第6話 謁見投獄
「おおアリシア・・・。よく無事戻ってくれた。」
その後結局俺は訳も分からないまま王様と謁見する運びとなった。
もちろん、ここに至るまでに間、必死にこの状況の回避を考えた。
でも何も思いつかなかった。
そもそも馬車で騎士たちにこの世界のあれこれについて話しかけられながら移動、到着するなりメイドさんわんさか押し寄せあれよあれよという間に脱がされ、風呂に入れられ、洗われ、髪型や服装やらを整えられ、休む間もなく今この瞬間を迎えているのだ。
初めての場所、物語の中でしかみたことないような景色、騎士やメイドたちにあれこれされる以前に俺の意識をあっちにこっちに逸らさせる様々な仕掛けが満載なこの状況、とても思考を纏めるなど無理である。
「・・・・・・。」
国王=父親から心底安心したような声を掛けられ、本物ではない罪悪感に潰されそうになる。
なにせ、本物のアリシアさんはおそらくまだあの街だ。そしてたぶんもうこの世にいないであろう。
なんて答えたものかと黙ったままの俺を見て、はじめは何か話すだろうと、待ってくれていた国王も無言の時間が続いたことで怪訝な表情をする。
このまま黙っていると正体はバレないまでも記憶喪失設定は王様に伝わってしまうだろう。そうなると近衛騎士たちの責任問題になる。ここまでよくしてくれたザックス隊長たちにお咎めが行くのは俺も望まない。
ゆえに言葉を発しようするも、俺のその決意はしわがれた爺さんの声により遮られた。
「陛下。お待ちくだされ。」
そういって進み出たのはいかにも魔術師といったローブ(高級そうではある)を着込み、立派なデカイ宝石のようなものが先端についている杖を持った老人だった。
「マルセル宮廷魔法士長か。余のかわいいアリシアがやっと口を開こうとしたのに遮るとは、よほどのことであろうな?」
さっきまで俺に向けていた愛情のこもった柔和な表情から一変、視線だけで射殺せそうな視線に低くドスの利いた声音で王様が応じる。
「はい。恐れながらこの者は、アリシアさまではありませぬ。」
「??」
うおっ!
まさかここでバレるとは。
しかし、騎士さんたちのことを思ってとは言え姫のフリをしようと発言せんで良かった!
してたら取り返しがつかない事態となっていただろう。
まだ、俺は何も発言していない。
ここに連れてこられたことが誤解だったと分かってもらわねば・・・
しかし、現実はそう上手く行くこともなく、俺の正体は鑑定魔法で明らかにされ 、言い訳も虚しくこれまたあれよあれよという間に着飾らされたドレスは剝ぎ取られ、犯罪者よろしく手枷足枷にご丁寧に猿轡までされた状態で地下の牢屋にぶち込まれたのだった。
▽▽▽
ああ、どうしてこうなってしまったんだろうか。
窓も何もない地下の独房で手足動かせず口も利けない俺は芋虫にのように転がるしか出来ない。
ベッドなどあるわけもなく、むき出しの石畳に申し訳程度にひかれた藁のようなチクチクする敷物の上でだ。
今日は食事も無しなんだろうか。
まぁそもそもここで死ぬまでほっとかれる可能性もあるが。
この後のことを何も聞かされていないだけに不安は増すばかりだ。
「自分がどうなるか気になるか?」
見張りの兵士に声を掛けられる。
「んー!んーーっ!!」
猿轡をされている俺はまともに返事が出来るわけもなく・・・
その俺の無様な様子を見た兵士は嫌らしい笑顔を浮かべて云う。
「お前は処刑されるんだよ。」
まぁそうだろうな。
「怖いか?お前みたいな魔族風情でも死への恐怖はあるのか?」
魔族、そうか、ヴァンパイアということもバレてるか。
まぁ鑑定されたしな。
「それにしてもよりによって姫さまに化けるとは。楽に死ねるとは思わんことだ・・・・」
そういうと見張りの兵士は去っていった。
常時監視されてるわけではないんだな。
まぁ見張られてようが、そうでなかろうが実際俺には何もできない。
それにここはおそらく地下でもかなり奥にある独房なんだろう。
おそらくここ以外にもいくつか牢屋があり、1階に上がる階段があるのだろう。
いちいち各部屋を見張らずとも階段のところにでも兵士を配置すれば済む話だ。
見られてるよりはマシなので、とりあえず俺は眠ることにした。
▽▽▽
それから随分時間が経過したと思う。
もっとも、日の光も入らない(入ってきても困るが・・・)、ときどき兵士が巡回に来るが、やはりというべきか何というべきか、飯の差し入れすらない、ということで時間を測るすべが何もないのだ。
相変わらず手足と口を拘束されたままの俺は放置されている。
衰弱するのをただ待たれているのか。
しかし、処刑するといっていた以上、その時が来ればここから出されるのだろうが・・・
とにかく何とか逃げられないかいろいろ考えてみるも何も良い手は浮かばない。
ていうか、もはや詰みだと思う。
こんなことなら本当にもうちょっと考えて女神様に願いを伝えれば良かった。
こう考えるのももう何度目か数えるのも馬鹿らしくなったころ、ソイツはいつからか俺の真横に立っていた。
「お主、異界から渡りし者であろ?なぜ、このような状況になっているのじゃ?」
ソイツは俺を、いや俺たちをここへ送り込んだ女神デルメゼに瓜二つだった。
しかし、その割に発する言葉に違和感がある。
まず、女神なら俺のことは知っているはず。わざわざ確認する必要はない。
それになぜってそりゃ『人類の敵』に転生させたんだからこうなるのも当たり前だろう。
姫さまに成りすましてなくとも結果はそう変わったとは思えない。
「ああ、そのままじゃ何も話せぬな。」
そういうと女神に似たロリは指をパチンと鳴らす。
すると俺を拘束していた手枷、足枷、猿轡が俺から外れてゴトンっと床を転がった。
元より芋虫スタイルで這いつくばっていただけにそんなに大きな音はしなかったが、それでも地下牢の静寂を破る異音には違いない。
見張りの兵士に気付かれたのではと心配になる。
「大丈夫じゃ。見張りの兵たちにはちぃとばかり眠ってもらっているでな。」
そういうとロリは俺にウインクをして見せたのだった。