女だ。だから動物にもその気持ちが伝わるのだろうと、フェリックスは思っていた。
王都では白狐というと大変珍しいと騒がれるが、フェリックスの実家のある田舎では白狐や白カラス、白蛇などは、あちらこちらで見かねたので彼としてはそう珍しく感じない。
アリーズとコンを見ていると、自分の子供の頃が思い出されて懐かしく思った。子供の頃、人里に降りてきて罠にかかっていた白狐を助けてやったことがあった。あのシロは元気だろうか?




