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Blood Bank  作者: ロロ
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邂逅

初投稿です。

自分の想像したものを形にしたいと思って書きはじめました。

誤字脱字等あるかと、思いますがご容赦下さい。

長期的に投稿していければと思っていますので、付き合ってくだされば幸いです。


「フゥーー。」


身体の中に溜めた煙をため息と一緒に吐き出す。

タバコはあまり好きではなかったが、こうして人を待っている時にはいい時間潰しになる。

喫煙所から空を見上げると、高いビルに囲まれた青い四角がみえるばかりだ。


スーツで来たのは失敗だったかな?もうだいぶ暖かくなってきたしなぁ。

いや、でも仕方ない。職業柄やっぱりスーツが一番だろうし。


と心の中で独りごちながら腕時計をみる。17時を少し過ぎたところだ。もう少しで伊織との約束の時間だ。

チラッと改札の方を見るが、まだ伊織の姿は見当たらない。まあ時間厳守は彼女の美学の一つだから遅れることはないだろう。

周りを見回すと、日が暮れ始める時間帯のせいか人混みがすごい。大半がスーツ姿だが、学生の姿もちらほら見える。皆、目が回るくらい足早に行き交っている。

だがこれだけの人がいるのに、どの顔をみても危機感を持っている者はいないようだ。おそらく仕事や学校、あるいは恋人や趣味といったことで頭がいっぱいなのであろう。その平和そうな雰囲気に涼は呆れてしまう。


やっぱり日本人の危機管理能力はおかしいよな…。


たしかに日本は安全な国として世界的に有名だったが、今の日本は世界で最も危険な国だと言える。

それなのに行き交う人々は危険を意識するでもなく、以前と、つまりは5年前と、変わらずに街を闊歩している。

つい先日も都内で大きな騒動があり、多くの死者が出たばかりだというのに。あまりに現実離れした話と

いうのは自分にも起こりうることとして受け止められないものなのかな?

再び改札の方に目を向けると、大きなキャリーケースを持った女が出てくるところだった。

スラッとしたその女性は遠目にみても美人とわかる顔立ちだ。一目見れば高級だとわかるグレーのパンツスーツに胸元の開いたシャツ、高いピンヒールで身を固め、長い黒髪はポニーテールにしている。伊織だ。

伊織が歩くと周りの男も女も振り返って見ている。

どうして毎回あんなに目立つことができるのだろう?と涼は疑問に思う。仕事柄好ましいことではない。

伊織は少しキョロキョロした後、喫煙所に目を向け、顔を明るくする。


「涼くーん!!」


いや、そんな大声で呼ばないで!

