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第7話 修行開始

「あなたはデルメゼさん?ではありませんよね?」


「デルメゼ?知らん名じゃのう・・・」


一応、女神本人か確認してみるもやはり別人のようだ。


「あなたはいったい?俺、・・・いや、私のことをご存知なので?」


一人称はやはり慣れんな・・・


「ふむ。わしの名はアリス。お主のことは知らぬが、先にも尋ねた通り異界からの渡り人じゃろ?」


まさかこんなところに閉じ込められていたとは、どうりで探すのに手間取ったわけじゃとアリスは云う。


「異界とは地球のことですか?」


「ふむ。チキュウ、というのがどこなのかはよく分からんが、お主に心当たりがあるのならそうなのじゃろ。」


「なぜ俺、いや、私が地球からきたと分かったのですか?」


そもそもこの人は何なのか、人なのか、神様のような人ならざるものなのか、また味方なのか、敵なのか、まったく分からない状況だ。

一応の警戒はするものの、牢屋に閉じ込められて処刑を待つばかりという、いわゆる『詰み』の状況からこれ以上悪くなることもないだろう、それに何故かはわからないが直感でこの人物には悪意がないような気がした。

そう思った俺は少しでも情報を得るべく話題を振ることにする。


「そうじゃな。いろいろと語ってやりたいのはやまやまなんじゃが、あまりこんなところで長居をするものでもなかろう。」


アリスはそういうと再び指を鳴らした。


すると一瞬のうちにどこか山奥だろうか、背の高い木々が乱立する鬱蒼とした森の中に出た。


「っ!!」


その現実離れした体験に驚いていると、


「ここなら大丈夫じゃろう。」


といってアリスはまたまた指を鳴らす。


すると、今度は丸いテーブルと二脚の椅子が出現した。

テーブルの上にはポットとティーカップが二つ。

アリスは無言でポットから湯気が立ち昇る液体をカップに注いだ。


「立ち話もなんじゃ。茶を淹れたゆえお主も座るがよい。」


そう言いながらアリスは椅子に腰を下した。

俺も有り難く腰を下す。


湯気が昇っている以上それなりに熱いのだろう。

また、アリスのことを完全に信じているわけでも無いので、冷静に考えれば毒などが仕掛けられてることも考慮すべきなのであろうが、牢屋にぶち込まれてから何も口にしていなかった俺は我慢できずにカップのお茶を飲み干した。


一気に空になるカップ。

アリスは何も言わずにおかわりを注いでくれた。

ちなみにお茶は紅茶のようで空腹の俺にとってまさに命の水とでも呼べるような、身体全体に沁みる味わいであった。


「ありがとうございます。」


「うむ。気に入って貰えたようで何よりじゃ。」


アリスは満面の笑みで俺のお礼に応えてくれた。


「さて、一息ついたところで先ほどの問いに答えるとするかの。」


そしてアリスはなぜ、俺のことを知っていたのか。

俺を探していた目的やこれからのことなどを説明してくれた。


要約すると、

俺のことは知っていたわけではないらしい。

ただ、異界からエルフの少年、人間族の男性がそれぞれ渡ってきており、その二人を中心としてこれから魔王による人間世界への侵攻を食い止めるべく争いが起こること。

その二人にもう一人、同じ世界から渡ってきた人物がいることを聞いたこと。

それが誰か結局わからないままもう何度も世界は魔王に滅ぼされていること。

アリスさんは時渡りの異能を持っており、世界が滅ぼされる度にその異能を使い、対魔王軍戦争のやり直しと、俺を探していたことなどを話してくれた。

エルフの少年と人間の男性はそれなりに戦闘力も高かったらしく、毎回あと一歩というところまでは魔王軍を苦しめていたようで、俺が加わることで勝機を見出せるだろうと期待しているらしい。

俄かには信じがたい話だが、女神デルメゼに転生させられた時、デブの兄ちゃんと婆さんが一緒だったことを思い出す。

エルフの少年と人間の男性とはこの二人の事だろう。女神が言っていた内容だと、兄ちゃんの方は10歳のエルフ、婆さんは20歳の人間だったか。しかし、婆さん男になったのか。本人が望んだのか、はたまた俺のように女神の気まぐれにより性転換させられたのか、後者なら同情するな。


