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第五話「『ただの偶然』は間違いでした」

 朝起きると、通知が来ていた。


 いつもより多い。


 スマホを開いて、一本目の動画を確認する。 どこかで貼られたのか、再生数が、昨日の夜より三百近く増えていた。


 思わず二度見した。


 もう一回確認する。増えている。三百近く。


 変な声が出そうになって、口を閉じた。誰もいないのに。


 コメントも増えている。


---


 最初にきたコメントは「危険なこと広めるな」だった。


 二本目を出してからは、悪口にもう少しバリエーションが増えた。「ネタ動画?」「そのうち死ぬぞ」「初心者に変なこと教えるな」。


 今朝は、そこに混じる実践報告の数が違った。


 「試したら本当だった」


 一件だけじゃない。違うアカウントから、何件も。


 「距離詰めたら逆に落ち着いて動けた」

 「壁際やめたら詰まらなくなった」

 「最初はバカにしてたけど、やってみたら被弾減った」


 俺はしばらく画面を見ていた。


(見てるやつがいるだけじゃなく、試してるやつがいる)


---


 もちろん、批判も増えていた。むしろ、実践報告が増えたぶん、反発も増えた。


 「たまたまだろ」

 「一回うまくいっただけで広めるな」

 「初心者に変な癖つけてどうするつもりだ」

 「懐に入って死んでも責任取れるのか」


 「責任」という言葉が、何件かあった。


 そこだけは少し止まった。


 責任、というのは、たぶん正当な指摘だ。俺の動画を見て試して、うまくいかなかったやつがいても、俺には何もできない。保証なんてない。それは本当のことだ。


 でも、と思う。


 「距離を取れ」という動画を見て試して、中途半端な距離に入って食らったやつの責任は、誰が取っているのか。


 俺は誰かに責任を問うつもりはない。ただ、「危険だから黙れ」という話と「実際に試したら効果があった」という話は、別の話だ。


 そこをごっちゃにして批判するのは、フェアじゃない。


(でも、言い返すつもりもないか)


 正直、コメント欄でケンカしても意味がない気がした。言い返したところで空気が変わるとは思えないし、俺の仮説の正しさは、言葉じゃなくて実績で証明するしかない。


 スマホを置いて、天井を見た。


---


 午後、もう一度コメント欄をさかのぼった。


 批判を読むより、実践報告を読む方が面白かった。「試したら」という書き出しのコメントを探すと、一本目から三本目まで合わせて十数件あった。


 全部、「うまくいった」系だった。


 失敗したやつのコメントはない。


 これは、うまくいかなかったやつはコメントを書かないだけかもしれない。あるいは、条件が合わない場合は試さないで終わっているのかもしれない。サンプルの偏りがある可能性は考えておかないといけない。


 それでも、十数件が「効果があった」と言っている。


 偶然で十数件は出ない、とは言い切れない。でも、「全部たまたま」で片付けるのも無理がある。


(偶然じゃないな、これは)


 自分でそう思ってから、少し考えた。


 俺の仮説が正しければ当然の結果だ。なのに、それを「そうか」と受け取れずに、確認したり疑ったりしている。


 信じていないのか、と思った。


 自分の仮説を。


(……自分で証明しておいて、疑ってるのか)


 妙な気分だった。


---


 夕方、コメントがまた増えていた。


 「たまたまだろ」という書き込みの下に、別のアカウントが返信していた。


 「たまたまで十件以上は出ません」


 俺が言いたかったことを、誰かが言っていた。


 そのやりとりに、さらに別の返信がついていた。


 「否定したいなら試してから言えよ」


 俺は画面を見ながら、少し止まった。


 俺の動画を見ているやつが、俺の代わりに言い返している。


 コメント欄の空気が、ゆっくり変わっている。


 最初は「嘘つくな」一色だった。今は、批判と実践報告と、批判への反論が混在している。


 均衡が崩れている。


 画面を見ながら、俺は小さく笑った。


 言葉で言い勝つ必要はない。俺が説得しなくていい。試して「本当だった」と言うやつが増えれば、空気は勝手に変わる。


 言葉じゃなくて、実績が広がっていく。


 それが積み重なれば、「たまたまだろ」は少しずつ成立しなくなる。


 俺は何もしなくていい。ただ、次の検証をやればいい。


---


 スマホを置いて、ベッドに寝転がった。


 次に確かめたいことは、もう決まっている。


 三本目の動画で触れたタイミングの話を、もっと別の角度から掘り下げたい。それと、実践報告の中に一件だけ気になるコメントがあった。


 「距離詰めたらうまくいったけど、相手によるかも」


 相手による、か。


 それは俺も前から気になっていた。二本目を出した夜に「それ、ブルーボア以外でも起きるのか?」というコメントがついていた。あのときは流したが、頭には残っていた。俺が検証してきたのはブルーボアが中心で、他の敵への汎用性はまだ試していない。同じ理屈が通じる相手と通じない相手がいる可能性は、最初から頭にあった。


 「懐に入ると安全」じゃなくて、「懐に入ると安全な相手がいる」が正確だ。


 その線引きを、どこかで言語化しないといけない。


(やること、増えるな)


 天井を見ながら、少しだけ面倒だと思った。


 でも、不思議とやる気がなかったわけじゃなかった。


---


 夜、また通知が来た。


 開くと、今日だけで実践報告が四件増えていた。


 「試したら本当だった」


 全部、そこに帰ってくる。


 俺はしばらく画面を見てから、スマホを置いた。


 明日、また潜ろう。


 今度は別の敵で試す。

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