40話・エドの告白
王妃さまを見送った後でエドはぼやいた。
「参ったな。王妃さまに釘を刺されてしまった。母さんたちには驚いただろう? あの人たちはいつもああなんだ。顔を合わせると相手を負かそうと俺からみたら実にくだらないことで競いあうんだ」
「でも仲はいいのよね?」
「たぶんな。ちょっといいか?」
「うん」
エドの言い方が可笑しくてくすりと笑うと彼は照れ隠しなのかわたしの手を引いて東屋の外に連れ出した。エドと手を繋ぐのは久しぶりだ。エドは薔薇の庭園のなかの白いベンチへと促した。ふたりで並んで腰掛けると風に乗って薔薇の花の甘い香りが漂って来る。
わたしは会えなかった時を取り戻すように話しかけた。
「エド。あなた今までどうしてたの?」
「領地に帰っていた。一応、王家から所領として表向きに賜ってる土地にね」
「あなたって秘密が多いわよね? 秘密主義なの?」
「そんなつもりはなかったけどな。アリーに隠してたことはある」
エドの物言いが気になる。エドはわたしを見つめてゆっくりと告白した。
「俺は人間と白狐神との間に生まれたハーフなんだ」
「半神ということ? じゃあ、ティアさま…キュンティアさまは白狐神さま? この国の守り神の?」
「ああ」
ブロア国には国民皆が崇拝している唯一の神さまがいる。それが白狐神さまだった。前世の記憶を取り戻したわたしには白狐神さまは稲荷大明神みたいなものと、思っていたがまさかそれがキュンティアさまだなんて夢にも思わなかったよ。
道理で彼が狐にちょくちょく変身してたわけだと納得した。それを王妃さまや陛下は魔法使いであると誤魔化してた訳だ。実際には半神なのだから魔力のようなものはあったに違いないけど。この場合、魔力ではなくて神力ではないのかな?
そこでわたしはあることに気がついた。
「あ。じゃあ、シェルプト辺境伯が賜ってる所領ってもしかしてわたしたちにとっては禁足地だったりする?」
「まあな。そこに白狐神が住んでる神殿があるんだ。結界も張ってるから簡単に人間は入って来れないけどな」
「そこであなたは二年前、わたしがついて行きたいと言った時に拒んだのね」
「済まなかった。あの時に全て話しておまえをなぜ連れ去らなかったのかと何度も後悔した。俺は自分が半神である事を明かすのに勇気がなかったんだ。おまえに拒否されたらと考えたら怖くなって言えなくなった」
「あなたにもそれなりの事情があったのだから仕方ないわ」
「向こうに行ってからおまえのことばかり考えていた。心ここにあらず。と、いう感じだったらしく母さんには呆れられたな」
「ふ~ん」
「何だその目は? 信じてないな?」
「だって閨に沢山の美女がこぞってやってきたんじゃないの? キュンティアさまのご子息ならけっこうもてたでしょうね?」
わたしはティアさまが言った閨の話が気になっていた。エドにはそれなりの仲の相手がいたりしないかと。わたしの不安が顔に現れていたのか、エドが杞憂だと言って来る。
「妬いてるのか? アリー。安心しろ。何もなかったから。それに相手はあの母に仕える妖狐の娘たちだぞ。俺が相手にしないと分かると女には興味がないと思われて息子を送り込んでくるつわものもいたな」
「それでどうしたの?」
「俺は必死で貞操を守り続けたよ。後ろを取られたらお終いだからヒヤヒヤしたのなんのって」
「うふふふ」
「笑うなよ。本当の話だぞ」
大真面目に説明してくれたエドの話ではシェルプト辺境伯の所有する領地はこの国では禁足地にあたりその入り口である森には近隣の村人たちも滅多に寄り付かないらしい。そこから先に侵入すると呪われると頑なに信じているそうだ。その禁則地は巨大な森に包まれるようにして存在し、そのなかでは白狐神が住む神殿があり(とはいってもこの国の王宮の作りとそうかわりないそうで)ティアさまの身の回りのお世話をする妖狐たちと住んでるとか。人間贔屓のティアさまは神殿のなかで人の姿になってるので皆もそれに合わせて人間に変身してると聞いた。俺の場合は人間が主で狐の姿が変化したものだけどな。と、苦笑付きで。
ティアさまに仕える者たちは妖力を尻尾の数で示すらしく最高なのが九本で最弱なのが二本になるらしかった。
「エドは何本なの?」
「俺と母さんは一本だ。俺の場合は今持ってる力が衰えてくると十二本になる」
「意味が分からないわ」
一本が最強なのかしら? それなのに力が弱くなると十二本?
「母さんはもともと妖狐だったのが神格を得て神となったから。十二本は妖狐の時の名残りだ」
「ティアさまが妖狐の時の尻尾が十二本で、神となったら尻尾が一本になったということ?」
「まあ。そんなものだ。母さん曰く、尻尾が多いと邪魔だから一本に束ねたそうだ」
尻尾が多いのは見る分にはふさふさしてていいけどそれを持つ側としては確かに邪魔なのかもしれないな。
「妖狐でも滅多に十二本も尾っぽを持てないんだ。母さんは規格外だったらしいな。だから神格化したらしいけど。向こうでは皆に心酔されてるよ」
「ティアさまは綺麗だしね。あんなに食べても太らないって羨ましいわ」
「自分の母が食い意地張ってるようでちと恥かしいけどな。たぶん神力を保つ為みたいだ」
後にこの事はティアさまから力とは関係なく単なる食欲が強いだけと聞かされる事になるが、それまでわたしはティアさまは力を保持するために沢山の食事が必要なのだと思い込むことになる。




