閑話 ある女子大生の人生
その日一通の封筒が届いた。中身は念願の内定通知書、それを受け取ったのは一人の女子大生だった。
「やった!内定取れた~良かった~!」
都内で一人暮らしをしている彼女の部屋は質素、とは言えないくらいに物が溢れている。殆どがマンガやアニメ、それに複数のゲームである。彼女の趣味はゲーム全般、アニメも大好きで所謂オタクという人種と言ってもいいだろう。
そんな彼女が内定を取った会社はゲームの攻略本等をメインに扱っている出版社である。さすがにゲーム自体を作る事は出来なかったが、それならば少しでも自分が好きな物に触れられる職場がいいと考え、そういった業界をメインにし、今日やっとその一つで内定を貰えたのだ。
「良かった~これでこれからは好きな物を仕事に出来るんだ~」
彼女の人生は少々複雑であった。彼女の父親はゲームが生き甲斐と言っていい程のゲーム好き、必要最低限の愛情表現はしっかりと受けていたが、家庭内での母親と父親の仲は決していいものではなかった。最終的に両親は離婚して父親は家を出た。悩んだ挙句大学は実家とは離れた場所に決め、彼女も家を出る事になり、家族はバラバラになってしまった。
一般的な目線で見れば彼女は不幸な女の子に見えたかもしれない。しかし当の本人は全くそう思っていなかった。思春期の程よい距離感がそうさせたのか、それとも他に要因があったのかは本人にしか分からないが、彼女はしっかりと両親から愛されていると感じていた。ただ父親は少し不器用なのだと、それくらいにしか思っていなかった。
「あ~来年の入社が待ちきれないよ~お母さんもお父さんも喜んでくれるかな~」
彼女がどうしてゲームが好きになったかと言うと単純に家庭環境だろう。母親も元々ゲームが好きだし、父親は言うまでもない。家の中には沢山のゲームやマンガがあった、彼女がそれに惹かれるのも当然と言える。最初の頃は母親もいい顔はしなかったが私が楽しそうにしているのを見ているうちにいつの間にか許してくれていた、それに偶に一緒に遊んでと言うととても喜んでくれた。
勿論、運動もしっかりとやっていた。父親も母親もゲームをするならちゃんと運動しないとダメだと言って自分達も毎日ジョギングしていたし、身体を動かすのは好きだったので家でゲームをする分、学校では真面目に部活動に取り組んだ。
「内定も決まったし、ちょっとくらいならゲームしてもいいよね。最近発売されたVRMMO気になってたんだよね、今後の仕事に関係するかもしれないし触っておいた方がいいよね」
半ば強引な感じもするが就職活動中はゲームをする時間を減らしていたし、業界に就職が決まったのだからゲームをするのは何もおかしくないと言い聞かせ、その場でネットの検索を始める。
「それに今の内に体験記みたいなの纏めておけば何か役に立つかもしれないしね!そうしよう!」
よく読んでいる雑誌にも実際のプレイ日記なんかが掲載されているし、今のうちから書いておけば採用して貰えるかもしれないという甘い考えもあったのだが彼女は自分のプレイを記事に纏める事に決め、気になっていた幻想世界Onlineを予約した。どうやら数ヶ月待ちのようだがそれくらいなら待てる、それに就職活動中に積んでいるゲームも消化したかったので丁度いいと思った。
「取り合えず、お母さんとお父さんに連絡しないとね・・・内定決まったよ、っと」
母親からは直ぐに電話が掛かってきて、もの凄く喜んでもらえた。父親からも夜にメールが入っていた。
「良かった、喜んで貰えた。そういえばお父さんはこのゲームしてるのかな?ううん、絶対してるよね、お父さんこういうの絶対好きだし。ゲームの中で会えたりしないかな~」
そして、その想いはきっと遠くない未来で叶う事になるだろう。
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次回から 第二章 中央大陸編 となります。