第2話 確認作業
城へ帰ってきた俺はとりあえず傷の手当を試みる。
『ヒールっ!』
使用可能魔法には載ってなかったが、とりあえず唱えてみる。
当然、何も起こらない。
となると、薬草かポーション的なものか、何か治療に役立つものを探してみることにする。
この際、薬は見つからなくとも包帯でも何でも良い。
とにかく風に当たっただけでも傷が痛むのでなんとかしたい。
そう思った俺は城の探索を開始した。
▽▽▽
「何も見つからねえ。」
1階、2階はもちろん自分が寝ていた例の地下室にも行ってみた。
地下室は2階の玉座の間から1階を通り越して地下まで降りねばならぬため、体力的に行きたくはなかったけど他の場所で何も見つからなかっただけにしようがない。
薬どころか調度品や家具以外は何も見つからなかった。
この城、そんなに傷んではおらず綺麗な状態が保たれているんだが、やはり廃墟なのか。
仕方がないので寝室らしき場所からシーツを拝借し、破って傷ついた左腕に巻きつけた。
なお、破るのにも相当苦労した。
この身体、力も全然ないようで引き裂くなんてとても無理。
ではどうしたかというと、廊下の調度品の中に剣を持った鎧みたいなのがあったので、その剣を拝借した。
ちなみに、その剣も相当重かった。
なんとか剣を寝室に運び、ベッドごとシーツにぶっ刺した。
そして、刺さったことで出来た裂け目を何とか力まかせに引き裂いたのだ。
これで力的にはギリギリの作業であり、終わった後には両腕ともプルプル震えていた。
これはとてもじゃないが、この剣を振るのは無理だな・・・
丁度寝室だったこともあり、それからしばらく他のベッドで休んだ俺は、陽も少し傾いてきたころにようやく活動を再開する。
次は、スキルの確認をしようと思う。
『ステータス』
念のため、もう一度使用できるスキルを確認すべく、ステータスを開く。
いや、何も変わってないとは思うけどもさっきシーツを引き裂くのに剣を使ったのでなにか剣技的なものでも増えてないかなと一縷の望みを持ったのだ。
しかし、結果は無常である。
表示されたのは先ほどと全く変わらぬ画面であった。
それにしても、名前が未定っていつまでもこれでは駄目だろうな。
しかし、自分はゲームなんかでも名づけは超がつくほど苦手だ。
デフォルメで決まっている名前がある場合なんかでは100パーセントそのままの名前でプレイするほどだ。
ヴァンパイアの名前と言えば、ドラキュラだろうか。
しかし、それだと男っぽいか。
女になったことを完全に受け入れられたわけではないが、しかし今更どうしようもないだろう。
自意識は男であるが、だからといって俺は男だぁーーーーっといって男名を名乗るのも違和感しかない。
まぁ急ぐものでもないだろうが、名前も候補くらいは考えるとしよう。
さて、ではいよいよスキルの確認である。
さきほど『ヒール』は使えなかったが、それは表示されてなかったわけだから仕方がない。
唯一表示されている『血糸』。
これは使えるはず。
『血糸!』
俺は部屋の真っ白な壁に向かって両手を突き出し、叫ぶ。
左腕が痛かったが、初めてのファンタジー世界でのスキルである。
テンションが上がっていた俺はその痛みも気にならなかった。
プシュッ・・・
そんな音がして、真っ赤な液体が壁に向かって射出される。
それはまさに糸状の細い線で出来ていたのだが、勢いなく壁に到達する前に床へと落下する。
「・・・・・・」
ん?
チートを血糸と勘違いされた時点で異世界を無双できるほどの能力は諦めてはいたものの、これは想像を遥かに下回るほどのクズスキルっぷり。
壁まで2~3メートルの距離さえも届かず絨毯のシミと化した血糸でいったい何ができようか。
いや、諦めるのは早いか。
届かなかっただけで、壁に当てることができれば壁を傷付けることもできるかも?
そう、当たりさえすれば。
「当たりさえすればぁーーーーーっ!!」
俺はそう叫びながら今度は壁の目の前で『血糸』を射出する。
なお、スキル名も言わずにやってみたわけであるが、とりあえずスキルは発動した。
『詠唱破棄』の効果だろうか。
てっきり魔法に適用されるものかと思ったがスキルにも適用されるようだ。
これは嬉しい誤算と言えよう。
なお、肝心の『血糸』による効果であるが、血液が壁に付着したのみでまったく傷は付かなかった。
・・・・・・・
糸状の線が壁に横線を作っている。
血で出来ているだけに、横に走った線のあちこちから血が下に向かって滴っている。
いわゆる血文字の出来上がりである。
ちょっと、ホラー的な要素満載である。
剣が突き刺さっているベッドに破かれたシーツ、そしてこの血文字に床に出来た血のシミ。
目覚めて最初にこの部屋に入ってこの状態だったら気絶したかもしれん。
さて、これからどうしようか。
とりあえず、スキルの検証も兼ねて『血糸』を壁に打ちまくった。
威力は諦めたが、何回くらいできるのか、使用に血を使うなら、貧血にならないか、などなど確認しておきたかったのだ。
実戦では目つぶしくらいにしかならないだろうが、それでもそれらの情報が生死を分けることもあるだろう。
使用回数の上限に気付かず打ち止めになったり、貧血で倒れたりすれば待っているのは死である。
まぁヴァンパイアはアンデッドに分類される作品も多いから死なないのかも知れないが・・・
でもヴァンパイアも死んでるよね?
寿命的なものでは死なない可能性もあるんだろうけど、やられたら死ぬ。おそらくそうだろう。
というわけで壁打ちを続けたわけだが結論から言うと使用による回数制限や貧血症状は起きなかった。
本物の血液を使ってるというより魔力を使っているのかも?
となると、魔力無限ではないものの魔力(極)を持つ俺ならほぼ無制限に打てると見てよさそうだ。
なお、壁打ちの途中から何となく血文字っぽかったこともあり、意味のある?文言を書いてみることにした。
『夜露死苦』とか髑髏マーク、『死ね』とか何となく雰囲気に合ってる気がしたので書いてみた。
ちょっと虚しい気分になった。。。
そして気付けば陽も落ちて辺りに夜の帳が降りていた。
俺は城から出てみることにした。