46話・女神との出会い
◆この話はアリーズの実兄が廃嫡され家を追われることになり、彼に代わってエベルー家の後継者となりアリーズの義兄となったフェリックスの話です◆堅物?な男と魅力的な女性の恋物語。
フェリックスですが本編には出ていません。
「その手をお放しなさい」
「そんなに嫌わなくとも良いではないですか? 少しあちらでお話致しませんかと私は誘っているだけですよ」
「あなたと話すことは何も無いわ」
「やれやれ頑なな御方だ」
「放してって言ってるのに……!」
王太子殿下付きの侍従長フェリックスは、中庭で男女の言い争う声が聞こえてきて眉根を顰めた。男の方の声には聞き覚えがあった。誰か某伯爵家の三男坊で、近衛隊に新人で入隊してきた者だ。見目が良いので女性受けがよく、ある侯爵夫人の愛人とも噂されていた。
(確か今日は特別休暇を取っていたはずなんですがねぇ)
その男が夜遅く女性を東屋の方へ無理やり連れ込もうとしてるのを目撃してしまっては、フェリックスは黙ってやり過ごすことは出来なかった。
「お止めなさい。お相手の方は嫌がってますよ」
男性の肩を掴むと、相手の男はフェリックスを振り返ってゲッと声を発した。
「侍従長」
「どうしてここにいるのです? ナックス君。きみは確か今日は親戚の家で不幸があって休暇を取っていたはずでは?」
彼は王太子殿下付きの近衛部隊のメンバーの一人だ。フェリックスは王太子付きの侍従長として、皆の出勤体制も把握していた。
「あ。その……。忘れ物をしましてそれを取りに来たらこちらの女性が気分が悪そうにしていたので東屋の方へ案内しようかと……」
「嘘よ。この人、私が嫌がってるのに無理やり向こうに連れて行こうとしたの」
女性はナックスのに掴まれた腕を振り払い、フェリックスの背に隠れた。フェリックスは自慢ではないが、長身で体躯は良くそこそこ護身術を扱える。それに対し痩せ型で女顔したナックスはフェリックス相手だと分が悪いと思ったのか「俺の勘違いのようでした。失礼致しました~」と、後退りその場から逃げ出して行ってしまった。
「大丈夫ですか?」
フェリックスはナックスの態度に呆れながらも後ろを振り返り目を見開いた。女性は小柄だったがとても美しい人だった。身のうちから輝きを放ってるような垢抜けた容姿の彼女は、白金の髪に一輪の薔薇の花を挿し、金色の瞳で彼を見つめて言った。
「あの人、あんまりしつこくて困っていたのよ」
「あの男になにかされましたか?」
「腕を強く引かれただけよ。あなたが助けてくれたから酷い目にはあわなかったわ。助けてくれてありがとう」
踵を返した女性の後に急に保護欲を沸きたてられて、フェリックスは後を追った。
「またああいった輩に絡まれないとは限りません。途中までお送りしましょう」
「じゃあ、門まで送ってくれるかしら?」
女性の微笑みはフェリックスの心を妙に騒がせた。




