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【改訂版】夢のつづきを見にいこう  作者: 羽藏ナキ
第二章:家族

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性別不詳の店主

 ぼーっと雨を眺めながら思いがけずできた時間をどうつぶすかと考えていたら、ふとあの張り紙のことが頭に浮かんだ。

 たしか、「夢のつづきを見にいこう」と「この先、二階」と書かれていたな。どうせ雨が止むまでは帰れないし、暇つぶしに見に行ってみるか。

 俺は立ち上がって袋を片手に階段を上った。明かりのない階段はうす暗く、蒸し暑いせいかカビ臭い。


 二階まで上がると左手側に張り紙のある扉が目に付いた。書かれている内容は外のものと同じで、扉は塗装が剥がれていて建物の外観と同様にボロボロだった。扉の前に立っても奥からは物音はせず、外の激しい雨音だけが耳に届いてくる。

 俺はドアノブに手をかけ、扉を押し開けた。さびついているのかギイィと音がしたが意外にもすんなりと開いた。


 中は広めのワンルームといった感じだった。正面にはテーブルと椅子が二つ、右手側には大きな棚とクローゼットがあり、その後ろには台所が見えた。左手側には使い古されたこげ茶色のソファが壁際に置かれており、そのソファの隣に立って窓から外を見つめる人物がいた。

 黒いタートルネックに紺色のジーパンのひょろ長い体型で、後ろで束ねた髪は腰近くまで下ろされている。こんな真夏に長袖とジーパンなんて暑くないのか。

 雨の商店街を見下ろすその人物は、扉が閉まるのと同時にこちらを振り返った。それによって腰まで伸びた長い髪が揺れる。


「いらっしゃいませ。おや? ずいぶんと濡れていらっしゃいますね」


 その人物はかすれたような声でそう言うと右側の棚から白いハンドタオルを取り出し、俺の前まで来て「どうぞ」と差し出した。遠目からでも背が高いと思っていたが、近くに寄るとより際立って見える。百七十センチ後半の自分よりも高いから百八十センチ以上はあるだろう。俺は「どうも……」と軽く頭を下げてからタオルを受け取り、頭、首、腕を拭いていく。


「それにしても急に降られるなんて災難でしたね。かく言う私も洗濯物を干そうと思った矢先に降られてしまって……なんとも間が悪いですね」


 目の前でガクッと肩を落とすような動作を見せられたが、本当に落ち込んでいるのかはよく分からなかった。

 切れ長の目と少し吊り上がった口角から不気味な笑みを浮かべたお面を張り付けているように見えて、感情が伝わってこない。そもそもこの人物は男か女かどっちなんだ? 中性的な外見で判別がつかない。まぁ、下手に聞いてセクハラだなんだと言われるのも面倒だし、触れないでおくのが得策か。

 身体を拭きながらそんなことを考えていると、性別不詳のその人物が思い出したかのようにぽんと手を叩いた。


「申し遅れました。私は夢野といいまして、この店の店主をしています。」


 夢野と名乗るその人物はそう言って丁寧に頭を下げた。

 夢野か……。苗字だけでは結局男か女か分からない。見た目は三十代前半くらいでおそらく年下だろうが、ここは夢野さんと「さん」付けするのが無難だろう。


「夢野さんね。俺は坂木。あと、タオルどうも」


 自己紹介がてらタオルを返すと夢野さんは笑って受け取った。


「坂木さんですか。では坂木さん、突然ですが、あなたに夢はありますか?」


 は? 夢? 本当に突然のことで一瞬だが思考が止まった。

 ただ質問の意図が言葉通りであれば、俺の答えは決まっている。


「あいにくだが夢なんてない」


 俺がきっぱりと言うと夢野さんは「あ、そうですか……」と言って再び肩を落とした。今度は本当に落ち込んでいるように見える。それから気持ちを切り替えるためか、夢野さんは咳払いをして再び質問を投げかけてきた。


「では、聞き方を変えて……坂木さんは寝る時に見る夢で、もう一度見たいものや続きが見たいものはありませんか?」


 今度はそっちの夢か。そう思って最近見た夢を思い出そうとしたが、なにひとつ思い出せなかった。子供の頃はあったかもしれないが、それこそもう何十年も前のことだから覚えているはずもないし、そもそも仮に見たい夢があったとしても、そんなもの恥ずかしくて人に話せない。


「そっちの夢も特にないな」


 俺がまたきっぱりとそう言うと、夢野さんは三度ガクッと肩を落とした。しかし、すぐに背筋を伸ばしたかと思うと今度は熱く訴えかけてきた。


「いや、そんなはずはありません! なにかひとつくらいはあるでしょう! そうだ! 立ち話もなんですし、こちらに座ってゆっくり思い出してみてください! さぁ、どうぞどうぞ!」


 夢野さんは奥のテーブルと椅子に手を向けながら近寄ってきた。

 なんなんだ、さっきから。いい加減うっとうしくなってきて帰ろうと思ったが、外はまだ雨が降り注いでいた。せっかく身体を拭いたのにまた濡れて帰るのも癪だし、大量の酒を片手に立っているのが疲れてきたこともあって、俺は仕方なく勧められるがまま手前側の椅子に腰かけた。酒の入った袋はテーブルの上には置かず椅子の隣に下した。


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