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20話・賢い狐さん

  翌朝。わたしはべろりとざらざらした砂をまぶしたガムテープのようなもので頬を拭われたような感触に驚いて目を覚ました。目を開けるとそこにいたのは白金の毛に覆われた美しい生き物で舌なめずりしてわたしを見ていた。ざらざらしたものとは狐の舌だったようだ。


「おはよう。起こしてくれたの?」


 わたしの挨拶に頷くように狐が頭を下げる。ますますもって愛らしい。見つめるわたしの鼻先に狐が自分の鼻を押し当てて来た。金色の円らな瞳と見つめ合っていると、誰かに似てるような気がしないでもないがそれが誰だか思い出せなくて変な気がした。

 わたしが身支度の為にベッドから離れ狐を抱き上げたところでマーナがいつものように入室して来た。


「おはようございます。アリーズさま。今朝はお早いお目覚めで……って。ひぃい。それは……?」

「おはよう。マーナ。狐よ。昨日の晩、嵐で迷い込んだみたい。元気がなかったし怪我もしてたから保護したの」

「……そうでしたか。びっくりしました」


 マーナはわたしの胸もとの狐を見て悲鳴を上げかけた。狐はマーナの声に驚いたらしくわたしの腕のなかから足元へと飛び降りた。彼女は動物が苦手なのだ。我が家の狩猟犬なども離れた場所で見る分にはいいのだが、直接自分から近付いたり出来ないし生き物に側に来られると固まってしまう。

ふだんはいるはずもない動物をわたしが抱っこしていたのでかなり驚いたようだ。


「朝からビックリさせてごめんなさいね。でもマーナ。この子賢いのよ。なんだか人の話してる言葉が分かるみたいなの」

「まさかそんな。気のせいでは? でも保護といっても元気になったら外に放たれるのですよね?」


 マーナはわたしの足元の狐に目を留めていつまで狐を側に置かれるつもりですか? と、怯えた様子で聞いてきた。そんなに怖がらなくてもいいのに。



「ええ。もちろんよ。この狐さんの怪我が治ったらね」

「怪我してるのですか? 元気そうに見えますけど? アリーズさま?」

「今は毛がふさふさしてるからそう見えるけど、肌には傷があるはずよ。昨晩、洗ってあげたから分かるわ」

「さようですか」



 マーナの態度がギクシャクして見えてわたしは笑った。そこに狐が可愛い声でにゃわわわん。と、猫の鳴き声に似た声をあげた。



「まあ。狐の鳴き声って初めて聞きました。猫みたいですね?」

「そうね。可愛い声ね」



 狐は猫が甘えて媚びるようにわたしの足に体を擦り付ける。



「珍しい。ずい分と人馴れした狐ですね? アリーズさまのことを気に入ってるようですわ」

「この子、誰かに飼われてるようなの。保護した時に首輪をしてたわ。それとなくどこかのお屋敷でペットが逃げて困ってるような話がないか調べてくれる?」

「分かりました。でもこの王都にお住まいの貴族のお屋敷で狐を飼ってる奇特なお方なんて聞いたことありませんわ」



 狐を飼ってるなんて珍しいから話題に上がっても良いくらいですけどね。と、マーナは言う。



「もしかしたらどこか商人にでも捕獲されていてそこから逃げ出したのかも知れませんね」

「捕獲?」

「狐の皮をはいでマフラーにしたり剥製にするためですよ」

「やだわ。そんなの。こんなに可愛いのに……」

「無理もありませんわ。その狐はとても毛並みがいいでし、白金色だなんて珍しい色をしてますもの」



 狐はきょとんとわたしの顔を見上げる。わたしは身を屈めた。そこに狐は前足をかけてぺろぺろとざらざらした舌で舐めてくる。頬に息と長いひげが当たる。



「ふふふ。くすぐったい」

「よっぽどお嬢さまはその狐が気に入ったようですね?」

「ええ。毛を刈られたり剥製にされるぐらいならわたしがその子を飼うわ」

「そう言うと思いましたわ」



 マーナが呆れたような目を向けてくるがわたしは気にしなかった。まだ狐を気にしてるマーナの為に狐をベッドの上に乗せここで待っててね。と、声をかけると大人しく狐はお座りして待ってるようだ。



「まあ。賢い狐ですね?」

「そうでしょう?」



 マーナの狐への心証は良い方へ傾き始めてるようだ。鳴き声からして愛らしくそう警戒する動物でもないと彼女は思ったのかもしれない。わたしは狐が褒められるのは自分のことのように嬉しく思った。わたし達が話してる間、狐は大人しくその場に座って毛づくろいをしていた。



「そう言えば狐の首輪はどうなさったのですか? もしかしたらそれに飼ってる方の手がかりがあったかもしれませんわ」

「体を洗ってあげた時に外したの。あら。どこに行ったのかしら? 確かこの辺りに置いたと思ったんだけど」

「アリーズさま。後で探しておきますわ。もしかしたらどこかに落ちてるかもしれませんし」



 浴室に入る前に外した首輪をドレッサーの上に置いていたはずが無くなっていた。探すわたしをマーナが止める。



「それよりもアリーズさまはお着替えをなさいませ。あら。アリーズさま。虫さされですか? 鎖骨の辺りが赤くなってますけど」

「えっ?」



 姿見の前で着替えさせられていたわたしはマーナの目線を追って唖然とした。そこは昨晩、夢の中でエドに強く吸われた場所だ。


(う。うそ……。なんで?)


 エドが残したキスマークが存在を主張するようにそこに残されてあった。マーナは不思議そうに首を傾げた。



「昨晩、エドバルトさまとお会いになりましたか?」

「夢でなら会ったわよ。エドには現実では会えてないけどね。それに昨晩はこの子といたわ」

「そうですよね。昨晩は風が激しくてとてもエドバルトさまが忍び込んで来れる様な状態でもなかったですしね」

「やだ。何言うの? マーナったら。虫刺されに決まってるじゃない?」



  わたしはあり得ない。と、顔の前で手を振った。いくらなんでも昨晩の嵐のなかを忍んで来るだなんて危険過ぎる。夢でエドにされた痕がわたしの体に残されてることが不思議でならないが、恋する乙女には奇跡でも起きてしまうのだろうか?

 釈然としない思いを抱きながらもわたしはベッドの上でにゃあうん。と、甘えたように鳴いて来る可愛い存在に目を留めたら他のことはどうでも良くなってしまっていた。




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