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13話・持ってる男


「殿下の留守にどうも決まって訪ねてくる方々がいたようです。その方たちは王女殿下と長時間ふたりきりで過ごしていたそうです」

「つまりあの子の他にも他の男性を引き込んでいた可能性があると言いたいのね? 辺境伯は」

「はい。それと先ほど医師から王女が妊娠したと聞いて殿下が取り乱されておられたようですが、それにも理由がありましてここにいる医師から聞いて頂ければ分かりますが殿下は避妊薬を処方してもらっていたのです」



 エドはこの場にまだ残っていた医師を振り返った。医師は頷いた。この為に実は医師には残ってもらったのだ。陛下は絶句する。



「なんと……!」

「それも数週間前からと言うことなのでおそらくその頃に殿下は王女殿下と関係を持たれたと推測されます」

「では王女のお腹の子は……ジグモンドの子ではないかもしれないと?」

「その可能性は高いと思われます」



  避妊薬を飲む前に子供はすでに出来ていたようだと聞かされて王妃さまはなんとも言えない顔をしていた。



「しかもその王女殿下の元を訪れていたというのが主だった方々で……、ギタ王女は我が国の宰相とも結び付きがあるようです」


 ギタ王女が王宮内で勢力を二分する者の一人である宰相と繋がりがあるようだとエドから聞かされた陛下はううむ。と、うなり声を上げた。


 殿下と懇ろな仲になっているギタ王女が宰相と手を組んでるようだということは意図的な要素が感じられる。そしてその王女が身ごもった。と、言うことはそのことを理由に王太子との結婚を求めてきてその後見として宰相が立つ可能性があった。と、言うことだ。

 宰相はおそらく自分の娘が殿下の許婚になれなかったことで他の手を考えて来たのだろう。ギタ王女とはどのような縁故があるのかは分からないが。

 医師が退出した後で陛下はエドに礼を述べた。



「よく気が付いてくれた。辺境伯。礼を言う」

「さすがは辺境伯ね。我が国の守護神だわ」

「恐れ入ります」



  エドは陛下達の信頼が厚いようだ。その割には今まで彼と顔を合わせたことが一度もなかったことが不思議に思われるけど。

 わたしの怪訝そうな思いが顔を現れていたのだろう。王妃さまがくすりと笑いを漏らした。



「あらあら。アリーズは辺境伯のことが気になってるみたいね。エドバルトは素敵な若者ですもの。無理はないわね」

「王妃さま」

「エドバルトはね、辺境伯の地位を賜っているけど実質上は王家に仕える間諜の長でもあるのよ」

「そのような重要なことをわたくしが聞いても良かったのでしょうか?」



  陛下の直属の間諜がいるのはわたしは知っていた。でもその正体を知るのはごく一部の者になるはずだ。エドがその間諜だとは知らなかったけど、王妃さまの守護神発言と彼の情報力やそれを疑いもしない陛下たちの態度でなるほどと思ったものの、王家の者でもないわたしが知っていいのだろうか? と、思うと王妃さまは頷いた。


「アリーズあなたなら他の誰かに口外なんてしないでしょう? それにあなたたちは今日が初対面ではないみたいだけど?」


 王妃さまは良く見ている。わたしがエドが入室してきた時の態度から何か感じ取ったのだろう。わたしは観念してエドとの出会いを打ち明けることにしたが、先にエドが口を割っていた。



「こちらのアリーズ嬢とは数週間まえに薔薇公園でお会いしました。殿下の遣いの者から婚約破棄されているのを目撃して以来、お声をかけさせて頂いてそのときから親しくさせて頂いております」

「そう。薔薇公園での一件でも申し訳ないことをしたわね。アリーズ。あなたにはいくら謝っても謝り足りないわ」

「王妃さま。頭を上げてください。もう終わったことですから」



  王妃さまには先ほどの殿下の発言の件といい、頭を下げられっぱなしで逆に恐縮してしまう。助けを求めるようにエドに目を向ければ苦笑いされた。そこを見ていた陛下が笑いかけてきた。



「それにしても辺境伯が他人に関ろうとするとは珍しいな。仕事柄、他人とは常に一線を引いてるように見受けられたのだが?」

「いけませんか?」

「いいや。その方が大変人間らしくて良い。そなたはこの国の最上級魔法使いでもあるからな。他人の心の機微を感じ取るのには敏感だが、どうも自分のこととなると無関心で他人と積極的に関わろうとしてなかったから王妃と心配しておった。でもアリーズといるそなたはなにも問題なさそうだ」



  エドの平然とした態度に陛下が言った。この国の陛下たちは面倒見のよいお方々だ。臣下のことまで気にかけてくれる。その陛下たちの一粒種があの王太子であるということには非常にお気の毒としか言いようがないが。

 でもエドが間諜の長である上に最上級魔法使いでもあるだなんて。どれだけ持ってる男なんだ。凄いな。エドは。


  わたしと何度か会ってたくせにそんなことは微塵にも見せなかった態度に感心する。わたしと目が合うとエドはガシガシと頭を掻いていた。照れてるらしかった。


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