プレイ9日目 後半
夕食後はまずエルフの里の散策に出る。多分私がこの里に来た最初のプレイヤーだろう、そう考えるとなんだかわくわくする。
「なにか美味しい物があるといいんだけどな」
さすがに今までの街程人が居る訳ではないが、宿屋には食事処も併設されていた。エルフは野菜のイメージがあったが肉や魚のメニューもちゃんとあるみたいだ。
「女将さん、オススメの料理を貰えますか?」
「おすすめだと、エルフサラダにグレーターケッコーの照り焼き、それにパンでいいかしら?」
エルフの食事処の女将さんはよくいる食堂のおばちゃんというよりも、ちょっといいレストランの給仕さんという感じだった。エルフサラダはこの里で作った野菜と森で取れる食材を使った伝統料理で、グレーターケッコーは森に生息する鳥型のモンスターだそうだ。名前から察するに始まりの街で食べたケッコーの上位種だろう。
「美味しいです!」
グレーターケッコーは本当に美味かった。今まで味わった事のない深みのある味わいで噛む度に肉汁が溢れてくる、簡単に噛み切る事が出来るほど柔らかく、現実の食べ物で言い表すのは難しい。それにサラダもシャキシャキで瑞々しく、甘い。それに照り焼きと一緒に食べると旨味が更に増す。こんな美味い物があるなら何度でも訪れたいと思える。
「そんなに喜んで貰えるなんて嬉しいですよ。他にも美味しい物はありますから、是非色々と食べて行って下さいね」
取り合えず、数日はここにお邪魔しようと思う。それくらい感動した。
「試練もあるし、ここを拠点にするのも大いにありだな・・・」
宿屋を出ると100m程先が村の入り口になっているので、まずは門番の所に行ってドルテムの居場所を聞いて様子を見に行ってみる事にした。どうやら診療所に居るようだ。
「ドルテムさんがここに居ると伺ったのですが・・・」
「私はここだ」
声が聞こえた方へ行くとドルテムがベッドに寝ていた。ちらっと見えてしまったが足は治っていないようだ。
「足はな、この里では治せる魔法使いがいないのだよ。里の秘法を使えば治す事は出来るが、私が使う訳にはいかないのでな」
私が下を向くとドルテムは続けて言う。
「なに、義足があれば生活だって出来るし、仕事だって何か出来るだろう。そう悲観するものでもないさ」
そうやって笑うドルテムの顔には悲観的な感情は見られなかった。エルフの里の義足はいいものがあるんだぞと教えてくれた。
「そうだ、里の案内をしよう。どこか見たい所があれば連れて行くぞ。身体自体はすっかり治っているからな、動かないと鈍ってしまうよ」
「ありがとう。一人でどうしようかと考えていたんだよ」
実際、初めて来た場所、しかもこの閉ざされた里で他人に話し掛けるのは勇気がいる。エルフはどちらかと他人には厳しいのだ。私は同族という事でそこまで邪険にされる事はないが、それでも里の外の人間として見られる。
「まずは木工が出来る場所があれば案内して貰えないか?」
この里にはギルドに属するような施設はない。なので生産の施設を紹介して貰う必要があった。それにこの里独自の技術や素材があればそれにも興味がある。
「分かった。この里一番の職人の店に案内しよう。私の義足もそこで作って貰う予定なのだ」
案内されて向った店には様々な木工細工や家具、武器等が置かれており、そのどれもが見事な作品だった。紹介された店主は300歳程のベテランのエルフの男性だと言う事だが見た目は私と殆ど変わらないように見える。
ちなみに幻想世界Onlineのエルフの寿命は500年程らしい。ドワーフは200年、人族と獣人族は100年程に設定されている。
「クラフさん、彼が私を助けてくれたハントです。木工に興味があるらしく連れて来ました。良ければ見せてやってくれませんか?」
「そうか、ドルテムを助けて頂き感謝します。どうぞご覧になって下さい」
