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14話・わたしの友人はすごい人

「その後、殿下とはどうですの?」

「どうと言われても何も変わりませんわ。わたくしは嫌われてますから……」

「そんな。あんなにもおふたりは仲が宜しかったのに……これと言うのもあの尻軽王女のせいですわね」



  わたしの言葉を聞いて目の前の可愛いらしい令嬢が憤慨してみせる。彼女は王宮の勢力を宰相と二分するペーテル将軍の末娘でわたしとは幼い頃からの付き合いがあり親しくしていた。わたしにとって数少ない友人の一人だ。

  彼女はわたしに代わって憤っていた。そんな彼女に心の中で感謝しつつ、わたしは彼女を宥めにかかった。



「ヴィー。こればかりは仕方ないわ。恋とは突然始まり突然終わるものらしいもの。わたくしの場合は殿下のほうが先に冷めてしまっただけ。ねぇそうでしょう? ダニエル?」

「は。はい……」



  わたしはあてつけるように自分の座っているソファーとは真向かいの席に彼女と並んで居心地が悪そうに腰掛けている殿下の乳兄弟のダニエルに話を振った。頭と腕に包帯を巻いているダニエルは振り子のようにコクコクと顎を下げる。それを見てわたしはヴィルジニアと目配せあった。


  殿下が離宮に謹慎を命じられてから一ヵ月後、わたしは友人のヴィルジニアの招きでペーテル将軍邸を訪れていた。ヴィルジニアは父親似の茶髪に黄緑色の瞳をしてるが剛健な父親とは印象が違い、優しい心根がそのまま顔に現れたような可愛らしい少女で殿下の乳兄弟のダニエルとは許婚の間柄だった。


  実はこの二人の縁を取り結んだのはわたしだったりする。彼女は幼い時から将軍に連れられてたびたび王宮に来ていた。将軍は宰相と敵対していた為、宰相が自分の娘をぜひ王太子殿下の許婚にと陛下に申し出ていると聞きつけた将軍は、自分の娘をその対抗馬として殿下の元へ遊び相手として連れて来ていたつもりだったろうが、当人の目は父親の思惑に反して常に殿下よりもその側にいる者へと注がれていた。


  そのことにいち早く気が付いたわたしは彼女の気持ちを確かめた後、懇意にしている王妃さまに彼女のことを吹き込んだ。彼女は心優しい少女です。どうも彼女はダニエルのことを慕ってるようですと。

 その後、王妃さまの口利きでヴィルジニアはダニエルの婚約者に納まったのでそのことで彼女はわたしに強い恩を感じてるらしい。あの頃のわたしはお節介だった。殿下とラヴラヴだったので自分達の幸せのおすそ分けをしたくなったのだ。ダニエルとヴィルジニアは互いに好意を持ちながらもそっけない態度で接していたので見ていてじれったくなったのもある。

 

  だからそのことでヴィルジニアがわたしに恩を感じる必要はないと思っている。逆にわたしは彼女のおかげで足をすくわれそうになったのを回避できたのだから。



「殿下はアリーに謝罪一つないんですの? ダニエル。どうしてかしら?」

「そ。それは……」

「はあああ。殿下のお側にいたくせに使えない人ね。 あなたは何の為に殿下付きの騎士になったの? ここに居られるのも誰のおかげだと思ってるの? 少しはアリーの為に何か恩返ししたいとか思わないわけ?」



 ヴィルジニアはダニエルを「この木偶の坊が」と、ねめ付けた。こんな時のヴィルジニアは大層怖い。ダニエルは震え上がった。

 

 ダニエルは離宮に殿下が移ってから側付きを外されていた。もちろんわたしが陛下たちに進言したのもあるが、彼も例の王女の毒牙にかかりそうになっていたのだ。それを彼の場合は都合が悪い事にたまたま宮殿を訪ねて来たヴィルジニアに目撃され、王女と合体する直前に部屋の中に踏み込まれた上に「ぶった切ってやる!」と、逆上した彼女に剣を突き付けられた。その時、彼は激高した彼女の恐ろしさに思わず失禁してしまったらしい。


  許婚に踏み込まれて王女を庇うことなく逆に許婚に「命ばかりは助けてくれ!」と、必死に取り縋った彼は、一時の誘惑よりも計り知れない今後の恐怖を恐れた。風船のように軽い尻軽王女よりも表向きは菩薩でありながらその実は鬼神のような許婚を選んだのだった。仕出かしたことはとても容認できないけど懸命な判断を彼はしたと思う。これで王女を選んでいたらわたしも友人を傷つかせた彼を許せずにいたに違いない。


 そのことは緘口令が敷かれ(もちろんわたしが指示したんだけど)公になることなく事なきを得たわけである。


 ヴィルジニアは清楚な令嬢で大人しめの見掛けとは違い一旦キレると手に負えなくなるのだ。さすがは恐るべし将軍家。幼い時からヴィルジニアは将軍から直接手ほどきを受けてきたらしい。英才教育である。二歳のときから泣きながら剣を握らされていたというから幾ら騎士のダニエルでも敵わないわけだ。


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