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choice02~球体の楽園~  作者: 陽芹 孝介
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独占欲の果てに…②

……陸の部屋……


突然の愛からの告白に、歩は戸惑った。

「死ぬ?…どういう事?」


愛は言った。

「私の余命は残り、1年なの…」


歩に言葉は出なかった。


愛は涙を流しながら続けた。

「でも、この世界に来てから…病気が治ったみたいに、体調が良くなったわ…」


そういえば亜美が言っていた。

「陸はこの世界に来てから怪我が治った」と…、愛の体調が良くなったのも…それが関係しているのか?


愛は続けた。

「陸の怪我が治ったと聞いて…私は、確信したわ…。病気が治ったと」


歩は黙って愛の話を聞いている。


「私は…この世界に来て、幸せを実感したわ…そして、あなたに出会えた…」


愛が歩の事を好いていた事は、歩自身も知っていたが…、まさか現実世界で病気を患っていたとは、思わなかった。


愛は興奮気味に言った。

「だから…私は…帰りたくないっ!帰ったら死ぬのよっ!あなたと生きれない…」


すると今まで黙っていた歩が口を開いた。

「君の気持ちは…わかった…」


歩は愛をじっと見て言った。

「だが、だからと言って…他の皆には関係ない話だ…」


歩の強い視線に愛は少し怯んだ。


歩は続けた。

「君のように、死に怯えて生きてきた人間を、俺は何人も見てきた…でも…」


歩は言葉は強めた。

「皆はそれでも…戦っているんだよ…、明日を生きるために…」


愛は黙って聞いている。


「戦場では、明日は死んでいるかもしれない人達…子供達がいる…。でも、彼らは逃げずに…戦っているんだ、必死に生きてるんだ…」


愛は歩の話に下を向いた。


「俺は…ここで止まる訳にはいかない…」


愛は言葉を振り絞った。

「行くの?…私は…死ぬの?」


歩は首を横に振った。

「君は死なせない…俺が治して見せる」


愛は叫んだ。

「あなたに…何ができるのっ!」


「俺は医者だ…きっと治してみせる…信じてくれ」


愛は再び下を向いた。


歩は言った。

「さぁ、鍵を開けてくれ…。俺は行くよ、たとえ君を殺してでも…」


歩の言葉に愛は呆然とした。その表情は涙でグシャグシャだった。


歩は言った。

「葵君や有紀、五月ちゃんが…それに、現実世界で多くの子供達が待っている…。鍵を開けてくれ…」


愛は観念したのか、鍵を開けた…。


すると部屋の扉が少し開いて、また閉じた。


愛の様子がおかしい…、愛は目を見開いている。


「愛ちゃん?…」


歩が声をかけた時だった、愛はその場で倒れこんだ。


「愛ちゃんっ!」


歩はすぐさま愛に駆け寄り、抱き抱えた。


愛の背中から大量の血が出ている。


愛は扉の隙間から、誰かに背中を刺されていた。


「くそっ!いったい誰だ!…しっかりしろっ!…」


「何か止血するものは…」

歩は辺りを見渡したが、この部屋には何も残されていなかった。


「愛ちゃんっ!下に行って、すぐに治療を…」


すると愛は歩の手を強く握った。

「ゴホッ…ゴホッ、もう…いい、わ…」


歩は怒鳴った。

「何を言って…」


しかし、愛はそれを遮る。

「もう、いいの…、助けて…くれる…ん、ゴホッ…でしょ?…」


出血が多すぎる、だいぶ深く刺されているようだ。


歩は言った。

「ああ…助けるとも…」


「ふふ、バチが……あた、った…のね…、ゴホッ、ゴホッ…」


「何言ってんだよ…」


「ふふ……、また…会いましょ…う…」


愛は力尽きた…。しかし、その死に顔は笑顔だった。


歩は愛の遺体を、そっと寝かし立ち上がった。


「ああ…また会える…、今度は現実世界で…」


歩はドアノブに手をかけて、ドアを開いた。


しかし、歩の目は信じられない光景を写す。

屋敷の1階から階段にかけて火が上がっている。


「何だ…これは?…」


犯人が火を放ったのか?…1階は火が覆っていて、逃げ場がない。


マリアは?他の皆は無事なのか?

歩の頭に様々な思いや疑問が走る。


歩は扉を閉じて部屋に戻った。


「愛ちゃん…、俺もダメみたいだよ…」


歩は愛の遺体に話しかけている。


「でも、きっと葵君がなんとかしてくれる…、有紀もいるからね…」


そして、とうとう部屋の扉も火で焼けて、部屋に火が進入してきた。


「あとは任せたよ…、葵君…。有紀…葵君を頼むぜ…」


そして、火が部屋を覆った。



……屋敷前……


屋敷に急いで戻った3人だったが、その光景に呆然とした。


「や、焼かれてる…」

五月はそう言うのがやっとだった。


有紀が言った。

「どういう事だ?…犯人が?…」


葵が言った。

「遅かった…、くそっ!」


有紀が言った。

「とにかくここは危険だっ!移動するぞっ!」


しかし、五月は恐怖のあまり…その場でへたりこんでいる。


葵が五月を抱えた。

「先輩っ!しっかりっ!」


有紀が言った。

「湖まで…走れっ!」


3人は湖に走って戻った。


湖に戻った3人は息を切らしている。


屋敷が燃え上がっているのは、湖からでも確認できる。


有紀が言った。

「全焼は免れないな…」


五月が言った。

「皆…どうなったんだろ?」


葵が言った。

「今は無事なのを祈るしかないです…」


有紀が言った。

「これからどうする?」


葵が言った。

「少し休憩して、犯人の元へ向かいましょう…この状態では、まともに対峙できません…」


有紀が言った。

「わかったのか?…犯人が…」


葵は言った。

「ええ…わかりました。しかし、脱出方法までは…」


五月が屋敷の方を見て言った。

「でも、すごい炎…迫力が半端ないわ…、植物館、大丈夫かな?」


葵は五月の言葉に反応した。

「炎…植物館…」


葵は髪をクルクルしだした。

「まただ…なんだ?この引っ掛かりは?」


五月が言った。

「そういえば…あんた、植物館で違和感あるって、言っていたよね…まぁ、確かに色合い的にちょっと物足りなかったけど…」


葵は目を見開いた。

「そうか!あの時の違和感は…あれが無かったんだ…。気温であれが…、だとしたら教会のあれは…」


有紀が言った。

「どうしたんだ?葵…」


葵は口角を上げた。

「やっとわかりました…。植物館、教会、芸術館を繋ぐある物が…」


葵は立ち上がった。


「行きましょう…」


「この無益なゲームを、終わらしに…」






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