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10話・わたしという悪女を作り上げたのはあなたです


「父上。母上。どうかお聞き下さい。この女はしかも黒魔女なのです。怪しげな術を用いてお二方の心を誑かしたに違いないのです。ギタ国では黒髪に黒い瞳の者は怪しげな魔術を用いる魔女なのだそうです。そしてそれらは妖術で人の目を欺き国に災難を呼び込む」

「ジグモンド。そなたの話は聞くに堪えん。アリーズをそれ以上、どうか貶めるような発言をしないでくれ。余はアリーズに申し訳ないぞ」

「わたくしもアリーズの悪口など聞きたくもないわ。止めて頂戴」

「父上、母上っ。信じてください。この女がその見た目に変わったのは罪深いからです。心根が穢れているからです。一刻も早くこの女を追放した方がいい。いや、断罪致しましょう」



  断罪? 物騒な言葉に震え上がるどころかわたしは一方的な批判に腹が立ってきた。売春婦の次に今度は黒魔女か? 妄想逞しい御仁だな。

 殿下の態度は幼子そのものだ。新しい玩具が手に入った途端、目新しいものに目を奪われて今まで手にしていた玩具は残酷にも捨て去ってしまう。


 わたしはこうやって捨てられるのか? それなりの容姿も立場も手に入れたけど所詮、名高君とはとことん憎しみあう仲なのだな。と、悟った。



「ジグモント。それは本心から言ってるのか? おまえはアリーズを大切に思っていたではないか? それなのに断罪だと?」


  陛下は息子である殿下の言葉を疑った。何かの聞き間違いではないのか? と、言いたげな様子だった。だけど殿下の気持ちは変わってなかった。そこにはわたしを追い込むような目つきをした前世の名高君がいた。



「はい。この女はこの国に災いを招く悪女なのです。このままここに置いてはこの国が滅びます」

「戯け者が。何を馬鹿なことを言っておる? アリーズは何もしておらぬではないか。妙な憶測で話すな」

「憶測ではありません。確かな情報です」



  話が段々と荒唐無稽になってきた。殿下の言ってることが支離滅裂にしか聞こえてこない。殿下は必死に両親を説得しようとしていた。この女は悪女なんだ。自分が言ってることが正義なのだと。だけど言い張れば言い張るほど陛下たちは落胆しわたしに同情の目を向けてくる。


 殿下は気が付かないのだろうか? 彼の言葉を借りるなら自分の行いこそがわたしという悪女を作り上げたと言うことに。これからわたしは容赦なくあなたの断罪イベントを行なおうとしていることに。

いや。あなたは気が付かない。気が付いた時には良くて離宮に監禁。悪くて牢屋行きでしょうね。

  収拾の付かなくなった場に第三者の声が背後であがった。その声に聞き覚えのあったわたしは弾かれたようにそちらを向き、皆の目が声の主へと移った。

 そこにはエドが立っていて王宮医師を連れていた。



「失礼いたします」

「なんだ。おまえは?」



  いきなりこの場に乗り込んできたエドに殿下が噛付くように言う。エドはそれには無視をして陛下や王妃さまに一礼をした。



「お久しぶりにございます。陛下。王妃さま」

「久しいな。息災であったか? 辺境伯」

「まああ。辺境伯。もっとこちらへ来て。お顔を見せて」



 自分を無視した相手が脇を通り過ぎ陛下たちの前に進み出ている。それが面白くなかったのか殿下は、わたしに入室してきて初めて声をかけて来た。



「あいつは誰だ?」

「シェルプト辺境伯さまです」

「ふ~ん」



  名前ぐらい覚えておけよ。と、内心思ったが、こいつは覚える気はなさそうである。いずれは王太子妃となったわたしに面倒なことは丸投げするようだったけど、婚約破棄が正式に通ればそれは叶わなくなるのだと分かっているのだかどうだか? たぶんそこまで考えてないな。殿下は。

 これからの展開を知って含み笑いを抑えるわたしに気が付かない殿下はぷい。と、横を向いた。わたしたちの前では親しげにエドが陛下たちと会話していた。



「それにしてもどうしたの? 辺境伯。あなたが王宮を訪れるなんて珍しいわね?」

「久しぶりに王宮の空気を吸ってみたくなったのですよ。そしたらこちらの医師と出くわしまして。なにやらお急ぎのようでしたからこちらへとご案内致しました」

「いや。その……殿下にお話出来ればと思ったのですが……」



 皆の目が医師に向き、案内されてきた医師は戸惑っていた。医師としては大事にしたくないことで本当なら殿下にコソッと伝えたかったであろう。でもそれはわたしのリベンジにとって欠かせないエッセンスとなるものだ。この好機をエドが見逃すはずもなく、医師はこの場に連れられてきてしまった。と、虫をかみ殺したような顔をしていた。

 陛下は医師が殿下に話たい事と聞いて不安が先に立ったようだ。先を促すように医師に問いかける。



「どうしたのだ? 遠慮は要らぬ。この場で申せ」

「はい」



 陛下の言葉に頭を下げて医師は報告した。



「フロア王女さまが体調を崩されまして診察致しましたら……」

「なに? フロア王女が? 彼女は無事なのか?」

「大丈夫です。今は安静をとってお休み頂いております」



 殿下がその名前に反応する。フロア王女とは今話題にあがったギタ国の王女のことだ。医師はわたしと目があい気まずそうに目を反らしたが、人を介して事情を知っているわたしとしては彼がそういう行動を取らざる得なかった事を知っている。


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