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12話・愚かな息子はいりません

文面が一部変わっております。m(__)m

  陛下の親心も知ろうともせずにまだわたしを貶めることでしか救われない殿下がどうしようもなく滑稽に思えてならない。そこへ王妃さまから言葉が掛けられた。



「お黙りなさい。ジグモンド。なんと見苦しい。これ以上のアリーズへの侮辱はこのわたくしが許しませんよ。別にわたくしは次代の王はあなたでなくとも構わないと思っています」

「母上」

「幸いあなたの他にも優れた王子はいますしね。後継者には困りませんから」



  王妃さまは止めとばかりに釘を刺した。ここでジグモンド殿下が分かってくれなければ王妃さまは確実に殿下を廃するだろう。殿下は押し黙った。実の母の覚悟を聞かされて衝撃を受けたようだ。

 殿下には異母兄が一人いるがその兄は、陛下が即位する前に側に置いていた寵妃との間の子で王位継承権はなく、同腹の兄弟はいなかった。陛下は政略結婚をしたものの王妃さまを大事にして来たので、王妃さまの子である殿下を後継者に指名し、世継ぎとして将来を期待して来た。だが王妃さまは次代の王はわが子でなくとも構わないと言ってのけた。



「わたくしは幼い頃よりアリーズへ王太子妃としての教育と心構えを教え込んで来ました。アリーズはわたくしの教えを忠実に守りこんなにも素敵なレディーへと成長してくれました。それなのにジグモンド、あなたはなんです? 王太子という座に胡坐をかき、許婚への冒涜。あまつさえ無実の罪をでっちあげて犯罪者にしようとしました。こんな愚かな息子はいりません。

 わたくしには初めから娘しかいなかったのですわ。アリーズは心優しい娘です。あなたにいくら苛められようとわたくし達に告げ口することなく健気に尽くして来てくれました。わたくしのことを本当の母のように慕い懐いてくれました。わたくしには持病があってあなた以外の子はもうけられませんでしたが、それでもアリーズのような子に慕ってもらって嬉しかった。

 あなたは都合が悪くなるとわたくし達とは顔を合わせたくなくなるけどちっとも寂しく思われなかったのは、その代わりにアリーズが訪ねて来てくれて楽しい時間を過ごせていたからよ。わたくしはアリーズのことを実の娘のように思っています。その娘を悲しませるのは誰であろうと許さないわ。たとえ、それがお腹を痛めて生んだあなたであろうとね」


「母上」

「さあ。出てお行きなさい。あなたの顔など二度と見たくないわ。あなたの代わりは幾らでもいるけどわたくしの認めた未来の王太子妃はアリーズ以外にはいないのよ。この意味が分かるかしら?」



  最後の通達とばかりに王妃さまは念押しした。ジグモンドも今度ばかりは何も言い返せなかったようだ。実母から実の息子よりもアリーズを買っている。と、言われてしまったのだから。

 しかもわたしの替えはいないけど王太子の替えは幾らでもいると言われてしまったら実の母親に見放されてしまったようにしか思えなかったのだろう。言い返す気力も失せたような彼は衛兵に両脇を抱えられて大人しく去って行く。それを見送ったわたしは少しだけ溜飲が下がるような思いがした。



「アリーズ。済まなかったな」

「アリーズ。ごめんなさいね」

「陛下。王妃さま」

「そなたには長いこと辛い目にあわせてしまった。あれがまさか勝手に婚約破棄するとは思わなかった。その上、あのような女に誑かされてしまうとは…」


「アリーズを振ってあの女を取るなんてあの子、ほんとどうにかしているわ。でももうああなったら元に戻るのは難しそうね」

「陛下や王妃さまはわたくしのことを信じてくださるのですか?」

「もちろんだ。きみは余の義理とはいえ、娘になる予定だったのだからね」

「もちろんよ。あなたのことは側でよく見てきたもの。あなたはよく頑張って来たわ」



  わたしはブロワ王と王妃さまから謝罪を受けて驚いた。でもそれ以上に陛下たちがわたしのことを微塵にも疑ってなかったことが嬉しかった。陛下がわたしの為に殿下を殴り、王妃さまがわたしの為に殿下に言ってくれた言葉は胸に沁みた。わたしはまだ捨てたものではなかったらしい。


 見てくれる人は見てくれるものだ。そう言えばわたしが殿下の取り巻き連中には苛められて困っている時に、陛下や王妃さま付きの女官や衛兵たちが通りかかって助けてくれたことが何度かあったことを思い出した。それとなく陛下たちには庇ってもらっていたのだ。



「しかしあれは本当に馬鹿な奴だ。女に騙されて子供まで孕ませてしまうとは」

「陛下……」

「あの子がいつか目が覚めてくれたら。と、思っていたの。そしてあなたと……って。それなのにこんなことになってしまうとは残念でならないわ」



 わたしたちの結婚を待っていたらしい陛下たちには申し訳ないことをしたような気にもさせられる。でも殿下がしたことは到底わたしには許せる範囲を超えていた。

 それまで黙っていたエドが王妃さま達に訊ねた。



「ところでギタ国の第一王女の身柄についてはどうなされますか?」

「そうね。王太子は離宮で謹慎となったし、わたくしがお預かりしましょうか?」



  エドが陛下たちに問うと、陛下たちは目を見合わせ王妃さまが王女を預かりましょう。と、言い出した。主不在の宮殿に置いておくわけにも行かないし、お腹の子供のこともあるから国許に追い返すことも出来ないだろう。

 それに対し、エドは忠告した。



「では王女殿下の身辺も洗われたほうが宜しいかと思われます」

「……?」

「殿下の前で話すのは控えさせて頂きましたが、実は王太子さまのお住まいの宮殿で王女殿下に対してのあまり好ましくない噂が出回っておりました」

「どういうことかね? 辺境伯?」



  殿下が自分達に何の許可もなく勝手にギタ国の王女を自分の住まいの宮殿に住まわせ、子供が出来たとまで報告を受けたのにそれ以上の醜聞があるのかと陛下たちは顔を曇らせた。



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