内心叫びながら顔を赤くする。思わず知らない人の振りをしたくなるが、そんなことをすれば後で怒られることは分かっているので我慢する。


「はぁー、やっと着いたー。カバンのせいで撒くのが大変だったよー。」


伊織はロングのタバコを取り出しながら明るく言った。


「お疲れ様。でも目立ち過ぎだよ。それにそんなことを大声で言うもんじゃないでしょ。」


火を差し出しながら労うが、気になるので一言付け加える。


「いーの!私自身が目立てば、誰も私がなにを持っていたかなんて気にしないでしょ?」


キャリーケースをポンっと叩きながら気軽に言う。


「まあそうかも…ね。」


一理あるのかなぁ…?と考えながらも、目は自然とキャリーケースへと向く。


「中身、気になる?」


伊織はニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる。

「いや、別に。」と涼は反射的にウソをつく。


「こういうものについては中身を知らない方がいいだろ?知ってしまうと途端にやる気が失せることもあるしね。」


「そうだね、その通りさ。それに今回は私も中身を知らないんだよね。だから知りたいって言われても教えてあげらんないのさ。」


伊織は何故か自慢気な感じでそう言ったが、涼は途端に不安になる。


「中身を知らないの?伊織が?」


今まで数多くの仕事を伊織としてきたが、そんなことは稀だった。そしてそんな時は必ず酷い目に合っている。


「うん、今回は依頼人も誰だかハッキリしなくてねー。でも仕事内容に比べて報酬はいいしさ。そんなに難しくないよ。尾行してきたヤツ自体も大したことなかったしね。」


煙で輪っかを作りながらノンビリと説明する。


たしかに今回は都内での荷運びだから、移動距離も大したことはないし時間帯も日中だ。目的地までは人目の多い場所を通っていけるし、報酬の割には簡単な内容だ。

だが、そのアンバランスさと中身がわからないということが涼を不安にさせる。

涼の不安気な顔をみて、伊織は励ますように言う。


「大丈ー夫だって!あとせいぜい30分くらいのもんでしょ?電車乗ってすぐだよ、すぐ!」


背中をバシバシと叩かれ早く行くように促される。この危機感のなさは周りの一般人と同レベルだな。そんなんで大丈夫なのかよ。


「わかったよ。」


と返事をし、ため息をつくと、すかさず伊織に頭を叩かれる。


「こらっ!いつも言ってるでしょ!ため息をつくたびに幸せが逃げて行くんだよ!?」


「違うよ、今のは溜息じゃなくて一息ついただけ。」


「またそうやって屁理屈を言う!」


いつものやりとりだったが、涼はスイッチが入った。


「じゃあ、いってくるよ。」


あらかじめ用意しておいた似たようなデザインのキャリーケースを伊織に預け、伊織が持ってきたキャリーケースを手に取る。


「ん、じゃあまた後でね。」


伊織は新しいタバコに火をつけながら手を振る。


さて、どうするか。

荷物の届け先は都内の雑居ビルだ。

調べてみると指定されたフロアは今は使われておらず、少しだけならお借りしても問題はなさそうだった。

そのビルまでは電車で行くのが一番早い。メトロでいくと、最寄り駅から徒歩の距離が長く、狙われる危険性が高い。それなら、最寄り駅から徒歩の距離が短い、環状線の方がいいだろう。

そう考え、改札をくぐりホームへと降りると、丁度電車がホームへと滑り込んでくるところだった。緑の環状線へと乗り込むと、まず車内を確認する。

最後尾のこの車両には、駅で溢れていた人の数とはうってかわって、わずか3人しか乗っていない。

サラリーマンであろうスーツの男が二人とヘッドホンをつけた大学生らしき青年が一人だ。

うん、とりあえずは怪しいのはいないな。

ホッと一息ついて座席へと座る。電車が振動を強め、再び動き出す。

電車は心配ないだろうけど、その後 は大丈夫かな?伊織がこれだけの荷物を持ちながらも、撒けたってことは大したことないんだろうけど。

どんなヤツだったかくらいは聞いとけば良かったな…。

2,3駅を通り過ぎ、今日の仕事が終わったらなにをしようかなぁと呑気に考えていると、突然ガラスの割れる音が聞こえた。


「!?」


車両の前方、連結部の扉の前にさっきまではいなかった黒いコートをきた男が立っていた。周りにはガラスの破片が散らばっている。


走ってる電車に突っ込んできたのか!?そんな芸当が出来るのは…!!


冷や汗が背中に伝うのを感じながら涼は腰の拳銃に手をかける。

車両内にいた乗客は騒いでいる。


「なんだ、なんだ?!」

「俺はみたぞ!この男が外から突っ込んでくるのを!」

「バカな!そんなこと出来るはずが!いや、まさか…colors(カラーズ)か!?」


ニヤリと犬歯をみせながら男は笑みを浮かべる。そしてくるりと振り返り、連結部に向かって両手を振るった。

なにかが斬れるような音がしたかと思うと、連結部は切り裂かれ、涼の乗っている車両は前方車両から切り離されてしまった。みるみるうちに電車は遠ざかっていき、涼たちの乗る車両はスピードを落とす。

乗客たちはなにが起きたのか分かっていないようだった。

無理もない、常人ではcolors(カラーズ)の動きについていくのは難しい。あの瞬間、男の爪が伸びて連結部を紙のように切り裂いたのだ。

男は涼の方にゆっくりと近づいてきた。


「さぁ、その荷物を渡してもらおうか。」


年の頃は涼と変わらない20歳前後にみえたが、その声は人を脅すことに慣れた声だった。


「はい、そうですかって渡すヤツがいると思う?」


「いるさ。俺がcolors(カラーズ)だと分かっているヤツは特にな。

中身もどうせ知らないんだろ?

