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42話(最終話)・華麗なシナリオ

「ようやくここまで来たな」


 感慨深く言ってくるエドは光沢のある白金色の服に身を包んでいた。その隣にいるわたしも似たような配色のドレスを着ている。聖堂での挙式を終えたわたし達は王宮前の広間に集まった国民達に二人の姿をお披露目するべくバルコニーに出たところだった。わたし達がバルコニーに出るとわああ。と、歓声があがる。


「王太子さま。ばんざ~い」

「王太子妃さま。おめでとう」

「おふたりともお幸せに!」


 国民たちの寿ぎの言葉に自然と緊張も薄れ顔が綻ぶ。婚約してからこの日を迎えるまで誰かしら付き添いがいて王太子となったエドとは二人きりになる機会がなかったわたしは、今このときようやく彼とふたりきりになれたと思った。ずっとわたしには気になっていたことがあったのだ。それを聞くなら今のような気がしていた。


「ねぇ、エド。あなたはどうして王太子になることを承諾したの? それで良かったの?」

「おまえと一緒になる必須条件がそれだったから。迷いはなかった」

「誰がそんなことを?」

「もちろん陛下と王妃さまだ。王妃さまは次期王太子妃はアリーズに決まってるから彼女が欲しいなら必死で王太子として周囲に認められるべく行動しろと発破をかけられたな」

「それっていつの話? わたしそんな話初めて聞いたわ」

「王太子として指名を受けた日に。これは仮の決定だからけして驕れるような行動は取らないようにと注意もされた。俺が身を持ち崩した場合には次の候補にアリーと娶わせるなんて言われたら奮起するしかないだろう?」

「ずい分と無茶ぶりされたのね?」

「ああ。あの時が一番きつかったな。辺境伯の後任が決まるまで誰かさんが女に逆上せて途中で投げ出した仕事の尻拭いもさせられたからな」


 エドが遠い目をする。誰かさんとはきっとジグモンドのことだろう。御愁傷さま。と、目線を送るとエドが微笑んで来た。


「無事におまえと結婚出来てよかった」

「わたしも。でも…エドはわたしより寿命が長いのよね? わたしが老いても気持ちは変わらないでいてくれる?」


 エドは半神なのだから人間とは違って老いる事とは無縁かもしれない。その彼と共に生きて行くのが怖い気もする…と、思っていると手を握られた。


「当然だ。アリーがなにを気にしてるか分からないけど俺は人間と変わらないぞ。人間にはない力は持ってはいても、母さんとは違って持つ力に限界はあるし寿命はたぶん人間と同じだろうし、それなりに年老いる。俺は婆さんになったおまえでも愛せる自信はあるけどおまえは嫌なのか?」

「そんなことないわ。ただわたしが先に老いて死んじゃうのは嫌だと思って」

「安心しろ。もし仮にそうなっても俺がおまえを手放さないから。な」


 エドはわたしの手を持ち上げて手の甲に口付けを落とした。


「知ってるか? 狐のオスは一途なんだ。これと決めたメスと生涯添い遂げる。甲斐甲斐しく世話をやいてな」


 わあああ。きゃあああああ。と、歓声が上がりわたしは恥ずかしくなった。眼下には大衆の目があるというのにこの人はなんてことをしてくれちゃうんだろう。ドギマギするわたしの心とは関係なく国民の祝福の声は一向に止まなかった。エドから目を放せないでいるわたしの脇から冷やかすような声が上がった。


「あらあらお暑いこと。ふたりの仲が良いのは喜ばしいことだけど」 


 王妃さまだ。慌ててエドから距離を取ろうとしたのを逆に腰を抱かれて彼の体に密接する距離となった。丁度陛下と王妃さまがバルコニーに揃って顔を出したところで全ておふたりに見られていたと分かったわたしは固まった。

 これでバルコニーにはブロワ王一家で出揃ったことになる。陛下や王妃さまが眼下の国民達に手を降り始め歓声が怒涛のように広がった。


「義母上。私たちは新婚ですのでご容赦を」

「ほどほどにね。浮かれる気持ちは分からないでもないわ」

「ではこれから私たちがすることをご容赦頂けると幸いです。陛下。王妃さま」


 わたしの腰を片腕で抱いたまま、エドが陛下たちに向かって軽く一礼する。陛下たちに断ってまでする事って? と、思ったわたしの目の前にすでにエドの顔が迫っていた。


「え…!」


 彼の吐息を唇に感じたときには国民がワーワーと囃し立てる声を耳が拾っていた。陛下たちがすぐ側にいるというのにここで? しかも国民たちの前で?

 エドの行動が信じられない。みんなの前で見世物になってるように思われて嫌だと突っぱねたいところなのにわたしは彼の情熱的なキスの前に太刀打ち出来なかった。ようやく長いキスから開放されてわたしはエドを見上げた。責める気にもならなかった。


「どうして?」

「ロイヤルウエディングにキスはお約束だろう?」


 ちらりと彼がバルコニーの後ろを目線で示した。そこにジグモンドの姿があった。彼はわたしと目があい気まずそうに目を泳がせる。エドはわざと彼に見せつけるようにわたしに口付けしたらしかった。


「悪趣味ね。エド」

「未練がましい男が悪いのさ。きみにまだ言い寄るような態度を取るから」

「わたしは相手にしてないわ。それにもうあなたと結婚したのだから諦めたでしょう。きっと」


 そう言いながらもわたしはこちらをぬめつけるジグモンドを見返しながらエドに自分からキスをした。すぐさま返礼のようなキスが返って来て止まらなくなる。

 いつしか周囲の声も気にならなくなって来た頃に呆れたような声をかけられてわたしは我に返った。


「ふたりともいつまで見せ付けてくれるのかしら? あてられちゃうわ」 


 王妃さまと目があって気まずさにエドから逃げ出そうとしたのに無理だった。より一層深く抱き込まれて彼の胸のなかに捕らわれてしまっていた。この事はのちに王妃さまや陛下からは笑い種にされてしまい暫くの間からかわれ続けることになろうとはこの時は思いもしなかった。


「おめでとう。アリー。これで見事、リベンジ果たしたな」

「エドったら。もうリベンジは終わってるじゃない。彼は廃されたしわたしがあなたを選んだ時点で彼は負けを悟ったはずよ」


 王妃さま達のからかいの視線をよそにエドが耳打ちして来る。王妃さまたちはわたし達が結婚に浮かれて相手に逆上せてるように見えるらしくまたいちゃついて。と、いう目で見ていた。まさかジグモンドに対するあてつけのために行なった行為とは思いもしないのだろう。バルコニーの後ろで控えていたはずのジグモンドの姿はなかった。わたし達にあてられたのか立ち去ったようだ。


「…まあな。それでも華麗なシナリオだろう? 華々しく締めくくったんだから。これからは幸せになってあいつの鼻を明かしてやろう」

「もちろんよ。あなたとふたりでね」


 仕方ない人ね。エドの隣でわたしは満面の笑みを浮かべた。策士の夫の腹黒さには気がつかないふりをして。幸い陛下たちにはわたし達の会話は国民達の祝福の声に紛れて聞かれることはなかった。国民達はわたし達の企みを隠してくれてるかのように祝福の声を上げ続けていた。





最後まで読んでいただきありがとうございました。果たして誰が一番腹黒いのでしょうか?

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