俺がそんなことを考えている間にもアリスさんの話は続く。


「というわけで、お主を探しておったのじゃ。わしの時渡りも万能というわけでもなくてな。もう何度もやり直しはできぬゆえ見つけられてよかったわい。」


アリスさんは心底よかったという表情をしている。


「して、お主はどんな能力を持っているのじゃ?」


アリスさんは期待に満ちた目で尋ねる。


「あー、それがですね。ちょっとした手違いでたいした能力は持たずに転生したんですよ。」


そして俺は説明した。

血糸とちょっとしたスキルしか持たずに転生させられたことを。


「なるほどのう・・・」


アリスさんははっきりとがっかりした風に肩を落としている。


「すみませんね。」


「いや、仕方あるまい。まぁ弱いなら鍛えればすむことじゃ。」


そう言ってアリスさんはまたまた指を鳴らす。


すると、一枚の扉が現れた。

イメージとしては、未来からやって来たネコのロボットが腹のポケットから出すどこにでも行けるドアに似ている。

ただし、色は禍々しさすら感じる漆黒の扉だ。


「これは?」(どこにでも行けるドア??)


心の中で答えを用意しつつも尋ねると、


「これは時の扉、じゃ。」


時の扉・・・

思っていたような好きな場所に行ける便利なドアではないのか。

てっきりこの扉をくぐった先に俺を強くするための師匠でもいるのかと思った。鍛えるとか言っていたしね。

しかし、どうも違うようだ。


そんなことを考えていると、


「お主にはこの中に入ってもらう。」


まぁそうだろうな。扉を出しておいて中に入らないということはないだろう。

それなら出した意味はない。

となると、やはりどこにでも行けるドアか。

ならなぜ時の扉とかいう名前なんだ??


「この扉の中は亜空に繋がっておってな。」


亜空?


「そこではここ現実世界と異なる時が流れておる。ゆえに時の扉という。」


ああ、よくあるやつだな。マンガやアニメでは定番のやつだ。


「ではその中に入って強くなるまで修行をすれば良いんですね?」


もうこの後の展開は読めた。

ゆえに結論を先に尋ねてみる。


「まぁそういうことじゃが、注意事項がある。」


そういうとアリスさんはいくつか注意事項を語った。

曰く、

この中には一度入ると現地の時間で最低1万年が経過するまでは出られない。なんでもそこでの1万年がこちらでは刹那の間に該当するらしく、1万年経つ前にこちらに戻ろうとすると高い確率で時空の狭間に放り出されるらしい。そのためその危険がないように、1万年経過するまでは扉が開かないようになっているとのこと。

その他、中に居る間は老化はしない。ただし、筋力や魔力の成長はする。加齢による成長は止まるが、鍛えたことによる成長はあるということらしい。

中では普通に怪我はする。病気にもなる。ただし、病気は加齢によるもの、例えば癌細胞が育つことなどは起こらないし、病原菌もないので掛からないのが普通ではあるが、スキルや魔法で病気を振りまくようなものは存在するため自らが発生させたウイルスや菌に侵される可能性はあるらしい。

ただし、扉の中にはどんな怪我や病気にも一発で利く水が湧いている泉があるらしく、それを使えば死ぬことは無いだろうとのこと。ただし、逆を言えばその水を使わなければ死ぬときは死ぬ、ということだ。

食事は食べられる木の実や山菜、それと扉の中にいる動物や魚、モンスターなどを狩ることでなんとかする必要がある。

要するにサバイバル生活だ。

寝床も自分で用意する必要があるらしい。アニメなんかだと、こういう修行ができる空間には家が有ったり食事も用意されているというような有り難い設定があるが、そういうものは一切ないようだ。

そして重要なことが、出た時には中で過ごした時間については忘れる。ただし、身に付いた能力は覚えている。

これは戻った時に現実世界での出来事を忘れていると困るため、そういう仕様になっているらしい。

ようするに記憶の修正、といったところか。中で1万年も過ごしたら記憶はそこでの生活しか残らなくなるだろう。要するに今この瞬間の出来事も1万年前の出来事になるわけだ。覚えていられるわけはない。

出てきたらアリスさんと模擬戦をし、能力の確認が行われるらしい。


「まぁ習うより慣れろ、というでな。泉の水がある以上そうそう死ぬことはないじゃろうし、さっそく行ってみるがよい。」


そして俺はあの地獄の(・・・・・)時の扉を潜ったのだった。

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