ソラのアオ
目の前には砂浜が続く。
海と松林の間に広がる白い砂粒は、太陽の熱をめい一杯吸い込み、触れた瞬間針の様な鋭い痛みと共に足裏を焼く。
頭上には、青く澄んだ空。
右の肩越しには、空の青を吸い込み更に透明になった海が見える。
左の肩越しには…。
きっと濃い緑色の尖った葉がごつごつした茶色の枝にへばりつき、ガサガサと音を立てて揺れている。
あたしはその間に伸びる白い砂の道を真っ直ぐに歩く。
ずっとこうして歩いているせいで、足を焼く痛みにも慣れてきた。
鮮明過ぎる空の青さも、暗く沈む松の緑も、二つを区切る目を射る様な砂の白にも、もう心が動くことはない。
歩き出した頃は、涙が止まらなかった。
自分自身で選んだこの道の余りの美しさに、寂しくて震えた。
…でも、今は、何も感じることはない。
何も見ず、何も聞かず、…何も感じず、ただひたすらに歩く。
意味を問うことも、もうしなくなっている。
ひゅうひゅう。
口の隙間から漏れる空気が音を立てる。
どくどく。
血が身体を巡る音が耳を打つ。
ここが何処なのか、今が何時なのか、何故歩くのか、自分が誰なのか。
そんな問いはジリジリと肌を焼く太陽の下では意味を失い、ただ歩く為だけに、次の一歩を踏み出すだけに、あたしは力を振り絞る。
「おい。…なぁって。」
突然、低い声が聞こえて立ち止まった。
くるりと首を動かし、誰の姿も見えないことを確認する。
空も海も松林も、何も変わらない。
「こっち向けって。」
声の主は、すぐ側にいる。
姿は見えないくせに、からりと響く低い声の主は、あたしに顔を寄せている。
その証拠に今、耳朶に息がかかった。
『誰?』
問いは、ひゅうひゅうという音にしかならなかった。
唾を飲み込もうとして、ザラザラした口内に水分が無いことに気づいた。
口の中が乾いている。
ひび割れ、痺れる舌に感じるのは砂の粒のチクチクとした感触だけだ。
そう言えば、もうずっと何も食べてない。
食べ物どころか、水も口に入れた記憶がない。
息をするだけでも喉が渇くのに、何故今まで気づかなかったのか。
意識が向いたせいなのか、急に乾きと空腹が襲ってきて目眩がした。
舌で唇を湿らせ、口にためた唾を飲み込んだ。
目の前には、どこまでも続く白い砂の道がある。
「なんでオレを見ないんだよ。」
咎める様な調子には覚えがある。
「………てるんだよ。」
真剣な口調も、知っていると思う。
歩くことだけを考えて、前だけを向いて歩いてきたせいか、全ての記憶は曖昧で心許ない。




