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am7:20のシンデレラ・2



am7:20のシンデレラ・2




 段々と人が集まり始め、教室の静寂は喧騒に変わっていった。

なんとか予定の電車に駆け込むことができ、無事に時間には間に合うことができた。けれど学校に着いた私は、なんだかすっかりぐったりしてしまっていた。

 「おはよう楓!今日間に合わなくってごめんね!!」

たった今登校したもう一人の日直の子が、文庫本を開いて自分の椅子に寄りかかっている私のところまできた。まだそんなに仲が良いわけではない。でも、彼女自身は人と付き合うことに臆したりしないみたいだ。

 「大丈夫だよ。たいした連絡もなかったし、日誌受け取っただけだから」

 「本当ごめんね。明日は絶対来るから!」

すまなそうに手を合わせてから、彼女は他の友達のところへさっさと向かっっていった。私はふぅとため息をついて、先ほどまでの読書の続きをしようとした。

すると、すぐさま私の手から本が抜き取られた。

 「オハヨー。」

言いながら本を抜き取ったのは、去年も同じクラスだった親友の裕美子だった。

 「・・・オハヨ。どうでもいいけどいきなり本を取り上げないでくれる?」

私の机の脇に立っている彼女を見上げて、私は言った。見上げると言っても彼女は背が低い。私と立ち並ぶと10センチは差があるだろう。あまり見上げている感じはしない。

 「朝から読書なんてさすがだねえ。何の本?」

 「答えになってないんだけど」

まあいいじゃない、と笑って、裕美子は私をなだめた。


 例によって、彼女もとても可愛い私の友達の一人だった。言動はなかなか勇ましいのだが、背が小さくてちょこちょこ動き回っているような印象を与える。

去年初めてクラスが一緒になり、なんとなく意気投合したのだ。趣味は全く違うのに、ここまで気が合うのも不思議だと思う。どうやら根本的なところで似ているらしい。

実際、話していて最も意見が合うのは彼女だと思う。最終的に行き着く結論が同じなのだ。


 


「またなんかのラブストーリー?」

私に本を返しながら、裕美子が聞いてきた。私はそれを受け取って鞄にしまいながら答えた。

 「またって・・・。残念でした。今回はミステリーです」

彼女が「また」とつけるのも無理はない。恋に憧れすぎている私は、特に最近、恋愛ものの小説と映画にはまっていた。それも単純なくらいわかりやすい、王道純愛物に。

見るたびに私が「かっこいい」だの「あんな出会いがどっかにないか」だの言っているので、彼女はそろそろ呆れているみたいだ。

 そんな裕美子自身は恋愛に関してとても淡白だ。現在他校に付き合い始めた彼氏がいるが、既にデートも面倒くさがっている。彼氏を好きではないわけではない。実際アプローチをしかけたのは彼女からだった。

ただ、裕美子の性格なのか、相手の「好き」が自分の「好き」よりも重くなってくると、やりにくいらしい。元々デートにも幻想を抱いていない。時々のろけることもあるが、基本的に恋愛に夢は見ないタイプだ。

・・・・彼女いわく、私の性格は恋愛以外では冷たいとも言えるほどドライな人間らしいが。



 「ねえ、それより何かあった?」

唐突に裕美子が聞いてきた。本を鞄に戻していた私の手が一瞬止まる。

 「・・・なぜでしょうか?」

 「いや、普段は朝いっつも眠そうなのになんか今日はそうでもないから。なんか面白いことでもあって目が覚めたのかと」

 「あなたは私をなんだと思っているのよ」

確かに、私が眠そうにしているのはいつものことだ。もう一種の癖のようになっていて、夜ベッドに早く入ろうと遅く入ろうと次の日の朝の状態はたいして変わらない。

最近では授業中にも容赦なく襲ってくる睡魔に、深刻に悩まされている。

 鞄を机の横に戻して、顔を上げた。裕美子がどんな話なのかと興味深そうに私を見下ろす。私はにっこりと微笑んで言った。

 「何もないわよ」

 「・・・はあ?」

 私の答えに、裕美子は怪訝な表情になった。彼女が期待していた答えでないことは重々承知の上での答えだった。

 「何もないって・・・。絶対嘘!!っていうかそれじゃあつまんないじゃない!!」

 「人をネタにするな!」

 「いつも自分は私をネタにしてるじゃない!!」

 「でもたいした反応してくれないじゃない!」

勘がするどいのか、単なる当てずっぽうなのか。裕美子の反応に思わず私も声をあげる。教室のある一角、くだらない会話で騒ぐ私たちに周りの生徒の僅かな視線が注がれる。しかしそこは話題のつきない朝の教室、それはすぐに逸らされた。

 

 確かに私は、よく彼女をネタにしている。自分に色恋の話題がないため、事あるごとに彼女と彼女の彼氏の話を持ち出してからかっている。けれど彼女自身が淡白なので、なかなか期待する反応は返ってこない。

それでも時々、とても可愛らしい反応をする。どこまでも現実的な癖に、時おりふと、相手に対する愛おしさを漏らす。普段はわかりにくいが、彼女が本気で今の彼氏を大切に思っていることが伝わるのだ。

そんな彼女を見てつくづく、私は彼女を可愛いと思う。顔だけでなく性格までもだ。男女問わず、彼女が親しまれ、人気になる意味がわかるような気がする。

 

 けれども、そんな風に頭で思うたび、同時に心がどうしようもない羨望に飲み込まれる。一歩間違えば、私は彼女と友達でいられなくなるかもしれない。常に私の胸には、そんな不安が渦巻いている。



 私の心境などお構いなしに、裕美子は更に私を問いただした。

 「さあ!白状しなさい!」

ずいずいと効果音が聞こえてきそうな動きで、彼女は私に詰め寄ってきた。それに比例して、私はわずかに身を引く。

 「だからっ!何でもないんだってば!!」

必死になって私は言った。

 

 


実際は、何でもないわけではない。朝のあの出来事が未だに頭から離れなくて、足が地に着いていないようなふわふわした状態が続いている。

別に裕美子に話したくないわけではない。ただ、なんとなく不安なのだ。言葉で説明しようとしても、何も伝わらないような気がして。

あの時、桜の下で感じた感情をなんと表現したらいいのかわからないのだ。簡単に「一目惚れ」では片付けられない。でも、説明するのに適切な言葉が見つからないのだ。

 

 そうして考えれば考えていくほど、段々、あの時間が夢のように感じてくる。すべて私の夢なのではないのか。ただの勘違いなのではないのか。段々と現実のことだと思えなくなってきて、一向に気持ちは落ち着かない。


 いつの間にかトリップしていた私に、裕美子は仕方なさそうに一息ついた。

 「・・・仕方ない。じゃ、放課後マックね」

 「は?」

 「じーーっくり聞かせてもらうわよ。何が何でもね。

  おっと。先生来ちゃった」

 「え!?ちょっと裕美子・・・!」

うろたえる私を無視して勝手に放課後の約束を取り付け、裕美子はさっさと自分の席に戻っていった。


 


 


てっきり諦めてくれると思ってたのに・・・・。いつもいつも、彼女にはかなわない。


 

 


結局、裕美子にすべてを話すことは避けられないみたいだ。

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