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【SF 空想科学】

僕と二人の妻

作者: 小雨川蛙
掲載日:2025/06/09

 

 朝起きる。

 何でもない一日の始まり。


「おはよう」


 僕は妻に声をかけた。

 しかし、そこに妻はいない。


「……そりゃそうか」


 僕は起き上がる。

 妻が死んでから、もう二年になる。


 僕と妻の出会いは偶然だった。

 いや、僕はこれを運命だと思っているほどだった。


 研究の道を進んだ。

 故に世界各地を回った。

 そんな折、魔法使いの末裔である妻に出会った。

 最先端の科学と共に生きる僕とは対照的に古い伝統と共に生きる妻。


 全く違う僕らは何故か惹かれ合った。

 そして、恋に落ちて一緒になったのだ。


 幸せな時間を生きた。

 本当に幸福だった。

 妻が、死んでしまう、まで。


 僕はため息をついてそのまま台所に向かう。

 すると既に朝食が用意されていた。

 妻が用意してくれたのだろう。


『二人で出かけてくるから』

『ご飯食べてね。二人で作ったんだから』


 まったく。

 仲良くて羨ましいことだ。


 僕は微笑みながら食事をする。


 美味しい。

 昔から変わらない妻の料理の味。


 二年前、食べたくて食べたくて仕方なかった味。

 食べられるようになってもう一週間にもなる懐かしい味。


 食べ終えて呟く。


「ちくしょう」


 笑ってしまう。


「なんだよ、この状況」


 二年前、僕は妻に先立たれた。

 妻は死ぬ前に言った。


『必ず戻って来るから……待っていて』

『どうやって……』


 すると妻は笑う。


『秘密。だけど、待っていて。ずっと』


 僕は妻に言われたように、妻の棺桶に多くの草花と鳥の羽を入れた。

 妻の一族が古くから続けていた(まじな)いだと言う。

 やがて、復活して愛する人と再会するための。


 だけど、そんなものは嘘っぱちだ。

 少なくとも科学と共に生きる僕にはそうとしか思えなかった。


 僕は妻の死に耐え切れなかった。

 だから、僕は二年かけて人類すべてが忌むべき禁忌に手を染めた。


 つまり、クローン再生。

 僕は妻の遺体から妻を甦らせた。

 いや、より正確に言えば妻を複製したのだ。


 複製された妻の第一声。


『ちょ!? あんた、何してんの!?』

『会いたかった……』


 泣きながら抱きしめようとする僕を妻は抑えながら言う。


『えぇ……これどうなるの……? えっ、どうしよう……』


 一体何を言っているんだ?

 押さえつけられながら疑問に思っていると背後から声をかけられる。


『ねえ、それ……どういうこと?』


 聞き慣れた声に僕が振り向くとそこには妻が居た。

 草花と鳥の羽にまみれた妻が。


 複製された妻が草花にまみれた妻を呼んで状況を伝える。

 すると妻があんぐりと口を開け、そうして僕を睨んで言った。


『ねえ! 待っていて! って! 言ったよね!?』


 草花にまみれた妻に気圧されていると複製された妻が言う。


『そう! 待っていて! って! 言ったのに! この人は!』


 状況が掴めないままに僕は二人に罵倒された。

 罵倒され続けた。


『『あ・の・ね!』』


 同一人物が共に僕に怒鳴り散らす。


『『わ・た・し・は! 蘇るつもりだったの! と言うか、必ず戻るって伝えたでしょ!?』』


 そうして二人にボコボコにされる。

 同じ人間だからこそ息のあった動きでマウントを取られる。


『この救いようのない馬鹿!』

『本当だよ! どうすんのさ! この状況!』


 殴られ続けながら僕はどうにか言う。


『ごめん。どうしても。会いたくて……』


 泣きながら告げる。

 すると妻『達』は気まずそうに息を飲む。


『そっか。そうだよね』

『ごめん。そうだったよね。ごめんね』


 流石同一人物だ。

 チョロさも変わらないらしい。

 内心でそう馬鹿にしていたのに僕の両目からは涙があふれ……止められなくなった。

 そして、それを見ていた妻達もまた泣き出す。

 三人で泣き続けた。

 空っぽになるまで。



 さて。

 そんな出来事がたった一週間前のこと。

 で、妻達はすっかり意気投合して仲睦まじい姉妹のように毎日のように出かけている。

 僕を置き去りにして。


「本当に。何だよ、この状況」


 僕は笑う。

 ふと、妻達から連絡が来る。

 そこには二人の写真と共に二人のコメントが付記されていた。


『これから帰るから! お昼は三人で食べようね!』


「はいはい」


 そう呟きながら僕は穏やかな気持ちのまま皿洗いを始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
素直に上手い作品ですな。 『クローンに生前の記憶』があるという所が引っかかりましたが、考えてみると『科学と魔法が同居する世界』において突っ込むのは野暮。 『二人で作ったから』という朝食に違和感を感じじ…
こういうの、とっても良いと思います
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