33話・傾国
「アリーズを恨むなんてお門違いですよ。フロア王女。あなたについては調べが上がってる。ギタ国なんて存在しないしあなたは王女ですらなかった」
「なにを根拠に? 国王であるお兄さまにご報告いたしますわよ」
彼女の視線からわたしを守るようにエドが立ち塞がる。
「どうぞ。あなたの兄である国王さまというのはそこの宰相閣下のことですか? あなたは先代宰相と踊り子の間に生まれた子だそうですね? 生まれてすぐに宰相の息のかかった富豪の商人の家に養子に出された」
「な‥! 違います。無礼な…」
「あなたの育ての親から話は伺いました。それとしらばっくれられても困るので証書を頂いて来ましたよ。あなたを育てるにあたって先代の宰相と取り引きを交わした育児金の証書をね」
商人と言うのはしっかりしてます。おかげでこのような証拠を手に入れられて助かりました。と、エドが証書をチラつかせると王女の仮面を投げ捨てたフロアがそれを返しなさいよ。と、ムキになって手を伸ばす。
「これは本当なのか? 宰相。そこの王女を騙る者はそなたの身内なのか?」
「とんでもございません。何のことやら」
「お兄さまっ」
「フロア王女殿下が宰相の腹違いの兄妹? ずい分と年の離れた…」
将軍は信じられないといった顔をしていた。宰相は将軍と同じ年ぐらいのはずだ。フロアとは親子ほど年が離れていて兄妹よりも親子と言ったほうがまだ納得できた。陛下が確認を取ると宰相はこんな女は知りません。と、切り捨てようとする。フロアが宰相を兄と呼んだことで繫がりは明白だろうに。フロアは兄である宰相に自分とは関係ないと言われて意気消沈したようでその場に崩れ落ちた。その脇では将軍が青くなっていた。でもエドは甘くない。次の追及へと進む。
「それとこの女のもとに夜な夜な通う者がいてそれがペーテル将軍閣下、あなただと確認が取れています」
「お父さまっ」
「違う。わしは知らぬ」
ヴィルジニアが父親を睨む。ペーテル将軍は顔を強張らせていた。エドは確信を持って告げた。
「恐らくこのフロアなる女のお腹の子はあなたの子供でしょう」
「なにを根拠に‥? 無礼だぞ。第一、その女は誰とでも寝ていたようではないか? わしの子だという証拠は? わしを貶める気か?」
「王家を貶めようとしていたのはあなたの方でしょう? 将軍閣下。あなたは王太子が夢中になっているフロアに自分の子供を孕ませ、王太子の子供と偽って産ませる気でいた。フロアが王太子妃に納まった暁には実父として実権を握る気だったのでしょう」
「違う。違う。わしは騙されてたんだ。これは何かの間違いだ。宰相の妹だなんて知らなかった。もし知ってたなら手を出さなかった。これは宰相がわしを嵌めたんだ」
「将軍。言いがかりは止して下さい。私は知りません。陛下。私はこの女と将軍とは何も関係ありません」
「なにを? おまえがそこの女を使って企んだに違いないだろう? おそらく王太子を寝取ってでも王太子妃の座を奪うように言ったんじゃないのか?」
将軍は必死に弁解しようとするが言ってることは最悪である。わたしはヴィルジニアが般若の形相に変わってゆくのを見た。宰相と将軍は互いに罪のなすりあいをしている。
エドはそのふたりを呆れたように見ていた。
「宰相閣下も将軍閣下もなにかお忘れではないですか? 宰相閣下はそこの女を遣い王太子殿下と許婚であるアリーズ嬢との仲を裂いた。そして女が王太子妃となった暁にはライバルである将軍を蹴落として王宮の勢力を掌握しようとした。
また将軍閣下は王太子殿下が執着する女を自分の愛人にすることで自分の子供を仕込んで実父として王宮内の権力を我が物にしようとした。これは国家反逆罪にあたります。異国の王女と偽った女を王太子に近付けお腹の子を王太子の子供だと偽って女を正妃にと押し上げようとしたのですから。衛兵っ」
エドの声に衛兵が駆けつけてきた。陛下がそれに命じる。
「国家反逆罪だ。宰相と将軍を捕らえよ」
「はっ」
ばらばらと駆けつけてきた数名の兵達が宰相と将軍を取り囲んだ。彼らは最後の足掻きとばかりにエドを睨む。エドが暴かなかったら彼らの悪事はばれなかったのに。とでも思ってるに違いない。
わたしは衛兵に引き立てられ両手を後ろ手に縛り上げられた宰相と将軍を見て言わずにはいられなかった。
「まるで傾国ですわね。一人の女性に主だった方々がこんなにも篭絡されてしまうだなんて。みっともない」
「アリーズ」
その篭絡されたうちの一人である殿下がわたしを見ていた。宰相や将軍やダニエルやアデマールがはっとした顔をしていた。




