〜プロローグ〜
「魔法はね…あるんだよ。」
にっこり笑った彼女が、私には魔法使いに見えた…
「りおー!!!準備進んでるのー?」
階段の下からお父さんの足音とお母さんの声が聞こえた。
「大丈夫ー!!もうすぐ終わるからー。」
お母さんは安心したのかお父さんに「何探してるの?」と声をかけた。
私は岡崎りお。今年の4月に高校1年生になった15歳。
今は8月。やっと仲の良い友達がたくさんできたのに、急にお父さんの
海外転勤が決まってしまい9月にオーストラリアの学校に編入することになった。
お父さんは貿易関係の仕事をしてる……らしい……
自信がないのはお父さんの働いてる会社や姿を見たことがないからだ。
まぁ、私とお母さんを養ってるわけだから、働いてるんだろうなぁ…
「コレは…捨てていっか。わっ!…何コレ…小学校の時に採ったどんぐり?」
汚い袋を机の奥から引っ張り出し、すぐにゴミ袋に捨て、Tシャツで手をぬぐった。
一昨日からオーストラリアに行く為に部屋を片づけていた。
「あとちょっとだ………ぅん?」
手を伸ばすと、机の後ろにはさまったピンクのノートにぶつかった。
ノートの表紙には、『まほう』と歪んだ文字が書いてあった。
「何だろう……」
ぺらぺらとめくると人間がとんがった帽子をかぶり、
木の杖を持ち、真っ黒なマントを足までひろげ、箒にまたがっている絵が
何個も描かれていた。その人間の脇には何やらぐちゃぐちゃと言葉らしき
ものも書かれていた。
「小学校…1年生とか、そこらへんに私が書いたのかな…?」
しばらくその時の記憶を思い出そうとしていると、ふと、
腰辺りまで伸ばしてある真っ黒な髪を後ろで一本にくくり
切れ長の目をこっちに向けて笑みを浮かべている女の子が見えた。
「(誰……?小学校の時の友達?)」
私の記憶の中で、彼女がぱちぱち瞬きをしたようだった。
「あ!!!!ユリアちゃん!!!」
りおはパッと目を開き、自分の心臓が少しドキドキしているのに気がついた。
「ユリアちゃんだ…1年生の時、1年間だけ同じ小学校だった。」
彼女は周りの人とは少し違っていて、私達を少し見下しているように
休み時間は真っ黒な本を1人で読み、たまにブツブツと1人で何か呟いている
私以外友達の居ない女の子だった…
入学したての時はみんな彼女にも声をかけていたが、あまりにも彼女が
みんなを無視するので、次第に彼女は浮いた存在になっていた。
そんな彼女と私が親しくなったきっかけは、彼女の読んでいる本のタイトルに
「まほう」という文字が見えた時のこと。
知らないうちに私は彼女に声をかけていたのだった。
「まほお…好きなの?私も好きなんだ!」
私は幼稚園の頃からテレビや絵本で読む魔法使いにとても興味を持っていた。
小学校の友達は、あまり興味がないようだったので彼女の読んでいる本に
「まほう」と書いてあっただけでつい嬉しくなってしまったのだ。
「うん。魔法って……不思議だよね…」
彼女がなぜ私とは話をしてくれたのかその時の私には分からなかった。
それから彼女と魔法について毎日話をしていた。私は自分の考える
魔法使いと魔法の呪文をノートに書き、彼女に自慢気に見せていた。
ユリアちゃんがにっこり笑うと、私まで笑顔になってしまうのだった。
「そうだ……ユリアちゃん……2年生になるときに転校しちゃったんだ。」
お別れの時、わんわん泣いた記憶がはっきり思い出された。
どんなときも大人な雰囲気の彼女はにっこりと笑って言った。
「りおちゃん。泣かないで。また私達、きっと会えるから。」
私は涙でぐちゃぐちゃの顔を彼女に見せ、「ほんと?」と聞いた。
彼女はまたにこっと笑って答えてくれた。
「うん。だって私達には魔法で結ばれてる。それまでお別れなだけだよ。」
私はとても嬉しくなって、「うん!」と元気よくユリアちゃんと笑いあった。
そして彼女が彼女の親に呼ばれ、車へ向かおうとしたとき
彼女は私の方を1回振り向き、目を細めて笑った顔で少し声を小さくしてこういった。
「魔法はね…あるんだよ。」