訃報
「うう…。」
アームストロングとの死闘の翌朝、涼は痛みで目を覚ます。
怪我人だというのにベッドで寝かしてもらえず、今日もオフィスにあるソファの上での起床だ。
リビングにあるソファの方が柔らかくて寝心地がいいのだが、寝室に鍵が付いていないという理由でオフィスまで追いやられてしまった。オフィスと自宅とを仕切るドアだけ鍵がかかることが、まさかこんな形で裏目に出るとは夢にも思わなかった。
涼は起き上がり、傷の具合を確かめる。
昨晩、目に見える傷としては擦り傷がほとんどだった。瑠姫が大袈裟に包帯を至る所に巻いたが、それを全て外す。一晩経ったので、擦り傷は全て綺麗に回復しており、滑らかな肌が顔を出す。
擦り傷の方はこれでオーケーだが、問題は骨の方だ。
アバラが何本かやられているのと、おそらく左腕の尺骨も折れている。
これが治るには1週間はかかるか…。
それまでは少し身体を労ってやらないとな。
涼ははずした包帯に目を落とす。白い布には薄っすらと黄色い血が付着している。
これを見て気持ち悪いと思うこともなくなった。もうすっかり自分の血の色に慣れてしまったのだ。
20年という短い間しか生きていないが、この黄色い血になったのは今からわずか5年前だ。それ以前の15年間は赤い、いたって普通の血の色だったというのに。
人間は馴れる生き物だというが、ましくその通りだと思う。
悲しいことも苦しいことも寂しいことも…みんな馴れていってしまう。どうしようもないくらいに人間というものは、なんとかなる様に出来ている。
涼は自分の右手を見つめ、拳を握りしめる。
あれから少しは強くなれたのだろうか?
ガチャっと後ろで扉の開く音がして後ろを振り向くと、瑠姫が出てきた。昨日買い物をしたというのに、初日に涼が貸したTシャツを着ている。だが、昨日の朝と違い、パジャマのズボンを履いている。
「おはようございます。ケガの具合はどうですか?」
「おはよう。うん、まずまずってところかな。ありがと。朝ごはんにしよっか。」
瑠姫は黙って頷き、涼を自宅スペースへと入れる。
キッチンに立つが、今日は昨日の様に張り切って朝食を作る気には到底なれない。食パンをトースターに入れて紅茶を淹れる。
「包帯、とってしまったんですね。」
瑠姫はどこか不満そうに言って紅茶に口をつける。
colorsの回復力を知っている瑠姫なら、あの程度の擦り傷は放っておいても一晩で治ることを分かっているはずなのに。
「うん。ほら、この通り綺麗なもんでしょ?」
「左腕とアバラの方は?」
「さすがにダメだね〜。日常生活ならそんなに問題はなさそうだけど、戦闘はまず無理かな。」
「そう、ですか。」
「ごめんね、頭取がこの様じゃ情けないよね。」
瑠姫は返事をせずにまた紅茶を飲み始める。涼は沈黙が気まずくなり、テレビのスイッチを入れる。
テレビはニュースをやっているところだった。細縁の眼鏡をかけた利発そうなキャスターがニュースを読み上げている。
内容は昨晩、黄血の部隊が都内にある廃工場に乗りこみ、黒血の一団を掃討したとのことだった。だが、廃工場は戦闘の結果、炎上し跡形もなくなってしまった。この件に関してはいまだロイヤルからの声明などは出ておらず、事件の詳細については不明とのことだ。
昨日アームストロングが言っていたのはこのことだろう。
ニュースの内容だけでは誰が黒血を倒したかはわからないし、どんなヤツらがヤられたのかも分からない。
だが、アームストロングのあの言葉から考えるに、やったのはおそらくアイツだろう。黒血にイカれ野郎呼ばわりされるのは黄血の主血しかいない。
だが、主血が動く程に重要な件だったのか?工場が炎上したのは、アイツの能力を考えるに黒血がやったことだろう。まさか火事で倒せると思ったわけではないはずだから、なにか隠したいものでもあったのか?だとすれば、この廃工場には一体なにがあったのだろう?
