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31話・これからおまえは幸せになるんだ

 翌日。我が家に王宮からフロア王女の迎えの馬車が来た。彼女は馬車に乗り込むときにわたしを睨みつけ、あなたが王妃さまに言いつけたんでしょう? と、因縁をつけて来たがわたしは相手にしなかった。

 彼女の見送りに出てきた兄は王命で引き裂かれた恋人同士のように別れを惜しみ嘆き悲しむ。


「ああ。可哀相なフロア。後で必ず会いに行くよ」

「絶対よ。アデマール。あなただけが頼りなの」

「もちろんだよ。フロア。僕の心はきみだけに」

「ああ。アデマール。きっとよ」

「フロア。愛しい人。離したくない」


 と、別れを惜しみ下町の大衆演劇でもまず出てこないだろうくさい台詞のやり取りに胸焼けがしてわたしは、いつまでもフロアの手を握って放そうとしない兄にじれてそのまま彼も馬車のなかに押し込んだ。


「何するんだい? アリーズ」

「あとでどうせお兄さまも陛下からお呼び出しがかかるのです。いっそのことふたりご一緒に登城された方がいいですわ」

「そうか。ありがとう。アリーズ。では行って来る」


 喜ぶ兄を見てわたしは手間が省けた。と、思った。アデマールが単純な性格で良かった。のちに彼は地獄に落とされるような気分を味わうのだろうけど。つかの間の恋人同士を楽しむ時間くらいは与えてもいいだろう。ふたりはこの後、何が起こるか予想もしてないらしい。二人きりの世界に入り込んで幸せそうに互いに見つめあい、うふふ。と、笑っていた。

 もし、わたしがフロアだったのなら危機を感じてこの場から逃げ出すことだろう。フロアは変に度胸があるのか? 頭が回らないのか? 微妙であるが。

 馬車を見送ると、背後からいよいよだな。と、声をかけられた。エドがわたしを迎えに来たのだ。今日のことは昨日、エドから聞かされていた。彼は間諜の者たちと色々と証拠集めに奔走していたのだ。それがようやく今日、明らかにされそうになっていた。


「ようやくこれでおまえが奪われたものを取り返してやれる。長いこと辛い目に合わせてしまったな?」

「エドのせいじゃないわ。そんな顔しないで。それに失ったものにはもうわたしは未練はなかったのに。逆にあなたに無理させてしまったわ」

「いや。俺はおまえが奪われたままになってるのが嫌だったんだ。それにこの屋敷の者たちもあの女を見て不愉快そうにしていたからな」

「エド」

「おまえは前世で幸せになりたいって願ってたじゃないか? これからおまえは幸せになるんだ」


 エドが何かを決断したような顔つきで言って来る。わたしは彼がどこか遠くに行ってしまいそうに感じて彼の袖を掴んだ。


「それはわたしひとりでは叶えられないことよ。あなたが側にいてくれなくては駄目なの」

「アリー」


 こんなにも側にいるのに彼はわたしとの間に見えない壁を築きつつあった。わたしはそれが寂しく思われて彼に縋り付く。


「お願い。エド。これからもわたしの側にいてくれるんでしょう?」


 そこへ屋敷の方からマーナの声が飛んできた。玄関先に立ってわたしを呼んでいる。


「アリーズさま。そろそろお支度のご用意をなさいませっ」


 ゆっくりとわたしから離れてゆくエドが口にしたのはごめん。と、いう言葉だった。




 わたしが王宮に付いた時、案内された謁見室には陛下と王妃さま。ジグモンド殿下にわたしの父と兄。そしてペーテル将軍にヴィルジニア、ヴィルジニアの許婚のダニエルに、フロアと宰相。エドと皆が揃い済みだった。

 久しぶりに会ったジグモンド殿下は少しだけやつれた様子でわたしを見る目に以前のような威嚇するような勢いはなかった。フロアと引き離されて離宮に監禁されてる間、何か思うところはあったのだろう。

進行役らしきエドはわたしの顔を見ながら言った。


「ではこれで皆さまお揃いですね」

「一体何事かね? シェルプト辺境伯。私まで呼び出して。まだ執務の途中なのだが?」

「そうだ。わしもまだ部下の鍛錬があると言うのに」


 それに対してエドのような若者にこの場を仕切られて面白くなさそうな宰相と将軍が不満を漏らす。エドは作り笑いを浮かべた。


「大丈夫ですよ。お二方のご指導の賜物で後任者は良く育ってますから。ほんの数時間、宰相様や将軍さまが抜けたくらいで機能しなくなる執務室や軍部なのですか? それはそれで問題がありますね?」

「いや。その様な心配はしていない」

「わしらを呼び出した用とはなんだね?」


 宰相と将軍は自分らを呼び出した理由を知りたがった。するとそこへ壇上の王座に腰掛けていた陛下から声が上がった。


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