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29話・コンさまは人気者♪

 目が覚めたわたしが開口一番に行なったのはエドへの非難だった。昨晩は散々体のあちらこちらをエドにつまみ食いされてけっこう際どい事をさせられた。今思い出しても顔が真っ赤になるぐらいに恥かしい思いだ。わたしがねめつけると寝台の上で狐の姿になったエドは平然と聞き流していた。余裕のある態度でまるでごちそうさん。と、でも言いたげに毛づくろいまでしていた。


「もお。エドったら。どうして今度は狐の姿になってるの?」

「この方が身軽だしな。そろそろマーナが起こしに来る時間だろう? もとの姿の方がいいならそうする。でもいいのか? 裸体を晒すことになるぞ」


 エドは挑発するように長い鼻先を寝巻きを着たわたしの胸元に突きつけてきた。それは困る。未婚であるわたしの部屋にエドが朝からいたらさすがに二人の仲を応援してるらしきマーナも良くは思わないだろう。貴族社会では未婚の異性が婚姻前にいかがわしい仲になってるのはよく思われないのだ。そのせいで許婚の殿下は我が家の使用人たちから屑扱いされてるというのにエドが昨晩から泊まり込んでたなんて他の使用人にも知られたなら彼の我が家での評判はがた落ちになるだろう。それも裸でなんていたら言い訳も通用しない。えっ。裸?


「どうして裸を晒すことになるの?」

「何も着てないからな。狐の変身を解いたら裸になるのは当然だろう?」

「でも侯爵さまがいらした時、変身を解いたらあなたは服を着てたじゃない?」


 わたしの指摘にちっ。と、エドが軽く舌打ちをした。彼にとってはわたしに気付いて欲しくなかったことらしかった。それでもぶっきらぼうに応えてくれた。


「あの時は服を着てた」

「じゃあ、これからはちゃんと服を着てから変身して」


 エドと額をつき合わせていると、マーナがやってきた。マーナはわたしの側にいる狐のエドを見て目を見張る。


「おはようございます。アリーズさま。コンはお山に帰ったのではなかったのですか?」

「ああ。その。顔出しに来たみたい」


 そうでしたか。と、マーナは淡々としていた。


「皆には内緒にしていたほうがいいでしょうね」


 と、彼女は呟いた。マロー侯爵が訪ねて来た日、尻軽王女が我が家に居つき始めたのでストレス溜まりまくりの侍女達は癒しを求めていた。わたしのもとにいたコンが密かに人気になっていたようでそれからコンの姿が見えなくなって皆に残念がられていたのだ。

 皆にコンの行方を訊ねられる度にわたしはコンは元気になったのでお山に帰ったみたい。と、答えていた。


「お食事はお部屋に用意しますね?」


 頼むまでもなく気の利くマーナはわたしの身支度が済むと部屋を退出して行った。なのに数時間後、わたしの部屋に侍女たちが押し寄せてきた。


「わああ。コンさまぁ」

「コンさまだぁ」

「いやあ。可愛い~」

「ずるい~。わたしにも抱っこさせて」

 かわるがわる皆でコンを抱き回す。どうしてこうなった? マーナに目を向けると申し訳ありません。と、謝罪を受けた。


「アリーズさまの食事を用意していたら皆が目ざとく気が付きまして。なぜ二食分用意するのかと」


 あっちゃあ。食事か。わたしはコンと同居するようになって毎食、二食分用意させていたのだ。理由は簡単。コンの食欲が旺盛だったから。

 可愛らしい見目で強請られるとあれもこれもと与え続けていたわたし。良く食べる狐だなぁ。と、思ってたけど当然だよね。中身はエドだったんだから。

 そのエドは皆に抱かれて嫌でもなさそうだ。良かったね。我が家の侍女達は発育がいいので昨晩、味見したわたしのより大きい子もいるしね。その胸が当ってご満足でしょう?

 なんだか面白くない。エドはわたしが好きなんじゃないの? 皆に抱かれてデレデレしちゃってさ。

 もお。いい。先に食べちゃおう。わたしがパンを手に取ってスープに浸してるとそれを見たコンが侍女の腕の中から飛び出してなああう。と、猫のように鳴きながら走りよって来た。


「なあに? これが欲しいの? コン。じゃあ、みんなに食べさせてもらえば?」

「にゅあわああん」


 なに抗議してるんだ。狐姿で鳴かれても意味がさっぱり分からん。マーナが視界の隅で他の侍女たちを部屋から追い出しにかかってるのを収めながらわたしは鷹揚にパンを口元に運びかけた。それを横から攫われる。


「コンっ」

「アリーズさまったら。コンに焼もちですか?」


 可笑しそうにマーナに指摘され、わたしは膨れた。


「そんなんじゃないわよ」

「あれは不可抗力ですよ。皆に囲まれて体を抱き上げられたらコンだって逃げようにも逃げられませんもの」

「マーナはコンを庇うの?」


 マーナはエドの味方なの? と、不貞腐れるとあらあら。と、笑われた。動物苦手なマーナまでこの愛らしい姿でエドは魅了してしまったらしい。ますます面白くない。


「お嬢さまはそんなにもこのコン君がお好きなのですね?」

「きゅうわあああうん」


 脇でもっとくれ。と、切なそうな鳴き声が上がる。円らな瞳と可愛い前足に急かされてわたしは渋々スープにもう一枚パンを浸してコンの前に差し出した。


「分かったわよ。はい」


 ぐるるるるる。と、喜びいさんで頬張るコンに誰も取らないんだからゆっくり食べれば? と、言うとちらりと一瞥された。


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