妄執の向日葵
私には崇拝している神様がいます。 神様はとても厳しい灼熱の炎を身に纏っていらっしゃいます。 力強く眩い金色の光を放ち、全ての生きとし生ける諸々(もろもろ)の命の源を司って居られます。 そう、そのお方とは《お天道様》であらせられます。
私の様な下賤な者にも分け隔てなく、その鋭く焼けるような光を与えて下さるお優しいお天道様に、周りもこぞって背を伸ばしその尊いお姿を見上げているのです。
お天道様の光はとてもとても暑く、私はすぐ干乾びそうになるのですが、ある時その内側から焼かれる痛みが堪らなく気持ちいい事を知ってしまったのです。 それからというもの私は前にも増してお天道様に夢中になりました。
あの情け容赦ない残酷な光をもっともっと浴びたい私は、恐れ多くもお天道様を模した花を付けたのです。 するとどうでしょう、お天道様からの視線は倍増し、鉄色の道の照り返しをも使って更に私に引き裂くような痛みをくれたのです。
『見るな。 真似をするな。 お前はクズだ。 枯れろ!』お天道様からの言葉は私の身の内を震わせました。
あぁ、なんて素敵なのだろう。 罵り文句がこんなにも嬉しいものだとは。 お願いですお天道様、もっと私を罵倒し、蔑み、この身を焼き尽くして下さいませ。
私は求め続けました。 お天道様はいつも私から逃げるように沈んでいくのです。 勿論私はお天道様を見つめ続けます。
『視姦するな!』とお天道様が言うのですが、全く身に覚えがありません。 視姦されているのは私の方だというのに。 毎日が幸せで、快楽に酔った私は益々お天道様を追いかけました。
この頃ストーカー規制法が可決されました。 私は立派なストーカーでした。
鋭い日差しはまるで幾千の刺の様に、私に降り注ぐのです。 刺された所を抉られるような快感に私が中心を染めると、汚物を見るような死線を更に強められるのです。
あぁ、たまらない。もっと蔑んでくださいまし。 この茎を、花を、踏みつけ泥へと沈めて下さい。 あぁ、気持ち良い。 もっと、もっと私を貶めて下さいませ。 どうか。
そんな私の願いも虚しく、ストーカー法の取り締まりが始まりました。人間はいつも余計な事をします。 あるがまま生きられないのでしょう。 困りました。 私にとってお天道様は全てなのです。 やめろと言われても……。
お天道様の調教は既に私に染み渡り、それなしではいられなくなって居りました。 私は月に相談しました。 すると月は私を優しく慰め始めたのです。
私はがっかりしました。 罵られたかったのに。 ちっとも気持ちよくありません。 寧ろ気持ち悪いです。
私は気持ち悪くなりたいのではないのです。 気持ち悪るがられたいのです。 月はお天道様からの責めを体験したことが無いのでわからないのでしょう。 可哀想な月です。
私はお天道様一筋ですが、たまに雨が勝手に私を潤してしまうのです。 お蔭で雨上がりはお天道様からの灼熱の痛みをあまり感じれず、本当に本当に凄く迷惑です。
やがて夏の盛りが過ぎると、お天道様から視姦禁止令が出されました。 あの焼け付くように美しいお姿を見る事が許されないなんて、なんて気持ちのいい放置プレイでしょう。 ストーカー法に向かって万歳をしておきました。 考えてみたら結構良かったと人間に言ってやりました。 人間も喜んでいました。 人間もお天道様に茎を黒く焼かれるのが好きらしいので、月よりはマシだと思いました。
私は見納めにとお天道様からの死線を体いっぱいに浴びます。 あぁ気持ち良い。 イキそうだ。
私達は項垂れます。 もう見る事は叶いません。 しかし私の中にはお天道様の残像が鮮やかに嘲っているので問題はありません。
しかも放置と言いつつも、背中に感じるお天道様の熱と、冷たさを帯びた少しの風が気持ちよくて堪りません。 お天道様も寂しのでしょう。
背中に掛けられる光の罵倒が気持ち良くて病み付きです。
あまりの気持ちよさに種が涎の様に垂れ落ちて行きました。 他の向日葵にもストーカー法が適用されています。 みんな気持ちよさそうに項垂れています。
また来年、私たちはお天道様とこの崇高なるプレイを楽しむ事でしょう。
お慕いしておりますお天道様。 次はどうか私をその強烈な視線で枯らせて下さいませね。
そして私はお天道様への願いと思いを込めた種を残して、死という快楽の絶頂を迎えたのであった。