お前みたいな赤色が持っていていいものじゃないんだよ!」


乗客3人は恐怖のためか黙って二人のやりとりを聞いている。

いいぞ、下手に騒いであいつの機嫌を損ねるのはまずい。俺にだけ注意を向けさせれば、とりあえずは大丈夫なはずだ。

だが、乗客の安全も確保しつつ、この場をくぐり抜けるのは至難の技に思えた。さすがにすぐにロイヤルが駆けつけてくれるとは思えないし、乗客を人質にとられたら手が出せないし…。

グルグルと思考を巡らせているうちに車両は止まり、男はどんどん近づいてくる。

大学生風の男の横を通り過ぎる時に車内には緊張が走ったが、コートの男はなにもせずに通過した。

大学生風の男は怯えて固まっていたが、男が横を通り過ぎると一目散に前の連結部へと走っていき車両から逃げ出した。

予想外の展開だったが、涼は安心した。どうやら一般人を手にかけるつもりはないらしい。

スーツの男たちもそう考えたのか、慌てて連結部へと向かう。男の横を通り過ぎる瞬間、男の顔が残忍な笑みで歪んだ。


「よせっ!」


涼の制止などお構いなしに男は左手を振るい、サラリーマン二人を切り裂いた。二人の身体はトーテムポールみたいに6つずつに分かれて転がった。赤い血溜まりが床にできて広がっていく。


「おまえ…!!」


「ははははっ!俺がこいつらを殺さないと踏んでたんだろ?さっきの大学生を見逃したから。

あの時お前もこいつらも安心しやがった。このおれも目の前にして!だから思い知らせてやったのさ。」


「ずいぶんと狂ってやがるな。」


涼は堪らず銃を取り出し、引鉄を引いた。


「ハッ!」


コートの男は左手をまた振るい、銃弾を切り裂く。

colors(カラーズ)である男にとっては銃弾を避けることも切り裂くことも造作もない。常人とはかけ離れた身体能力を持つcolorsにとって銃弾を視認することは簡単なことだ。


「お前、本気でこんなものが俺に効くと思ってるのか?この黒血(クレイジーブラッド)隷血(れいけつ)である、この俺に!」


男はそう叫び、涼に向けて右手を振るう。


「くっ!」


なんとか左に飛び攻撃を躱した。涼が立っていた場所には猛獣の爪痕の様なものがある。


「随分と物騒な爪してるじゃないか。ちゃんと爪は切らなきゃダメだぞ?」


「ふははは!

