41話・俺にはおまえだけだ
「それよりもおまえは誰かいい人が出来たか? 俺から別れを告げておいて今更だけど…?」
エドは探るように聞いて来る。わたしは首を横に振った。
「いつもわたしの心のなかにいたのはあなたよ。別れを告げられてからどんなに忘れようとしても無理だった。あなたに会いたくて仕方なかった」
「アリーズ」
エドはわたしの方へ体を傾けてわたしを抱きしめてきた。
「俺もおまえに会いたくて仕方なかった」
「エド」
わたしは彼の腕のなかにおさまって去って行った彼がやっとわたしのもとへかえって来てくれたと実感した。
「好きだ。アリー。俺と結婚してくれ」
「はい…」
エドがわたしに顔を寄せてきたところでわたしは彼の唇を掌で止めた。
「アリー?」
「そんな簡単に頷けるはずないでしょう? 少し考えさせて」
「なんで? 俺のこと好きなんだよな? な、アリー?」
「あなたのことが好きでも結婚となれば考えさせられるわ。だってジグモンド殿下が王太子を廃されたのよ。次の王太子殿下はあなたで決まりでしょう?」
さっきの王妃さまやティアさまのやり取りで分かる。王妃さまはエドが喉から手が出るくらいに欲しいはずだ。
「あなたが王にでもなればわたしの他に側室を持つことも許されるだろうし、そうなったらわたし耐え切れないわ」
「俺はおまえ以外の女性を娶る気はない。俺はおまえだけだ。アリー」
「それにあなたから別れを告げられて二年、わたしの胸にあいた穴が大きすぎてなかなか埋まらないの。そんな状態であなたと一緒にはいられないし」
「ではその穴を俺が埋めることが出来たなら共にいてくれるか? 俺は自分の隣に並ぶのはおまえしか考えられない。頼む。アリー」
「じゃあ、今から何とか出来る?」
「もちろんだ」
エドはわたしに誓うように唇を重ねた。今度はわたしも拒まなかった。それから彼は以前のようにわたしのもとへ三日とあけず通い出した。
その時に花束はもちろんのこと、王都で流行のお菓子や石鹸、香水、靴やバックなどプレゼントを持参してやってくる。
王太子として陛下から任命されたこともあり現在の彼は非常に忙しいはずだ。だから滞在時間なんてあっという間でわたしに会うなり時間がもったいないとばかりに即効で跪いてプロポーズしてくるのが定番となっていた。
そんなときはマーナをはじめとした使用人たちが出刃亀宜しくドアに張り付くので困り物である。その上、彼がそれを分かった上で皆に見せつけるがごとく仰々しくプロポーズしてくるので恥かしくてならない。
「アリー。何を考えてる?」
「毎日、よく懲りないな。と、思って」
わたしは部屋に用意してもらった夕食を前に狐の姿のエドに目を留めた。幸い部屋には誰もいない。だからエドは話しかけてきたのだろうけど。
わたし達の交際が復活するにあたって狐のコンも屋敷に戻って来た。狐のコンに魅了された皆が大喜びで受け入れたことでコンが夜わたしの部屋にいても誰も見咎めなかった。
エドは日中わたしに会えない分、こうして夜に会いにやってくる。狐の姿で。屋敷の者たちはお嬢さまに会いたさにわざわざコンは山を降りてくるんですね? 健気で可愛い~なんて騒いでるけど、わたしとしてはいつの日かコンの正体がエドだとばれてしまわないかと考えてヒヤヒヤしてしまうと言うのに。エドは暢気にも欠伸をして言った。
「あ~。眠い。今日もこき使われたからな。王妃さまは容赦ないんだ。さあ、寝るぞ」
「え。ちょっと待って。今晩はうちに泊まるの?」
わたしの問いにエドは応えなかった。さっさと寝台に潜り込んでしまう。わたしは以前、彼がそこで姿を元に戻したことがあるので恐る恐る近付いた。
あの時の二の舞はごめんだ。と、思いながら。なのに寝台から伸びてきた彼の腕に捕まり寝台の上へと引き上げられた。
「きゃっ…!」
悲鳴を上げかけた唇は彼のそれで塞がれて言葉を飲み込んでしまう。なぜまた裸なの?と、言う問いかけはわたしの喉の奥に消えた。
「アリー。今夜はおまえを感じて眠りたい」
「エド。や…」
唇を離した後でエドが耳元で囁いてくる。わたしの了承もなしにその唇は喉から肩へ、肩から胸元へと落ちた時に動きが止まった。
「え? エド…?」
わたしの胸もとであがるかすかな寝息。王太子業に忙殺されているエドはお疲れのようだ。わたしはそんな彼の髪を梳いてるうちに寝入っていた。
翌朝目覚めたエドは寝落ちしたことを悔しがってリベンジにわたしから寝巻きを取り上げ狐の姿でいちゃついてきた。裸を見られるのは恥かしかったけど狐のふさふさした毛が肌を撫でるのが非常に気持ち良く思われたのは内緒である。
それから求婚をしかけてくるエドとの間で攻防戦が繰り広げられ一年後、わたしが観念した形で彼と結婚することになった。




