プロローグ
とある森の奥地にひっそりと佇む古城。
その城の玉座の間の後方に或る隠し階段を下った先にある地下室に俺はいる。
なぜこんなところにいるのかは分からない。
そもそも俺は普通の大学生だった。
そう、どこにでもいるような所謂『普通』の大学生。
容姿普通、勉学普通。スポーツも得意でも不得手でもない、まさに普通を体現したような男・・・
高校最後の通知表なんか本当に『オール3』を成し遂げ(それまでは2やら4やらもあったんだ、少しだが・・・)、まさに普通を極めたかに思えた人生だった。
だったのだが、まさかあんなことになるとは・・・
▽▽▽
「申し訳ないのじゃが、お主らは死んでしもうたんじゃ・・・ホントにすまん・・・」
いつものように大学で面白くもない講義を受け、いつものバイト先に向かう途中のことだった。
信号が青に変わったので横断歩道を渡り始めた俺を待っていたのは熱烈な猛アタックをかましてくる一台の大型トラックだった。
いや、正確には『俺たちを待っていたのは』というべきか・・・
その時たまたま俺以外にも人がいた。
あの大きさのトラックがあのスピードで突っ込んできたんだ。
おそらく俺以外の奴らも巻き込まれただろうとか考えているとさっきの声が聞こえてきた。
まず声の主を探してみる。
声が聞こえてきた方を見るとすぐにその姿を発見できた。
その口調、それと実際しゃがれた声質から想像するに相手は老人だと思っていたけど視界に入ってきたのはロリだった。
ロリは続けて言う。
「実は、お主らの死はこちらの手違いでのう・・・詫びにお主らに新たな人生を与えたいのじゃが・・・」
ふむ。生まれ変われるということか。。。
俺には家族はいなかった。
『普通』を自負する俺の唯一『普通』とは異なる点、それが家族構成であったかもしれない・・・
俺の両親は俺を産んですぐ他界したらしい。
俺を育ててくれた祖父母が言っていたのでそうなんだろう。
理由までは話してくれなかったので実際のところは分からないのだが、祖父母を信じていた、というか疑っても仕方がないし、それで新たな事実が判明してもややこしいだけなので両親は死んでしまったんだということを受け入れて育ってきたのだ。
俺を育ててくれた祖父母も俺に遺産を残して旅立った。
なので俺は一人なのだ。
だからなのか『自分が死んだ』と聞かされても、「ああそうなんだ」くらいにしか思わなかった。
残した家族とかがいるなら多少違った感想もあったのかも知れないが。。。
「えと、良いですか?新たな人生ってもう一度生まれ変われるってことですか?それはいつの時代ですか?両親とちゃんとした別れも出来ずにこうなってしまったのでできれば両親が生きている間に生まれ変わらせてもらいたいんですが・・・」
声の主の方をみる。
太った兄ちゃんだった。
なんていうか、その姿からは想像できない綺麗な高音ボイスだ。
年は俺よりは少し上くらいだろうか・・・
デブ、ブサイク、ハゲのコンボを見事に決めた兄ちゃんだ。
ちなみにハゲは頭頂部からくるタイプでもう少し進行したら見事な『カッパ』が完成するだろう。
なんとか完成まで生きて欲しかった。
「すまんがお主らに生まれ変わってもらうのは地球とは異なる世界なんじゃ・・・」
異世界キターーー( `ー´)ノ
俺は実はファンタジーものが大好きだったりする。
マンガ・アニメ・小説・ゲーム、さらには映画、なんでもコイだ!
ファンタジー最高!!
「地球とは異なる世界とな?それはいったいどういうことじゃ?」
さらに別の声が聞こえた。
声の主は俺の真後ろにいたようなので振り向く。
車椅子にすわった婆さんがいた。
今度はロリじゃなかったか・・・
「お主らの暮らしておった『地球』は数ある文明を築いた世界の一つにすぎんのじゃ・・・」
「他の世界も地球みたいな世界なんですか?」
太った兄ちゃんが聞く。
「いろいろじゃ。地球と同じように発展した世界もあるし、まったく異なる文明を築いた世界もある。」
「ふむ。ようわからんけぇお前さんたち若いもんで話しておくれ。」
婆さんはこの話についていけなくなったのかそう言って目を閉じた。
そしてすぐにカクカクと首を揺らし始める。
この状況ですぐ寝れる神経すげえわ。
「一ついいですか?」
俺も聞いてみる。
「なんじゃ?」
「あなたは神様ですか?」
「そう言えば自己紹介がまだじゃったのう。わしはデルメゼ。お主らの呼び方でいうなら神じゃ。」
まぁわかってはいたんだが一応聞いてみたらやはり神様だった。
「生まれ変われる世界は自分で選べるんですか?」
ココ、重要!
