第2話〜秘密〜
「くる……わーる魔法??は…??」
私は夢でも見ているのだろうか……
しばらく私は穴が開くほどお父さんを見つめ、開いた口がふさがらなかった。
その沈黙を破ったのは、横にいたお母さんだった。
「りお。それがクルワール魔法専門学校に必要な物なの。大事にしてね。」
にこっと母はりおに向かって笑みを浮かべた。
りおは何から聞いて良いのか分からず、口をぱくぱくさせた。
「ぅーんと……説明するわね?」
りおの様子を伺いながら母は言った。りおはこくこくっと小刻みに首を縦に振った。
「りおが小学校に入る前…ああ。あなたが産まれてすぐに…いや…
それよりもまず、こっちね。りおはお父さんの仕事がなんだと思ってる?」
りおはやっぱり…と思った。お父さんがしている仕事を常に怪しいと思っていたからだ。
「貿易関係……って聞いてたけど……やっぱり違うの?」
母は「あら。疑ってはいたのね。」と少し目線をおとした。
「お父さんは本当は、『魔法薬危険物取扱い専門会社』という所で働いてるの。」
「まほ…危険物???何それ。」
りおはわけがわからず苦笑いをした。
「魔法薬というものがあるんだけど、その中で人体に影響を及ぼす物の成分と…
まぁ入っている魔法をお父さん達が調べて危険な物だけを探し出すみたいな仕事ね。」
お父さんは「オホン。」と咳払いをした。
「ごめんなりお。ずっと隠してて……」
父は眉間にしわを寄せながらりおの反応を見ようとした。
りおははっとしたように我に返り、身を乗り出した。
「で…でもなんでそんな変なところでお父さんが働いてるのよ!!変よ!!
そんなのお父さんが魔法使いだって言ってるみたいじゃない!!」
母は、りおをじっと見つめていった。
りおは言った後にもしかして……と目を見開いた。
「そうよ。お父さんは魔法使いなのよ。もちろん私も。そして…りお、あなたもね。」
「お……お母さん……も??私……も??」
「ええ。だってあなたは私達の血を受け継いでるんだから。」
りおはどうしたらいいのか分からなくなり、床の絨毯の毛玉をぶちぶちちぎった。
母も父も、りおが落ち着くまで待っているようだった。
りおは頭の中で「魔法があるって信じてたけど、そんなの、死んだって関わることが
無いって思ってたのに……これは夢?夢なのかな?やっぱり……」と繰り返した。
10分くらいたったとき、ようやくりおは少し落ち着いたのか言葉を発した。
「お父さんもお母さんも…その…魔法の学校に行ってたの?」
りおはちらっと母と父を見た。
「ええそうよ。とっっても楽しいところだったわ!ねぇお父さん。」
「あぁ。」
りおはまた絨毯をぶちぶちし始めた。
「そ…それで…話の続き……。」
「そうね。私達は魔法使いだけど、普通の人達と一緒に暮らさなくちゃいけないのね。
まぁ、そこら辺はいろいろとあるみたいなんだけど…でも働くのは魔法使い専門の
会社じゃなくちゃダメなのよ。えっと…うっかり魔法を使っちゃうかも知れないし…
あなたが産まれたとき、すぐにクルワール魔法専門学校の案内書が来たから
もうクルワールに行かせようと思ってたわ。契約も済ませたし。」
一気に母が話すので、りおは目が回った。
「自分が魔法使いだって知らなくてりおが魔法を使ってしまったらお父さんの職が
なくなっちゃうもの。そういう規則だから。それは困るでしょ?」
「私…魔法なんて使ったこと無いけど…。」
母は「当たり前よ!」と笑った。
「だって魔法を使えるのは16になってからだもの。だから私達はあなたが
16になったからオーストラリアに行くのよ。」
「え?なんで?」
「なんでって…りおだけクルワール魔法専門学校に行ってこのうちから居なくなったら
周りの人からすごく怪しまれるでしょ?だから私達はオーストラリアにいくことにして
あなたはクルワール学校に行くのよ。分かる?」
なるほど……とりおは頷いた。
「お父さんもオーストラリアに行っても仕事先は変わらないし。」
「え!?オーストラリアにもあの…魔法なんとか危険物って会社があるの!?」
お父さんがあぐらをかき直しながらりおに言った。
「あのな、魔法薬危険物取扱い専門会社は1つしかない。
俺たちが世界中のどこにいこうと場所は変わらない。そしてどこにいようと行けるんだよ。」
りおは夢の世界にいるような感覚に陥った。
「どういうこと?」
「つまり、クルワール魔法専門学校も、魔法使い達の会社も
この人間界にあるわけじゃないんだ。別の世界、魔法界にあるんだよ。」
いつのまにか私は涙が出るほど自分の頬をつねっていた。痛い…
夢ってこんなに痛さを感じるものだっけ?
「魔法…界って…どこにあるの?お父さん…どうやって行ってるの?」
「うちの家の物置の床に、小さい扉があるの知ってるか?」
物置…庭の隅にある物置には小さい頃に入ったことがあるけど……
扉なんかあったんだ……
「そこに入って呪文を唱えると魔法界へ繋がるんだ。オーストラリアの
家にも同じ物を魔法学会のやつに作ってもらったんだぞ。すごいだろ。」
すごい…確かにすごいけど、こんな現実とはほど遠い話をお父さんとお母さんが
ためらいもせずに私が信じると思って話している方がもっとすごい。
「じゃぁ。たくさん準備があるから、明日には魔法界に行くぞ!」
え?早いでしょ!!と言おうとしたが、
お父さんは立ち上がって居間から出て行ってしまった。
「お母さん…」
「もぅ。お父さんったら…あとの話は簡単にするわね。りおが小学校に入るとき
またクルワールから手紙が来て、あなたが本当に魔法使いか確かめるって
ことが書いてあったのよ。もちろん落ちるはずなんかないのよ?私達の子だし。
でもまぁ一応規則ってことで…それでちゃんと合格できたから安心したわ。」
「合格って…私試験とかした記憶ないよ?」
「あなたのクラスにユリアちゃんって子がいたの覚えてる?」
りおは心臓がはねたような感じがした。
「その子がりおを監視してたのよ。りおは人一倍魔法に興味を持ってたし、
ユリアちゃんはりおの普通の子とは違うオーラを感じ取ってすぐに合格と伝えたわ。」
ユリアちゃん……魔法使いだったんだ……でもなんでユリアちゃんが??
「ユリアちゃんのお父さんは魔法界でも偉い人なのよ。だから。」
私の心を読んだようにお母さんが言葉を続けた。
「これでもう十分でしょ?お母さん疲れちゃった。
その荷物部屋に持っていってよく見ていると良いわ。明日出発なんだもの。
あ。それはあなたが産まれたときにお父さんが嬉しくてすぐに買っちゃったの。
学校で古いって言われたらお父さんを恨んでね。夜ご飯できたら呼ぶわ。」
母はりおの横を通ってキッチンの方へ行ってしまった。
「夢じゃないみたい……」
りおの頬は手の後がくっきり見える程真っ赤になっていた。