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 城の牢獄で二晩を過ごしたあと、私はあっけなく開放された。


「姉さん! 無事で本当に良かった」

 自宅に到着してすぐに駆け寄ってきたのは、弟のマリウスだ。

 ひとつ年下のマリウスは、血縁的には私の従兄弟だ。八年前、父の家督を継ぐために養子となった。

「心配をかけてごめんなさい、マリウス」

 マリウスは首を横に振る。

「姉さんが無事ならいいんだ。それより、父上のところへ行く前に、ちょっと寄り道しない? さっき料理長が姉さんのためにケーキを焼いていたよ」

 いつもの調子のマリウスに、口元がほころぶ。


 少し心配していたのだ。

 急に態度の変わったレオニード様とメロディ。

 ひょっとすると、マリウスにも何かおかしな変化があるんじゃないかって。

 あの「おとめげーむ」中には、ヒロインの恋の相手の一人として、マリウスも登場していたから。



 私が解放されたいきさつを父は知っているようだが、詳細はまだ教えられないと言われてしまった。

「近いうちに話す。疲れただろうから、今日はゆっくり休みなさい」

 そう言われてしまえばどうしようもなく、大人しく自室へと戻った。


 疲れていたのは本当で、ベッドに入るのとほとんど同時に眠ってしまった。



 翌朝、今回の件での事情聴取のためと、マリウスが呼び出されて出かけて行った。

 私と家族であり、メロディ様とは同い年のため、しばしばサロンなどで話す機会があったからのようだ。


 マリウスが出かけて間もなく、屋敷内が慌ただしくなった。

 急な訪問者がやってきたからだ。


 しばらく父と歓談していたようだが、客人が私との面会を希望していると呼び出され、慌てて身支度を整え応接室へと入った。


 立派な身なりの若い青年だった。

 夜会で何度か見かけたことがあり、彼が何者なのかは知っていた。

 クリゾンテーム辺境伯、アリエル様だ。


 すでに爵位を継いでいるが、確かまだ20代前半だと聞いていた。

 女性的な白皙の美貌で知られていたが、近寄りがたい雰囲気がある人だ。

 その美貌に惹かれて勇気ある女性が話しかけに行っても、皆一言か二言で撃沈して退散するらしい。

 よくは知らないが、気難しい方なのだろうと思っていた。


 いざ目の前にすると、輝かしいばかりの美しさに改めて驚く。

「……お目にかかれて光栄です。ロゼットと申します」

 圧倒されて一瞬呆けてしまい、慌てて挨拶をした。

 彼は無言で切れ長の瞳をすっと細めて、着席を促した。


 苦手なタイプだ。

 レオニード様に似た威圧的な雰囲気から、そう思った。


 そういえば、辺境伯は王弟の甥にあたるので、レオニード様とはいとこ同士だ。


「ロゼット、聞きなさい。アリエル様のご厚意で、しばらくお前を辺境伯家で保護してもらうことになった」

「え、保護……ですか? どういうことでしょう」

 父が言うには、私が危険な状況に巻き込まれていると、アリエル様が国王に進言してくださったらしい。

「高名な魔術士であるあなたであれば安心だ。娘をよろしくお願いします」

 頭を下げる父に、アリエル様は頷いて、ようやく一言発した。

「時間がない。すぐに出発する」



 荷物はあとで送るからと、アリエル様の用意した馬車のひとつに乗せられ、わけのわからないままに辺境伯領に向かうことになった。


 日の傾きかけたころ、馬車はクリゾンテームの城に到着した。


 到着してすぐ、夕食の支度が整うまでに、アリエル様と話すようにとティールームに案内された。

 小ぢんまりと居心地のよさそうな部屋で、城の規模から察するにいくつかの応接用の部屋の中ではもっとも小さい部類だろう。

 ティールームにはすでにアリエル様が入室していた。

 襟元は気崩され、足を崩して長椅子に腰掛ける邸の主に、ぎょっとする。


 ご実家とはいえ、客人の前でこんなだらしない恰好をする人だったなんて……


 私が面食らっていると、

「何をしている。早く座れ」

 そう言われてしまい、茶器が用意されている椅子に腰掛けた。


 淹れられた茶を一口飲むと、改めてアリエル様を見る。

「あの、ご事情を説明いただけますか。私が危険な状態とは、どういうことでしょう? メロディ様と何か関係が?」

「その女のことは良く知らん。関係があるかどうかはさておき、お前が危険だというのは一目瞭然だ。お前から強い呪いの気配がするからな」

「の、呪いですか?」

「ああ……そういえばコレも処理しておかんとな。会ってすぐに無効化だけはしておいたが」

 急に顔の前に手を伸ばされて、びくりとする私にお構いなく、アリエル様は私の両耳からイヤリングを外した。

「な、何をなさるんです!」

 抗議の声を上げるが、白けた顔でアリエル様は言った。

「お前、監視されてたぞ」

 そして指先でイヤリングに触れると、装飾の玉がボロリと崩れた。

「監視とは、つまり」

「特定の相手に声が届くように魔術が込められている」

 声を、盗み聞きさていたのか。

「いったい誰がそんな……」

 外出した時しか身に着けたことがないから、世間に暴露されては恥ずかしいような個人的な独白などは届かなかったはずだ。不幸中の幸いか。

「さあな、おそらくお前に呪いをかけた犯人のしわざだろう」

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