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第3話 咄咄怪事

ザッ ザッ ザッ


静寂に包まれた夜の森の中に響くのは自分の足音。

遠くから動物の鳴き声や虫の音なんかも微かに聞こえる。

ところどころに月明りが射しているものの、鬱蒼とした木々に遮られた場所がほとんどであり辺りはほぼ真っ暗である。

だが、流石はヴァンパイアというべきか、夜目はかなり効くようで、色調こそは夜のそれであろうが視界は昼間の景色とさほど変わらない程度に思える。

木の陰に誰かが潜んでいてもすぐに発見できる程度には見えている。


そういえば、ヴァンパイアだけに夜にステータスがアップするとかあるのだろうか。

目の見え方は明らかに良くなっているように思えるので、腕力や敏捷性なんかも上がっているのではと期待が持てる。


そういえば、よくある異世界転生ものだと最初に冒険者とか商人に助けてもらうような展開がある。

そんな幸運はそうそう無いんだろうけども、何とか街に辿り着かねば今後の生活もままならないであろう。

ヴァンパイアがこの世界でどういう扱いか分からないが、ぱっと見は人間にしか見えないので大丈夫だろう。たぶんだが・・・

むしろ、街にすんなり入れるものなのか、よくある入り口で身分証のようなものを求められたりしたらアウトである。

まぁ、とりあえず街を見つけて近づいて様子を窺うしかないだろう。


そんなことを考えながら歩いていると、前方から人の話し声が聞こえてきた。



「ぐふふふふ。今日も大量だったなぁ。」


「オラッ!さっさと歩けっ!」


ドガッという音とともに「きゃっ!」という女性の悲鳴が聞こえる。


「おいおい。大事な『商品』なんだからもっと丁重に扱えよ。」


「ふへへへ。と言ってもアニキ、この後味見するんでしょ?」


「ぐふふふふ。もちろんだとも!」


どうやら人攫いにでもあった女性が男二人にどこかへ連れて行かれている様だ。



何というテンプレ展開!

まぁ冒険者、商人コースでは無かったが、異世界的にありそうな場面に出くわしたもんだ。


何とか助けてあげたいけども、どうしたもんか。


「うん?」


と思っていると男のうちの一人、アニキと呼ばれていた方に見つかってしまった。

木の後ろに隠れていたのになんで見つかった?


「どうしたんですかい?アニキ。」


「あの木の後ろ、誰かいる・・・」


「マジですかい?ああ、何か布みたいなのが見えてますね。」


マジかーー。自分自身は木の後ろにしっかり隠れていたつもりだが、スカートの裾がはみ出していたらしい。普段着慣れてないってこともあるけども、この服、ちょっとふわっとし過ぎだな。

あと、風で葉が揺れたらしく、丁度月明りに隠れていた木が照らされたことも災いした。


さて、どうするか。

相手が二人なら、夜だし何とかなるか?

しかし、何の検証もしていないのにいきなり実戦はリスクだ。


女性には悪いがここはいったん撤退がベストだろう。


もちろん、見捨てるわけではない。

後でちゃんと探してみるつもりだが、ここは逃げるべきだ。


物語の主人公なら決して逃げず、いきなりの実戦でも見事に切り抜けて女性を助け出し、男二人が『大量』だと言って持っていたおそらく金目の物が入った袋も頂戴するところなのだろうが、あいにく現実はそう上手く行かないものだ。


瞬時にそこまで考えた俺は男たちとは反対の方へ走り出す。


「っ!待ちやがれっ!!」


アニキでは無い方の男が追いかけてくる。

アニキの方は女性を逃がさないように残ったようだ。


「はぁっ はぁっ」


少し走っただけだが既に息が切れてきた。

夜間ボーナスはどうした??


「あっ!」


そんなことを考えながら走っていたのがダメだったのか。

俺は木の根に足を取られてつんのめって転んでしまう。


痛えーーーー!


左腕の傷も完治しないままに思いっきり患部ごと全身を強打してしまった。


「手間かけさせやがって・・・」


男に追いつかれた。


「なんだぁ?こんなところに居るとかどんな奴かと思ってたがこいつもまた上玉じゃねえか。今日はほんとついてるぜ!」


しまったっ!万事休すか。


ザシュッ!

「ぐあっ!」


男に捕まるのを覚悟した時、男が背中から血を噴き出し前に倒れ込んでくる。


おお、まさかの救世主か!?


これも女神の用意したシナリオならとりあえず感謝しなければ。

もっとも、ここに至るまでに相当痛い思いもしたので文句も言いたいところではあるが・・・


たまたま通りかかった冒険者が助けてくれたのか。


そう思っていた時期が、俺にもありました。


▽▽▽


ザッ ザッ ザッ


いま俺は、何故か魔物の大群と共に森の中を行進している。


なんでいきなりこんな展開になっているかって?

それを聞きたいのはこちらの方である。


時は少し遡る。


▽▽▽


「どなたか存じませんが助かりました。ありがとうございます。」


カタカタカタッ


ん?なんだこの音は??

倒れ込んでいた俺は痛む左腕を庇いながらもなんとか起き上がり、男を倒した救世主の方を振り返る。


「・・・・・・」


スケルトンがいた。

手に持っているシミターのような剣を振りぬいた姿勢で。


なんで??


確かに、最初は慎重に探索していた森を、男たちに見つかったから仕方なかったとは言え警戒なんか二の次で走っていた。

当然、魔物やらなんやらに見つかることもあるだろう。


しかし、それと今の状況は繋がらない。

こいつはなぜ助けてくれたんだろうか・・・


そう思っていると、スケルトンがもう一体現れた。

しかし、シミターを持っているやつとはちょっと違う。

そいつはばっちり鎧も着込んでおり、騎士のヘルムのような兜も付けている。

シミターを持っているやつの上官だろうか。


「コンナ、トコロデ、カキュウヴァンパイアガナニシテイル?」


その上官っぽいやつに話しかけられた。

カキュウヴァンパイアって俺のことか。そうなんだろうな。なんだカキュウって?火球、ではないだろうな、もしかして、下級?おそらくそうなんだろうな。


「ちょっと、道に迷ってまして。」


しかし、こいつらにはヴァンパイアってバレてんな。

人間社会で生きていくのは諦める必要ありか?


いや、しかしさっきの男は上玉とか言ってたし、普通の人間の少女と思ったのだろう。

もちろん、暗い森の中でのこと、よく見られていればバレてた可能性もある。


「マヨッタ?ナニヲイッテイル?オマエモ、スグニタイレツニ、フッキ、シロッ!」


「タイレツ?」


「ソウダ。マオウサマノ、ゲチ、ニヨリ、コレカラ、ニンゲンノマチ、ヲ、ホロボス!オマエ、モ、シッテイルハズダッ!!」


いや、知りませんっ!

すいませんっ!!


そんなツッコミを言えるわけもなく、俺はその後もゾロゾロと現れた魔物の軍勢の中に加えられ、この先にあるらしい『ニンゲンノマチ』に向けて行進をするハメになったのだ。


うん、これで街の場所を探すことと、どうやって中に入るかの問題は解決だねっ!

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