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15話・グラスから零れた水は元には戻れないものです

 そのヴィルジニアから話題を振られてダニエルは固まった。殿下付きから外されたダニエルは将軍家で花婿修行に入っていた。頭や腕に包帯を巻いてるが服のなかも恐らく痛々しいことになっていることだろう。それは恐らく将軍やヴィルジニアに鍛えられている成果だ。

 ただしヴィルジニアの場合は危うくギタ国の王女とベットインしかけたダニエルへの罰のようだが。

わたしは涙目になりかけているダニエルに少しだけ同情した。あれでは剣の腕があっても一生、ヴィーには頭が上がらないだろうな。わたしが復讐しようとしなくとも彼はすでにヴィーから制裁を受けている。  きっとヴィーのことだから簡単には許さないだろう。いい気味だわ。伊達君。



「あなたから殿下にそれとなく促して差し上げてもいいのではなくて?」

「いいのよ。ヴィー。わたくしは何の期待もしてないわ」

「アリー」



  殿下からわたしに謝罪させろ。と、ヴィルジニアは優しい口調で言いながらもじろりとダニエルを睨む。それを止めたわたしを悲しそうに見てから彼女は「全く不甲斐ないんだから」と、ダニエルを詰るように言い、彼はヴィルジニアにすがるような目を向けていた。

 こんなカップルもありなんだろうな? と、思ったら思わずわたしは口にしていた。



「あなたたちは仲が良くて本当に羨ましいわ」

「アリー」

「……どうしてこうなっちゃったのかしらね?」



  わたしたち。と、言う部分は口に出せなくて飲み込んだ。それでもふたりには伝わってしまったらしい。ヴィルジニアが今にも泣きそうな顔をしてるのでそれはわたしの役目のはずよ。と、心の中で思う。

 悲しいことに前世を思い出した今となっては殿下に対する特別な思いは失せている。それなのに目の前のふたりが羨ましいと思ってしまうだなんて。よっぽどわたしはふたりに当てられてしまったらしい。

 そろそろ帰ろうと思いヴィルジニアに言う。



「わたくしこれで失礼させてもらうわ。ヴィー。帰りの馬車をお願いしてもいいかしら?」

「もちろんよ」

「あの。アリーズ嬢」



 立ち上がったわたしを呼び止めるようにダニエルが声かけてきた。



「何かしら?」

「あの日の婚約破棄の件は済まなかった。俺が殿下を止めるべきだったんだ。今更謝っても仕方ないことかもしれないが……」

「そうね。今さらだわ。そのことでの謝罪はいりません。殿下のお気持ちはよおく分かってますから」

「アリー」

「アリーズ嬢。俺がなんとか殿下を説得する。だから殿下のことを見捨てないでくれ」

「見捨てたのはあなた方ではなくて? グラスから零れた水はもとに戻せなくてよ」



  ヴィルジニアの手前だけどわたしは容赦しなかった。ダニエルも結局は殿下の言いなりになってわたしをこき下ろして来た中の一人に過ぎないからだ。幾らヴィルジニアの彼氏だからといってわたしはそこまで甘くない。彼への仕置きはヴィルジニアに任せるとしてもわたしにはまだやることがある。

  それが殿下を追い詰めることになると悟って、ダニエルはわたしに言ってきたのかもしれないけど反省するにも行動起こすにも遅すぎたのだ。

 あなたがた取り巻きがわたし達の仲を取り持つような働きをしてくれたなら少しは今のわたしの関係は違ったものになっていたかも知れない。でもそれは所詮、可能性でしかない。こうなった今は修復も難しい。と、言えば彼は押し黙った。


「もう何もなさらないで。わたくしのことは放っておいて下さる?」


 わたしは後を振り返らなかった。わたしのリベンジは動き出している。今更情に訴えられてもわたしの心は一ミリも揺るがない。殿下には確実に止めを刺したいのだから。





  その帰り道、わたしは馬車に揺られながら何気なく窓の外から景色を眺めていた。将軍邸を出てしばらくゆくとこの間、わたしが殿下に呼び出されてダニエルに婚約破棄宣言された薔薇公園が目に入って来る。その薔薇公園前で見覚えある男性とその傍らにいる女性を見て瞠目した。


「あれは…!」


 そこにはエドとあのギタ国の王女がいた。王女にわたしは直接会った事はないが、ヴィルジニアから王女の容姿とかは聞いていた。彼女の姿を見てまさか…と、思う。

 彼女はエドを前にして頬を赤らめていたように思う。わたしは遠ざかってゆくふたりの姿に急に胸がざわめき出して堪らなくなった。



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