「涼、聞いていますか?」
「え?ごめん、なに?」
「このニュースですが、なかなか珍しいですねと言ったのです。黄色の方のロイヤルがこれ程大規模な作戦を展開するなんて。」
「たしかにそうだね。こういうのは緑血の担当だもんね。」
先日の青血と黒血との抗争もそうだが、colorsたちの動きが活発化しているように思える。
この5年間で小競り合いは無数にあったが、ここまで大きな事件は過去にも数回程度しか起きていない。
なにか引き金になるようなことがあったのだろうか?
涼が漠然とそんなことを考えていると、ニュースキャスターが涼と同じ疑問を口にした。
『先日からcolorsの動きが活発になっているように思えるのですが、なにか引き金になるようなことがあったのでしょうか?どうですか、的場さん。』
『ええ、なにかしらの事件があったとみてまず間違いないでしょう。』
キャスターに話を振られたコメンテーター、的場竜一は朗々と語り出す。
的場が出ているのに気づいた瑠姫は顔をしかめる。
無理もない、涼もこの男のことは好きになれそうにない。
的場竜一。現衆議院議員であるこの男が、朝からニュース番組に出ていることに今更驚きはしない。議員のテレビ出演というのは、昨今、特段珍しいことではないが、この男の出演回数は異常である。
思えば2年前の選挙活動の時から、この男は目立っていた。強硬な反colors姿勢を見せ、泣き寝入りしていた多くの国民たちの支持を得た。
的場はcolorsという名称を嫌い、Not Redという別称ならぬ蔑称を創った。そしてその年に当選した影響もあって、流行語大賞にまでなった。
当選以来、的場は多くのメディアに積極的に出演し、反colorsを唱え続けている。当選後すぐに旗揚げした、赤色党は国内のみならず、一部海外からの支持も厚い。
だが、colorsについての知識はあまり豊富とは言えない。このニュースの様に、コメンテーターとして呼ばれることが多いようだが、あまり的確なコメントをしている場面は見ていない。
それでも、一方的に批判されるというのは聞いていて気持ちのいいものではない。おそらく、瑠姫もそうなのだろう。
『まあ具体的になにがあったのかまではわかりません。ですが、おそらく彼ら、Not Redの血液に関して新たな発見があったのでは、と私は考えています。』
『と、おっしゃいますと?』
『ええ、彼らNot Redが現れてからもうすぐ丸5年が経ちます。この5年の間、様々な研究がなされてきたのは、皆さんご存知のことかと思います。そして、新たな発見がある度に彼らは決まって騒動を起こしています。』
『たしかにそうですね。だから今回も同様の動機だと。では、その発見というのは一体?』
『先程も申し上げた通り、具体的なことはわかりません。それにひとつ、前提をお忘れになっていらっしゃる。』
『前提?』
『ええ。我々、まあ彼らの言葉を借りるなら”赤色”ですね、は主にロイヤルが捕まえたNot Redを研究対象としてきました。もちろん、ロイヤルに所属する方々にも研究にはご尽力頂いております。
ですが、あの黒血たちがやっている研究とは決定的に埋められない差があるのですよ。
それは研究の回数、つまりは被験体の数です。
彼らは自分自身を研究対象とすることができます。それを言うならロイヤルもそうだと思われる方もいらっしゃるでしょうが、残念ながらそうではないのです。
ロイヤル内部でどのような研究が行われているかは秘匿されています。国家機関であるにも関わらず、国家に対して、国民に対して公然と秘密をつくっているんですよ。ただこれは法律上は全く問題がありません。
これはロイヤル発足の際に、大きな争点になりましたが、当時はそれよりも黒血の脅威から国民を守ることの方が大切だったのです。
一企業でしかない青血も研究内容に関しては、黙秘を続けていますしね。
少し話がずれましたが、我々が握っている情報はNot Redに比べてとても少ないということなのです。これはつまり、それだけ対策を講じることが出来ないということです。
我々がやっと見つけた発見も彼らからすれば周知の事実であるということも少なくないでしょう。
それだけ彼らの研究は我々よりも進んでいると思われます。
そして今回、また新たな発見がなされた。その結果を奪い合う目的で動きが活発化したのではないかと考えております。』
