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心のパーツが光るとき 伊豆文学賞 掌編部門 最終選考作品

作者: 早乙女姫織

 祐樹は、小学校6年生。静岡市駿河区に引っ越してきたばかりで、まだこの街の空気にも、学校のクラスメイトにもなじめずにいた。転校初日、先生が紹介してくれたとき、数人の子がちらりと祐樹を見た。でもその目は、好奇心よりも「誰?」という距離感で満ちていた。昼休みに勇気を出して話しかけた祐樹の言葉は他の男子の声にかき消された。隣の席の子は祐樹を気にはしていたが、友達の所に行ってしまった。給食の時間、机を並べる輪の中に入れず、祐樹は一人で食べた。牛乳の紙パックを開ける音が、やけに大きく感じられた。


 ある日、祐樹は静岡駅の前で足を止めた。「模型の世界首都・静岡」そんな言葉の隣には、自分と同じぐらいの子が青い人型のプラモニュメントとなっていた。祐樹は思わずつぶやいた。


「君も、ここでずっと一人なの?」


モニュメントは何も答えなかった。何日たってもクラスメイトとの会話の糸口がつかめないまま、祐樹は寂しい日々に耐えていた。


 夕焼けが街を金色に染める頃、祐樹はまた、モニュメントの前にいた。ランドセルの肩紐が少し食い込んで痛かったが、気にする気力もなかった。


「なんで、みんなあんなに楽しそうなんだろう。」


祐樹は、誰に向けるでもなく呟いた。


「みんなで楽しそうにしている輪に入っていけないよ。」


けれど、その沈黙が祐樹には必要だった。


「静岡って、模型の街なんだよね。こっちに来る前に静岡のこと勉強したのにな。元の生活に戻りたい。」


祐樹の目から大粒の雫が溢れだした。


「君はいいな。ずっとここにいて、誰にも嫌われないで。誰かが来るのを待ってるだけでいいんだもん。」


祐樹はしばらくしゃべれなかった。


「でも、君に話すと、ちょっとだけ楽になるんだ。不思議だね。」


モニュメントの影がだんだんと伸びていた。


「ちょっとでいいから、誰かそばにいてくれないかな。友達が欲しい。」


その時、プラモニュメントがきらりと光った。


「一人じゃないよ。僕が友達1号になろう。僕は、ここに来る子たち全員の友達なんだ。」


高い声が、祐樹の心の中に響いた。驚いた祐樹が後ずさると、プラモデルの男の子は頭を横に何回か振り、手足も軽い準備運動をするかのように動かした。プラモデルの結合部分がパチリ、パチリとまた一つ外れていく。モニュメントは祐樹のもとへ一歩、踏み出した。


「君、転校してきたんだよね。静岡って、模型だけじゃなくて、いろんな組み立てができる街なんだ。友達も、夢も、思い出も。ゆっくりでいい。君のペースで作っていこうよ。」


呆けて魅入ってしまったが、祐樹は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。誰かにそう言ってもらえるのを、ずっと待っていたのかもしれない。


「君は僕に話しかけてくれるぐらい優しいから大丈夫。みんなの輪っていうのは、いろんなパーツで成り立ってるんだ。今度学校でみんなで遊ぶ時、いれてって言ってごらん。君も大事なクラスの一部だよ。」


祐樹の手を握りながらモニュメントは励ましてくれた。うん、と声にならない返事をした時には、モニュメントは戻っていた。足早に家に帰ると、祐樹は宿題を片付け、すぐに眠りについた。


 次の日の朝。相変わらず教室の居心地は悪いままだった。昼休みに、鬼ごっこする人この指とまれ、と言った子の指をつかむこともできなかった。僕もクラスの一部、そう心の中で唱えると、目の前を通り過ぎた子に勇気を出した。


「ぼ、僕もいれて。」


 こうして、祐樹は引っ越してから初めて昼休みを人と過ごした。その日は友達と一緒に帰った。モニュメントの前に着くと、友達2号が出来たんだと報告した。友達1号は誰だよとツッコまれながら歩いた。モニュメントはもう動かなかった。

伊豆文学賞、最終選考で落ちてしまったのでここで供養させてください。カクヨムにも掲載します。読んでくださりありがとうございました。

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