神たちのぼやき(ショートショート36)
ある料理屋の一室。
そこに貧乏神、疫病神、死神、福の神……四人の神たちが鍋をかこみ、先ほどからなにやら談義をしている。
年に数回、彼らは情報交換をかね、こうして食事会を催していたのだ。
集まればとうぜん酒も飲む。そして酒が入れば、ぼやきのひとつも出るとしたものだ。
死神が疫病神に向かってぼやいた。
「人間の命をうばうのは、なんともつらいものだ。疫病神さんはいいですな。病気にする、それだけですむのですから」
「とんでもない。病気で苦しむのは死ぬよりつらいことなんですよ。だれもが苦しまずに死にたいでしょうからね。その点、貧乏神さんはいいですなあ。たかだか貧乏にするぐらいですから」
疫病神は貧乏神に向き直って言った。
「それは誤解ですよ。私にとり憑かれた者は、いつだって苦しむことになるんです。ところで、福の神さんは楽ですなあ。なにもしなくても、そばにいるだけで喜ばれますので」
貧乏神が福の神の顔を見て言う。
「なんということを。人間に福をもたらすには、それなりの金が必要なんです。その金を稼ぐのに、わたしがどれほど苦労していることか」
福の神は大きなため息をついた。
結局のところ。
人間界にいる下っぱの神たちが、天上界の神にこき使われ苦労する。宮仕えはつらいものだ……という結論に至った。
と、そこへ。
この店のオカミがやってきた。
畳に手をついて深々と頭を下げる。
「このたびは当店をご利用いただきまして、まことにありがとうございます」
礼を述べ、オカミは言葉を続けた。
「聞くとはなしに聞こえたんですが……。宮仕えをなさってるって、皆様、会社づとめなんですね?」
「まあ、そのようなものだが……」
福の神が代表して答える。
「それはたいへんでございますね。でも、うちみたいな料理屋はもっとたいへんなんですよ。皆様がお酒を飲んでるときにも、こうして働かなくてはなりませんもの」
オカミはそこまで言ってから、
「あら、すみません。あたしったら、ついぼやいちゃって」
笑顔になり、あわてて口元を押えたのだった。