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短編

手軽な心霊スポット

作者: 綿貫灯莉

「おっ、いいねがついてる」


 先ほどの投稿に、「いいね」がされていることに気付き、口元が少しゆるんだ。

 そして男は、いいねをくれた相手の投稿をのぞき、同じような内容の投稿を見つけると、それに「いいね」を返した。


「某地図アプリの360度ビューで、現実には存在しない建物を見ることができる。しかも人によって、その建物が見えたり見えなかったりするらしい」


 そんな噂を知ったのは、とあるオカルトサイトだった。

 それを引用して投稿したのだが、見知らぬ誰かが反応してくれた。


 そのサイトでは、現実には存在しない建物について、少し掘り下げられていた。

 今は無いだけで、昔は建物が建っていたんじゃないか。そして、その頃の古いデータが使われているのではないか。

 そういった憶測もあったが、少なくとも昭和の時代から、その場所は空き地だったという。


 また、そこは『鬼の()む場所』と呼ばれており、どうやら曰く付きの土地のようだ、と書かれている。嘘かホントかわからないが、地元ではそこに立ち入ると祟りがあると噂される、有名なスポットとのことだ。


「せっかくだし、俺もこの場所を見ておくか」


 そのオカルトサイトでは、『日本一気軽に行ける心霊スポット』として、その建物を紹介していた。そして、ご丁寧に検索用の緯度経度まで掲載していたのだ。

 それをコピーしようと、再びそのサイトに訪れると、下のほうにコメント欄があることに気がついた。

 少し気になって、コメント欄を開きスクロールしていく。



[名無しゲストさん]

建物見えたっていってたヒトと、あれから連絡とれんのだが……


[名無しゲストさん]

わたし見えたけど、ここにいるよー


[名無しゲストさん]

絶対にここを検索しないでください!


[名無しゲストさん]

ここ、ただの空き地じゃね? ガセ?


[名無しゲストさん]

姉が行方不明です



 本当に見えたのか怪しいが、建物が見えたという人が行方不明になっているという書き込みに手が止まる。


「いやいや。さすがにそれはないでしょ。サイト盛り上げるためのウソでしょ」


 せっかく自分の投稿に反応してくれた人がいるし、この目で見えるか試して、その結果も投稿したい。

 一瞬躊躇したが、気を取り直して緯度経度をコピーし、地図アプリの検索バーに貼り付けた。


 そして検索をして、360度ビューでその場所を見る。


「……見えた」


 確かにそこには建物があった。

 しかも、サイトに書かれていた通りの、ボロボロのアパートだ。

 

 まさか自分にも見えるなんて思っていなかったので、胸が高鳴った。これはいい投稿ができそうだと、建物のスクショを撮る。そして、どうせなら近づけるところまで近づいて、詳細も投稿しようとスワイプしていく。


「いつの時代の建物だよ、これ」


 そう言いながら、古い建物全体を観察していると、汚れて白く曇っているガラス窓の奥に、動くものが見えた。


「ん?」


 これは静止画だから動くはずはない。

 ただの見間違いかと指で拡大して、もう一度よく確認する。


 すると、薄汚れた窓の向こうに確かに人影があり、その人物がこちらを振り向いた。


「うわっ」


 驚いてスマホをフローリングに落としそうになる。

 慌てて握りなおして、画面を見ようとした


 その瞬間──

 

 ガンッ

 ガンッ

 ガッガッ 

 ガッ


 突然、部屋の外から衝撃音がしはじめた。

 それと同時に、スマホの中に写った建物のガラス窓が割れていく。


「何……?」


 思わずスマホと、衝撃で揺れている部屋の窓ガラスを交互に見る。


 ガシャン


 明らかにガラスの割れた音がして、現実の窓のほうに意識がいく。


 床にはガラスの破片が散らばっている。


 カーテンがゆらゆらと揺れはじめた。


 外からは生暖かい空気が入ってくる。



 そして、カーテンの向こうから何かが侵入してくる……



 姿を現したのは、痩せ細った女だった。

 ガラスで切ったのか、腕が血塗れだ。手にはスマホらしき物を持ち、そこからも血が流れ落ちている。


「……!」


 恐怖で声を出せないでいると、その女はよたよたと歩いて、目の前までやってきた。長い髪が顔にかかり、どんな表情なのかわからない。


「なななな、なん、な、なんだよ。なんだよ、お前」


 必死に声をふり絞り威嚇するが、腰が抜けて立ち上がれない。

 すると、その女はニタリと笑った。


「いいね、をありがとう」


 そう言って女は、両目を見開き震えている男の肩に、血で汚れた手をそっと置いた。


「次は、あなたが鬼よ」


 女の持っていたスマホの画面が光る。

 そこには噂の建物が写っていた。しかし、ガラス窓にはヒビひとつない。

 そして、その古いアパートの、白く薄汚れたガラス窓の奥には、恐怖に慄く男の姿があった。


*こちらは、「地図アプリ」というタイトルで、以前投稿していた作品を改稿したものです。

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