ドルテムも交えて作品の説明を受けながら店を見せてもらう。やはり殆どがこの森で取れた木材だそうで、かなり品質が高い事が分かる。何か秘訣があるのか聞いたら快く教えてくれた。
「実は精霊の加護を受けた者が採った木材は品質が良くなるのです。なぜならこの森は精霊の力が特に強く、より良い木を教えてくれて、一番いい状態の木を手に入れる事が出来るからです」
更に説明は続く。
「更に、この里にある世界樹の若木の側で精霊の力をより浴びた木をエルフウッドといい、最高の木材と呼ばれます。その木材で作った武器はより強い魔力を帯びた強力な物になるのです」
世界樹という聞き逃せないキーワードが出たので更に突っ込んで質問する。
「世界樹の若木とは、1本の世界樹から各地のエルフの里に株分けされた御神木です。そして世界樹はこの世界の始まりから存在すると言われる大木で、精霊の聖地と呼ばれている場所です」
是非いつか見てみたいものだ。世界樹はこの大陸ではなく、中央大陸と呼ばれる場所の中心にあるらしい。つまり、この世界はまだまだ見る場所や知らない場所があるという事だ。現在公開されている情報では他の大陸の存在は殆ど語られていない。
まだ正式サービス開始から10日程しか経過していない為、そこまで進んでいないというのもあるが、もし他の大陸に行けるのならば是非とも行きたい。
折角なのでエルフウッドを分けて貰えないか聞いた所、精霊の試練を乗り越えた物にはその証として1本の枝が渡されるらしい。それ以外の方法では里の外の人間では手に入れる事が出来ないそうだ。
「そうですか、残念です。精霊の試練は受けられるようなのでもし手に入ったらどうするか考えて見ます」
折角なので弓と矢も見せてもらう事にした。弓は見事な物でまさに匠の技だった。矢はモンスターの素材がメインで使われており、森の奥に生息するホーンタートルの背中に生える固い棘を使う事が多いそうだ。ホーンタートルは物理攻撃にかなりの耐性を持ち、魔法が使えないと倒すのが難しいそうだ。しかし、その棘や甲羅はその防御力故に矢尻にするとこの森の殆どのモンスターを貫ける矢になるらしい。
他にも時間が許す限り色々な情報を教えて貰い、店を出た。
「次は錬金術を扱っている場所か、書物が読める場所はありませんか?」
料理は宿屋の女将さんに聞いてみようと思っているので、錬金術を教えて貰える場所か、情報を仕入れる為の場所に行きたい。もし書物があるならば、街で読めない本があるかもしれない。
「そうだな、錬金術は王都のギルド長に聞くのがいいだろう。次は書物が読める場所に案内しよう」
そういえばギルド長にここまで連れて来て貰ったんだった、里では作れないような薬を作れるのだから教えて貰えるのなら王都に戻って訪ねた方がいいだろう。しっかりとお礼も言っていないし、挨拶もしていないからな。
案内された場所は里長の家で、事情を知っているらしく快く許可してくれた。書庫にある本はどれでも自由に読んでいいそうで、本当にありがたい。
「ありがとうございます。沢山あるので明日も来ていいでしょうか」
「勿論じゃとも。試練の話しも聞いておる、その時までゆっくりするがよい。そなたにはドルテムと村を救って貰った恩があるからの」
確かに1日で読むのは大変な量があるのでお言葉に甘える事にする。試練についてもあらかじめ調べておきたかったしね。結局その日は里から出ること無くログアウトする事になった。
お読み頂きありがとうございます。
騎獣についても沢山のいいアドバイスを頂いてびっくりしました。
全ての方の期待に答える事は出来ないかもしれませんが、出来るだけ楽しんで貰える様に頑張ります。
ちなみに、精霊魔法より先に騎獣をとる予定だったのですが、アイデアに悩んだ為に精霊魔法からにしました。なので騎獣の回までは4~5話掛かりそうです。
リクエストがあった掲示板回については纏まった時間が取れる時に雛形を作ってみようと思います。