『なるほど。その発見がよりcolors同士のパワーバランスに関わってくるものではないかと、的場さんは考えていらっしゃるんですね?』
『ええ、そうです。』
『その発見というのは、もしや都市伝説にもなりつつある第6の血、白血についてなんでしょうか?』
『さあ、それはなんとも言えませんね。ただ、私から言わしてもらえば、5つの血だけでも手に負えないというのに6つ目が出てくるというのは勘弁してもらいたいですな。』
『たしかに、そうですね。これ以上治安が悪化して、国民が恐怖と共に暮らすというのは避けたい事態ですから。
的場さん、本日はありがとうございました。
それでは、ここで一旦CMに入ります。』
画面がCMに切り替わると、黙ってテレビを見ていた涼は息を吐き出す。と、ここでトースターからパンが焼きあがり、飛び出す。トーストを皿に載せ、瑠姫に渡す。
「colorsに関しての新たな発見ねえ。」
涼は自分のトーストにバターを塗りながら話しかけるわけでもなく、呟く。
そして、ふと思う。そういえば、青血と黒血ってなんで揉めたんだ?
あれ程大きな規模の戦いであれば、それ相応の理由があるんだろうけど…。瑠姫をちらりと見るが、トーストにジャムを塗る姿は落ち着いているようで、特段今のニュースの内容に関心を持った様子はなさそうだ。
「ねえ、瑠姫。先日の黒血とのいざこざは、なにが原因だったの?」
「……。」
瑠姫は答えずにトーストを齧る。
まだ、そこまで重要な話を教えてくれる程ではないか。
と思い、諦めかけると瑠姫が口を開いた。
「的場が言っていたことは、あながち間違いではありません。」
「え?」
これには驚いた。的場の意見が当たるとは全く思っていなかった。
「的場は新たな発見があったためと言いましたが、そうではなく、新たな発見のために黒血は、東 司は私たちを襲ったのです。」
「新たな発見の…ため?」
「ええ。黒血は現在、新しい研究にとりかかっているそうです。なんでも隷血の適合可能性を高めるものらしいですが、詳しいことまではわかりません。
そして、どうやらその研究はうまくいっていないようです。それ自体は喜んでいいことなのですが…。」
「壁にぶつかった黒血たちが、自分たち以外の血を必要とした?」
「はい。欲していたのは青血というよりも、私、主血が欲しかったのだと思います。」
主血が欲しかった。
主血に流れている血ではなく、主血そのものが欲しかった。
それはつまり、主血に対する人体実験を行いたいという意味か。
主血に対しての実験データというのは、驚く程少ないと言われている。
それもそうだ。今現在、存在を確認されている主血はわずか5人だけであり、もし不用意な実験を行いその主血を失ってしまえば、取り返しのつかないことになる。
そのため、隷血へは比較的広範囲な実験が行われるも、主血に対してはほとんど人体実験は行われない。
そこで、黒血の主血、東 司は思い至ったのだろう、自分以外の主血を使うことを。
5年という月日が長いかどうかは涼にはわからないが、主血についての情報が、真実が明らかになっていないこの停滞した状況にとうとう痺れを切らしたのか。
「私は主血の中で一番弱いですから狙われて当然です。個人の実力だけでなく、組織的にも。
緑や黄色の様に国家機関でもなければ、黒や橙のように犯罪組織でもありませんから。」
「そんなことないよ!」
自嘲的な口調で話す瑠姫に、涼は反射的にそう言った。
涼の口調が強いことに驚いたのか、瑠姫が顔をあげる。
「えっと、瑠姫はさ、強いじゃん。
12歳で一人でこっち出てきて、会社起こして成長させて。他の主血たちはみんな、自分の力を戦うことにしか利用していない。けど、瑠姫は、瑠姫だけは違うでしょ?」
涼は自分の顔が段々と赤くなってくるのを感じて恥ずかしかったが、瑠姫は黙って聴いている。
「それはとてもすごいことだと思うんだ。普通なら、悲しいことがあったり独りになっちゃったら、腐っちゃうでしょ?colorsならなおさら。
俺も少し前はそうだったし。ツラくて悲しくて、考えることがイヤになって…。ただ目の前にいるヤツらを殴ってた。
でも、そんなんは全然強いってことじゃないって、教えてもらって、気づいて、今はこんな仕事してるけど。瑠姫は最初からそのことが分かってたんでしょ?
