第3話
「こんにちは」樹は少女に挨拶を返した。
それから樹は「あの、」と言って、少女に、名前を聞こうとしたのだけど、それよりも早くに少女が「……足」と言って、樹の足元をその美しい白い指で指差した。
「足?」
樹は自分の足元を見る。
そこには、深い霧の森を抜けて泥だらけになっていた、自分の履いている登山用の頑丈な茶色の靴があった。
「足がどうしたの?」
「……踏んでる」
「踏んでる?」
少女の言葉を聞いて、樹は自分の足を上に動かした。すると、樹の足がなくなった靴の下には、樹によって踏まれていた『白い小さな花』が一本だけ咲いていた。
「あ」その花を見て樹は言った。
樹は白い小さな花を気づかずに自分の足で踏んでしまっていた。
樹はその白い小さな花が自分の足元にあるなんて、少女に指摘されるまで、全然気がついていなかった。
樹は少女を見た。
すると少女は小さく笑って樹のことを見返した。
少女はその場にしゃがみこんで、その白い小さな花をじっと観察した。それから「……よかった。弱っているけれど、まだちゃんと『生きている』」と少女は言った。
「その花のこと、教えてくれてありがとう」
樹は言った。
少女は樹の顔を座ったまま上目遣いで見て、にっこりと幸せそうな顔で笑った。
「どういたしまして」と少女は言った。