それは心配には及ばないさ。」


そう言って男は右手の爪を伸ばしたり縮めたりした。


「それにしてもよく避けられたもんだ。赤色のくせに。だが次は躱させないぜ。」


男は両手を広げて攻撃体勢に入る。

…どうする?もう躱すスペースは残っていない…こんなところで…


「死ねっ!!」


コートの男が両腕を振るうのと同時に涼はキャリーケースを前に構えた。


「!?」


男の爪がピタッとキャリーケースの前で止まった。

ふぅ、ラッキー。

どうやら余程大事なものらしい。加えて中身はこの男の爪に耐えうる強度もないようだ。

だが、どうする?そう何度も防げる方法じゃないし…状況は絶望的だった。

すると、聞き慣れた音が聞こえてきた。耳障りな金属音だ。

その音をきいた涼とコートの男は思わず動きを停めた。音はどんどん近づき、大きくなっている。


「まさか…!?ウソだろ?」


涼は泣きそうになりながら呟く。コートの男も青ざめている。

キキィー、キィーと耳障りな音を立ててながら、後ろからやってきた電車は止まることができずに涼たちの乗る車両に激突した。

車両が大きく揺れ、窓ガラスが衝撃で割れる。

涼はとっさにキャリーケースを取り、手近にあった吊革を掴んだ。両肩が外れそうな衝撃になんとか耐える。

車両の真ん中に立っていたコートの男は掴まるものもなく、車両前方へと吹っ飛んだ。

電車が涼の乗る車両にぶつかりながら進み、じきに止まると、涼は迷わず窓から飛び出した。


「逃がすか!!」


コートの男が窓から右手を向けて涼を狙う。


「なっ!?」


まさかあの衝撃ですぐに立てるとは思っていなかったので油断した。空中では身動きがとれない…。仕方なくキャリーケースを再び盾にする。

伸びてきた5本の爪のうち3本はキャリーケースに刺さったが、残りの2本は涼の左肩を貫く。


「ぐぅぅ…。」


痛みで左肩が熱くなるが、構わず銃をコートの男に向ける。

そして今度は右手首にある12連リングのブレスレットに魔力を込める。

一番先のリングから黄色い光が生まれ、リングより二回り程大きい魔法陣が出現した。

魔法陣はゆっくりと回りだし、徐々にそのスピードを上げる。回転速度が上がるに連れて、雷が発生していく。

涼は雷を銃に集中させ、引き鉄を引いた。



コートの男は焦っていた。キャリーケースに爪を刺してしまったからだ。

刺さった瞬間、親指から中指の3本の爪は伸ばすのをやめたが、もし中身に傷を与えていたら…。なんとしても取り返せねば!

コートの男も車両から抜け出そうと窓に足をかけると、また男が銃をこちらに向けていた。

懲りないヤツだと小さく笑う。が、さっきとは違い、危険であることを本能的に感じる。

先程とは違い、銃口が強く光っている。

次の瞬間、

恐ろしいスピードで銃弾が飛んできた。

なんとか左手の爪を伸ばして盾を創るが、銃弾の凄まじい勢いを殺し切れず、爪は割れ、銃弾を腹部へと喰らう。


「ガハッ!?!?」


黒い血を吐き出しながら後ろへ吹っ飛び、座席に大きな音をたててぶつかる。


「バカ…な…今のは…!?」


通常の拳銃でcolors(カラーズ)の持つ能力を破ることは不可能に近い。それなのに、何故あの男は…!?

今起きたことが信じらなかったが、意識が遠のいていくのを感じる。ブラックアウト寸前に男はみた。右手の爪に光っている黄色い血を…。



よし、これで追って来れないだろ。

銃弾が当たったことを確認して涼は着地体勢に入る。が、下はそれなりに急な斜面で高さもある。

このキャリーケースを持って無事に着地は難しいな。

思わぬ戦闘に巻き込まれてヤケ気味になっていた涼はキャリーケースを下敷きに着地し、そのままソリの様にして滑り降りる。


いやーこれなら速いし、ケガしないですむし、荷物はまぁ…大丈夫だろ、たぶん。


危険からの解放感で楽観的になっていた涼だが、すぐに失敗に気づく。


これ…どうやって止まるの?


だがすでに遅く、キャリーケースのソリはスピードを上げていて、止めるに止められない。

このまま丘の下に道が続いていればなんとかなったが、行く手には木々が生い茂っている。


「あーもうため息のせいかな、これ。伊織の言った通りだったなぁ。」


またため息をつきながら、涼はキャリーケースと一緒に大きな木へと突っ込んで行った……


ガッシャーン!!!!


大きな音を立ててぶつかり、涼は草むらに転がった。


「いてて…。」


後頭部をさすりながらキャリーケースの方へいくと、もうボロボロでタイヤも1つしか残っていない。

ここまで悲惨な状態にしたのは涼だったが、このままじゃ運ぶに運べないな、どうしてくれるんだと誰にともなく怒った。

そこで、鍵が壊れていることに気づく。

仕方ない、中身を見て運べるようなものなら運ぶか…

ケースのジッパーに手をかけて開けると、視界を銀色が染めた。


「え……!??」


中に入っていたのは銀色の髪をした女の子だった。銀色の髪は長く、キラキラと輝いていて、飴細工の様だ。そして肌は陶器のように真っ白でツヤツヤしているし、着ている服も青を基調とした上品なドレスだった。

眠っているのか、死んでいるのか、瞳は閉じられていて睫毛の長さが分かる。


…どうしてこの娘がここに??


涼はこの女の子を知っていた。

というよりも知らない者など今の世には一人もいないだろう。

そう、この娘は青血(サファイアブラッド)主血(しゅけつ)四条瑠姫(しじょうるき)

生きた宝石(リビングジュエル)と呼ばれる、まぎれもなく世界最強の一人だ。









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