なんとしてもファンタジーを!!
「うむ。先ほども言ったとおり『地球』以外でじゃが・・・」
太った兄ちゃんを見る。
悲しそうな顔をしていた。
「選べるのであれば剣と魔法の世界が良いですっ!!」
言ってやった!
言ってやったぞっ!!
「おおっ!ちょうど良かったのじゃ。実はアリステスの女神から何人か寄こしてくれと頼まれておってのう。。。」
アリステス??そこが剣と魔法の世界の名前か。
「どうもかの世界で何やらトラブルが起こってるようでの。」
良いねえ、トラブルッ!
トラブル最高っ!!
どうせなら世界滅亡の危機とかだったらいいんだけども。
「お主、とんでもないことを考えておるの。」
おっと、考えが読めるのか。さすが神様だ。
「さて、今回の件はワシらの手違いじゃし、転生にあたって少々希望を聞いてやろうと思うのじゃ・・・」
キターーーΣ(゜Д゜)
チートッ!
チートチャンスッ!!!
やっぱ異世界といえばコレでしょ。
むしろコレなくして生き残れないっしょ!
ちょっとキャラが崩壊しつつあるな、いかんいかん、落ち着かねば・・・
「・・・・・・」
神様はそのロリ顔でめいっぱいのジト目を向けてくる。
思わず俺は視線を逸らした。
「あの・・・」
太った兄ちゃんが呟くような声で話しかける。
「希望を聞いてくれるって、なんでもですか?」
「いや、さすがになんでもというわけにはいかんのじゃ。じゃが、なるべくは聞いてやりたいと思う。とりあえず希望があるなら言ってみるのじゃ。」
「あ、えと、ここで言うのはちょっと・・・恥ずかしいんですが。。。」
兄ちゃんはちょっと頬を赤らめながら横目で俺を見つつそう言った。
いや、なんでそんな表情で見るの?
それにここで言うのが恥ずかしいってどういうこと??
「ではこれから個別に要望を聞くとするかの。聞き終わった者からさっそくアリステスに行って貰うとするのじゃ。」
ではまずはお主からじゃな。太った兄ちゃんはそう言われてロリに手を掴まれたと思うとこの場から消えた。
おおっ!
人がいきなり消えるとかすげえファンタジー!!
正確にはここは死後の世界なだけでまだファンタジー世界じゃないんだろうけども。
しばらくしてロリ神様だけが戻ってきた。
時間はそんなに経ってないと思う。
10分くらいだろうか。
ここにいると時間感覚が狂うな。
「さて、お次は・・・」
神様は俺と眠っている婆さんを交互に見る。
「さきに面倒そうな方から片付けるとするかの。」
そういうと車椅子に座って眠りこけてる婆さんの手を掴んで姿を消した。
その場に車椅子だけが残る。
・・・・・
婆さん、車椅子なしで大丈夫なんだろうか・・・
しかし、いまさらだが今回ここに呼ばれたのは俺、太った兄ちゃん、婆さんの3人だ。
轢かれた時、太った兄ちゃんは確か俺の前を歩いていた。
後ろは見てなかったが、婆さんは俺の後ろにいたんだろう。
ということは、もう一人婆さんの車椅子を押していた人が居たんじゃなかろうか。
それとも婆さんは一人で車椅子を漕いでいたのか。
いや、無理だな。
そんなに体力ありそうに見えん。
となると、あの事故で車椅子を押してた人は死ななかったということか。
まぁどうでも良いんだけど。
なんていうか、この状況。
普通なら神様に何を頼むかとか悩むところなんだろうな。
でも、俺が求める事はただ一つ!
そしてそれこそが異世界を生き抜くのに唯一無二の最適解!!
そう、チートを要求する以外にない!!!
ということで願うことも決まってる俺はどうでも良いことを考えながらリラックスしながらその時を待っていたのだった。