だから俺は瑠姫が強いと思うよ。」
話し終えた涼は背中一面に汗をかいているいることを感じる。
結局なにが言いたかったんだ、俺は!と自分を責めながら紅茶に口をつける。恥ずかしくて瑠姫の顔を直視することができない。
「そう…ですか。」
ぽつりと言葉を発した瑠姫の方をおそるおそる顔を上げてみる。
すると、瑠姫は涙を流しているではないか。
「ええ!?なんで?ゴメン!」
涼はあわてて立ち上がる。あまりにも予想外な反応にどうしていいかわからず、謝る。
「すいません。なんというか…そんな風に言葉をかけてもらったことはいつぶりだっただろうと思って。」
「え?そうなの?」
「意外ですか?会社の人たちは私を商品として、あるいは恐れている人ばかりですから。」
「そっか…。でも隷血たちがいるじゃないか。」
「……そうですね、隷血たちはたしかに大切な仲間たちです。でも、少し違うんです。もちろん彼らも優しい言葉をかけてくれますし、それが力になります。けど、やっぱりどこか違うんですよ。私の血が入っているからでしょうかね。仲間でいて当然というか。うまく説明出来ませんが。」
瑠姫は少しツラそうな笑顔を向けてくる。その表情に涼はちくりと胸が痛む。
涼が思っていた以上に瑠姫は、あるいは主血というものは孤独なのかもしれない。
周りの赤色たちは皆、colorsのことを恐れているし、自分の色以外のcolorsたちは敵でしかない。唯一仲間と言えるのは同色のcolorsだけだが、主血と隷血は決して対等な存在にはなり得ない。
もちろん、信頼関係を築いている主血と隷血もいるだろうが、禁則の3項がある。いざとなれば従わせることのできる主血と従わざるを得ない隷血とでは、純粋に心を通わせることが難しいのかもしれない。
涼にも本来であれば、主血と呼び、付き従うべきcolorsがいるのだが、その人物とは関係が破綻してしまっている。そのため、主血と隷血との関係の機微はどうにも分からない。
「つまりですね…。」
瑠姫が再び話し出すが、今度はどこか歯切れが悪い。
「あなたのような存在は初めてなのですよ。私の隷血ではないにもかかわらず、敵意を感じることのないcolorsというのは。
ですから、その…貴重な存在といいますか。」
瑠姫は恥ずかしそうに語尾を濁した。
「そ、そう。」
涼もなんと答えてよいかわからず、もじもじする。
ブブブ…ブブブ。
「あ、メールだ。」
気恥ずかしくてどう会話を続けようかと困っていた涼は、メールに飛びついた。
メールの送信者は極楽寺さんからだった。
珍しいこともあるものだと思いながらメールを開くと、そこには端的な内容が書かれていた。
『青血のことで情報が入った。開店前に店に来なさい。』
「瑠姫。」
涼は極楽寺さんからのメールを瑠姫に見せる。すると、瑠姫の目は少し見開かれた。
「これは…。すぐに行きましょう。」
瑠姫の言葉に涼は頷く。バーの開店時間まではまだまだ余裕があったが、瑠姫の気持ちを考えるとのんびりしているわけにもいかない。
途中だった食事をすませ、極楽寺さんのバーへと向かう準備を始める。
15歳の少女と歩くのにスーツというのは如何なものかと思い、コットンジャケットにジーンズというラフな格好にする。
先に着替えてオフィスのソファに座っていると、瑠姫が出てきた。
白いワンピースに黒革のライダース、ラベンダー色のニット帽と、当然ながら昨日買ってきたもので身を包んでいる。とてもかわいらしい姿ではあるのだが、瑠姫の綺麗な銀色のロングヘアーが帽子に隠れてしまっているのが残念でもある。
