第2話 日頃の不満をぶつけてみた
この兄上は私が、と言うより木洩れ日が独身のうちは「万に一つの可能性に賭けて」独身を通していたのに、結婚後は人が変わったように次々と妻を迎え始めた。第一皇女を正室に、第二皇女は側室に、未成年の皇女たちとは婚約を交わした。さらに従姉妹始め皇族の血を引く女性を次々と側室に据えた。本人は「権力を集中させるため」と言うが世間の者は「皇太子様も、好色家であられた」などと噂する。
だが、本音はどうだろうか。ひょっとして、木洩れ日の脅威となるような血筋の女性を、私が側室に迎えることがないようにという配慮ではなかろうか。
そう考えると胸がキリキリと痛む。兄上と木洩れ日、二人の心は今も繋がっているのだろうか。
「木洩れ日、ちょっとこの赤子、抱いてもいいか。その、まあ練習だ」
「虹の皇子様、それはもしや、、、」
「うん。正室が懐妊した」
「おめでとうございます」
「本当か。それはめでたい」
ひとしきり兄上のことで盛り上がった後、私は話題を変える。
「私の子を生んでくれた貴女に、今日はお礼を用意しました」
私は木洩れ日に小箱を差し出す。
「ほう。白い金か。珍しいな」
「はい。腕の立つ職人に作らせた月の女神の耳飾りです。さあ、付けてあげよう」
木洩れ日の片方だけの落花生を外したとき、彼女は小さく「あっ」と声を上げたような気がした。またもや胸が痛む。一組の耳飾りを分け合う木洩れ日と兄上。私はずっと不満に感じていたのだ。
「よく似合うよ。木洩れ日さん。これは、兄上にお返ししよう」
私は黄金細工の落花生を兄上に握らせる。
「石っころ、お前」
「ところで木洩れ日さん、兄上のことは皇太子様とお呼びして下さい。兄上は昔からご自分の名前がお嫌いで、誰にも名前を呼ばせなかったのですよ」
「オレが許したんだ」
「あり得ません。未だご正室ですら殿下呼びしか許されていないと聞きます。弟の妻が名前呼びではおかしいでしょう」
「それは、、、申し訳ございませんでした。岩の皇子様」
「木洩れ日、やめろ」
「この際ですから兄上にも申し上げます。私の妻を名前で呼ぶのはやめて頂きたい。誤解を招きます。木洩れ日は兄上が、側室の一人にさえしたくないと捨てた人です。気を持たせるのはやめて下さい」
「捨ててないぞ。木洩れ日の前でそんな言い方するな。オレは正室にしたいと言ったんだ。お前が横からさらっただけだろう」
「もう、止めんか」
「おめでたい日に何を言い出すのですか、あなたは」
父上母上に止められて私はそれ以上言うことができなくなった。