もしかして…
早希乃がシャワーを浴び終え、服に着替えたところで、太樹も浴室でシャワーを浴びていた。
(気持ちいいね。汗をかいた時のシャワーは)
太樹は水浴びをするのは嫌いだが、風呂やシャワーを浴びるのが大好きだ。当然、好きな温度はある。季節によって変わるが、夏だと、おおよそ三十七度前後と言ったところだ。
もちろん、今設定している温度も三十七度前後である。この熱すぎず冷たすぎない、ちょうど良い温度加減は太樹の汗などの汚れを落とすとともに、疲れも癒してくれる。太樹の表情はまさに、気持ちよさの頂点に到達している様だ。
(いつ以来だっけな。こんなに懐かれたように接してもらえるのは)
適温のシャワーを浴びながら、なんとも言い難い妙な感情に包まれていた。
好意的に接してもらえることに嬉しさと安らぎを感じていたが、人から好意的に接してもらえる感覚に慣れていない太樹は、まだ違和感を覚えていた。
(そうだったな。五歳か六歳の頃だった…。あの時も緑髪が美しい女の子だった………。早希乃さんはもしかして…………)
考え事をし始めたが、少しすると、シャワーを台に置いた。
「そんなこと、あるわけないか! 髪の色とか似てるけど、少なくとも、あの時の女の子はもっと大人しくて、博多弁訛りの喋り方をする女の子だった、はず」
悩みが晴れ、太樹はシャワーを浴びた清涼感を感じながら、浴室を少し出て、タオルと着替えを取り出した。
「あれ? 音が全然しない」
太樹は不安になる。浴室と早希乃がいるはずであるリビングはほぼ隣である。浴室に入っている間は聞こえないが、浴室の外に出れば何かしらの音はする。
つまり、しないということは、早希乃に何かあった可能性があるということだ。
「ど、どうしたんだ?!」
今すぐにでも確認したいが、服を着ずに男が、女性の前に出るのはどうかと思い、急いで着替え始めた。
急げ! 太樹!!