「あまり見ないでもらえますか?」
「え、あ、ごめんごめん。じゃあ行こうか。」
極楽寺さんのバーまでは電車よりもタクシーを拾った方が早いので、大通りに出てタクシーを拾う。
タクシーに乗りこみ、行き先を告げるとタクシーは発進した。渋滞もなくするすると道を進んで行く。
車内では運転手との会話はおろか、涼と瑠姫との会話もない。
そこには二人の間で暗黙の了解出来ていた。渋滞していたら、きっと運転手に話しかけられただろう。
四条瑠姫であると運転手が気づくとは思えなかったが、それでも出来るだけ記憶に残るような会話は避けたかった。
内心でホッとしているとタクシーが赤信号に引っかかって止まる。涼たちが乗るタクシーの目の前の横断歩道を多くの人達が歩いていく。
この人達は想像すらしていないだろう、このタクシーの中にあの四条瑠姫、青血の主血が乗っていることを。
世間では今、死亡説まで囁かれているその人が。
裏の仕事をしている涼ですら、瑠姫とこうして出逢うことなど想像だにしなかった。
もしかして、他の主血に会うこともこれから先、あり得るのだろうか?それはとても奇妙なことに思えた。涼は自分が特殊なcolorsであることは承知している。けれど、この5年、それを理由になにか事件に巻き込まれたことはない。むしろその特殊性のおかげで、トラブルに巻き込まれなかったと言ってもいいくらいだ。
そんな涼がcolorsたちの中心にいる主血たちと遭遇するというのは、違和感があるのだ。
だが、現実ではこうして主血の一人と出逢ってしまった。奇跡の様なこの出逢いが涼にとって幸か不幸かはまだわからないが、変化というものは与えてくれた。
まだ出逢ってから4日だが、この変化を涼は悪くないと思っている。
涼が感傷に浸っているうちにタクシーは動き出して、目的地である極楽寺さんのバーに着いた。
タクシーから降りてバーの扉を叩く。つい3日前にもこうして扉を叩いたというのに、とてもそんな最近のこととは思えない。
極楽寺さんはすぐに出てきてくれて、涼と瑠姫を店に招き入れる。
「ずいぶんと早かったじゃないか。」
「すいません。気になってしまったもので。」
「まあ仕方ないさね。とりあえず座んな。なに飲む?」
極楽寺さんはカウンターに入り涼たちに飲み物を勧める。
「じゃあビールで。」
「私は白ワインを。それと極楽寺…さん。先日はどうもありがとうございました。」
「なぁに、いいんだよ。困った時はお互い様だよ。アンタは悪人じゃないんだから、なおさらだ。」
涼と瑠姫の前に飲み物を置き、瑠姫のお礼を軽く受け流す。
「ところで涼、あんたケガしてるじゃないか。3日前のクロウクローとのが、まだ残っているのかい?」
皮膚が露出している服装ではないし、例え露出していたとしても皮膚はもう綺麗に治っている。それでも、涼がアバラと左腕の骨に異常があることを見抜いたのか。さすがは極楽寺さんだ。
「あー…アイツとのは次の日にだいたい治りました。これは昨日やったのです。」
「昨日!?まさかあんた、昨日の廃工場の一件にからんでるのかい?!」
「あ!それは違います。また話すと長くなっちゃうんで、また後で。それよりも、青血の情報を先に教えてください。」
「ああ、そうだね。」
極楽寺さんの声のトーンが急に落ちる。
てっきり明るいニュースかと踏んでいた涼は少し動揺する。
極楽寺さんは瑠姫の方を向いて、しっかりと眼を見つめながらこう告げた。
「実はね、今日の明け方に青血の隷血の死体が見つかったんだよ。」