第2話
しかしそこから顔を出したのは、樹が心配していた熊とか鹿とか、あるいは猿とか、そう言った森の動物たちではなくて、一人の普通の人間の女の子だった。
それも、とても美しい少女。
年は、たぶん、十七歳くらい。(おそらく地元の高校生だろう)
その少女は長い黒髪を後ろで縛ってポニーテールの髪型をしていて、上は水色と白のパーカー。下はデニムのハーフパンツに黒のストッキングをはいて、足元は真っ白なスニーカーという格好だった。
その茂みの中から出てきた、少女は山の中で出会った樹のことをじっと少し遠くから見つめていた。
樹も、(こんな場所で人に出会うとは思っていなかったので)どうしていいものかわからずに、まるで本当になにかの森の動物と顔を合わせてしまったときのように、じっとその少女の顔を見つめ返していた。
少女は、とても澄んだ不思議な瞳をしていた。(その大きな黒目の中には、樹が映っているはずだ)
まるでその少女の瞳には、樹のすべてが映り込んでいるかのように思えた。
樹がじっとしていると少女はぱんぱんと服についていた草や葉っぱを軽く払ってから、ゆっくりと川辺の石ころだらけの道を歩いて、樹の座っている場所までやってきた。
「……こんにちは」
感情のない声でその子は言った。