32話・始まった最後の断罪
「ここに皆に集まってもらったのは他でもない。余から皆に伝えたいことがあったからだ。シェルプト辺境伯は余の命を受けて動いておる」
陛下はシェルプト辺境伯は自分の意を受けて動いてるとこの場で断言した。宰相はその意味に気が付いたらしく口を閉ざした。将軍はまだ不平をなにやら溢していたがライバルの宰相が黙ったことで大人しくなる。
「さて皆に伝えたいことだがまず、王太子であるジグモンドとエベルー伯爵令嬢のアリーズとは婚約破棄させるものとする」
「では王太子妃にはフロア王女さまを?」
「わあ。ジグモンドとわたしが?」
陛下の言葉に嬉々として宰相が声をあげる。フロアも顔を綻ばせアデマールは唖然としていた。それもそうだろう。先ほどまでラブラブ状態だったのに自分が殿下と結婚できる可能性が出てきたとみるや彼女の天秤は殿下へと傾いたのだから。
呆れるほどフロアは自分の欲望に実直なタイプといえる。問題の殿下は喜ばずに複雑そうな顔をしていた。彼はフロアが自分の種ではない子供を宿していることを知っている。そんな女を自分の妃として迎え入れることは出来ない。と、いうまともな思考は持っていたようだ。
「宰相。まだ余の話にはまだ続きがあるのだ。婚約破棄に伴ないジグモンドは王籍から外れ一臣下に下ることにさせる」
「なんですと? ジグモンド殿下を?」
「それでは次の王は誰に?」
「えっ? ジグモンドは王太子ではなくなるの? そんな‥!」
「これはジグモンドにはすでに通達しておる」
宰相は愕然とし、なぜかその隣でライバルのはずの将軍も蒼然とし、フロアも絶句した。殿下は一人うな垂れて拳を握り締めている。
「嘘よね? ジグモンド? そんな馬鹿な。あなたはそれでいいの?」
フロアがジグモンドの腕を取ろうとするとそれを殿下は振り払った。
「放せ。私に触れるな。汚らわしい」
「ジグモンド。どうして?」
「私はおまえに騙されていた。ダニエルもアデマールもな」
「ひどいわ。ジグモンド。あれほどわたくしのことを愛してるって言ってたじゃない?」
「殿下。いまの言葉はあんまりです。フロア王女に謝ってください」
忌々しそうにジグモンドから突き放されてフロアは瞳いっぱいに涙を浮かべる。その彼女を庇うようにアデマールが進み出た。お人よし過ぎるぞ。アデマール。わたしはつい先ほど彼女に掌返しをされたのにそれでもまだフロアを信じようとする兄の馬鹿さ加減が不安になって来た。
ジグモンドも同じ事を考えたのだろう。アデマールに忠告する。
「アデマール。目を覚ませ。私達は騙されてたんだ。この女にな。この女にあなただけ。と、言われておまえも手馴れた様子でベットに誘われたんだろう? 全てダニエルとヴィルジニアから詳細は聞いた。それにこの女は俺たちと関係を結ぶ前から誰の子か知れない子供を宿してる」
「嘘よ。わたくしを信じて。みなそこのアリーズに騙されてるのよ。ヴィルジニアもアリーズの手先なのよ。ダニエル目を覚まして」
アデマールは友人と恋する女性との板ばさみに揺れてるようで呆然としていた。フロアを信じきってたようで彼女が妊娠してたとまでは知らなかったようだ。嘘だ。と、呟きながらもフロアから後退りしていた。
ダニエルと黙って様子を伺っていたヴィルジニアが苛立つように言った。
「いい加減になさい。白々しい。今更何を言い出すのかしら? 私が見たことをありのままに陛下にはすでに報告してるのだから」
「あんたが唆したのね? 大人しい顔をしてなんて女なの」
キッとフロアはなぜかヴィルジニアではなくわたしを睨んで来た。




