3話・ドロップアウト致します
彼には連れがいた。彼はしつこいな。帰れよっ。と、連れに怒鳴っている。その連れはサッカー部のエースとして評判の名高君に、剣道部の伊達君、バレー部の赤坂君といずれも大翔君に負けず劣らずのイケメンメンバーだった。この三人もわたしと同じクラスだった。
その三人を引き連れて現れた大翔君はわたしを見るなり睨みつけて来た。
「……なんだ。おまえ」
「呼び出されたから来たんだけど?」
わたしを呼び出したくせに敵視する彼の行動が理解できない。あなたが呼び出したくせにそんな態度はないんじゃない? と、言えばますます嫌そうな顔をされた。
「俺しらねぇ」
「そんな……! じゃあ、これは何?」
あなたに呼び出された証拠があるんだから。と、制服のポケットのなかに入れておいた便箋を取り出し彼に突きつけた。それを見れば彼は言い逃れできないはずだ。わたしは彼の反応を待った。しかし、彼は平然としていた。
「悪いけどこれは俺の字じゃない。俺の字にしては丁寧過ぎる」
「ええ?」
彼はおまえは騙されたんだよ。と、同情の目を向けて来た。すると彼の背後で笑いが起きる。イケメン三人のものだ。
「なんだ。デブス。信じたんだ?」
「それは俺らの悪戯に決まってんじゃん。まさかデブス。告られるとでも思った?」
「現実見ろよ。力士。おまえみたいな女に惚れる物好きな男なんているはずないだろう。さっさと消えろ」
「デブスのくせに。逆上せやがってさ。マジうざっ」
「おまえみたいな女いるだけで害悪なんだよ。どっか行けよ」
その言葉に弾かれるようにわたしはその場を飛び出した。ラブレターは彼らの仕込みだった? 大翔君からのものと思い込んで浮かれるわたしをあざ笑っていたのだ。
「おい。待てよっ。そっちは……!」
背後から焦ったような声がしたが、坂道を転げ落ちるような勢いで走っていたわたしは気にも止めなかった。するとある場所まで来て木の根に足を取られたと思ったら体が浮いていた。
(どうして? わたしはいるだけで害悪なの? デブスってそんなに罪なの?)
「うあああああああああああああっ」
ここにわたしの居場所はない。そう思ったときには足が地から離れていた。坂道から外れ崖から足を踏み外したのだ。面白いように体が落下してゆく。もう助からないだろう。ああ、これで死ぬのだな。と、思う。
クラスの嫌われ者のわたしはこれでこの世から消え去る。そう思ったら自虐的な笑いが起きてきた。もうこれで誰にも何も言われなくて済む。脳裏に一瞬だけ両親や兄弟たちの顔が浮かんだけどそれだけだった。もう死に行くわたしに何が出来るでもない。
もし許されるのだとしたらもう一度だけ生をやり直したい。美人に生まれ変わって皆にちやほやされる生活を一度でいいから送りたかったな。
ねぇ神さま。今生のお願いだよ。せめて今度生まれ変わる時にはわたしの事を見た目ではなくて、ちゃんと中身を見てくれる素敵な男性と巡り会いたい。次の世では……
「し……しあわせ……な、り……た……」
遠くから焦ったようにかけてくる数人の足音がする。「お。おいっ、デブス。大丈夫かよ?」「おい。しっかりしろ! 力士」と、名高君と仲間の声を聞いたのを最期にわたしは目を閉じた。
「馬鹿だな。おまえ。死んだらお終いじゃないかよ」最期わたしを詰るような悲しむような声がしたような気がしたけどもういいよね。わたしこの世界とはおさらばしたい。もうドロップアウトしてもいいでしょう?
ねぇ、神さま。
わたしは悔し涙を一筋落としたまま前世を後にした。