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在りし日の記憶
若い女性が楽しそうにピアノを弾いていた。
それは、BGM代わりにとテレビをつけたら流れてきたドラマのワンシーンだった。雰囲気的に恋愛ドラマなんだろうが、ぼーっと流し見をしていたから内容はよく知らない。おおかた、世間が夏休みだから適当な人気ドラマを再放送で流しているんだろうが、四十過ぎの俺には最近の若者の恋愛なんか分からないし興味もない。
ただ、女性がピアノを弾く姿だけが頭に残り、気づけば眠っていた在りし日の記憶が呼び起こされていた。
わたし、将来ピアノを弾く人になりたい。
小さい無垢な笑顔が俺を見つめ、さらに言葉を続ける。
わたしもっともっと上手になるから、そしたらピアノ聴かせてあげるね。
「はぁ……」
頭に浮かんだ映像をかき消すように、俺はため息をつきながらテレビを消した。
冷蔵庫を開けると買い溜めしたはずの酒が一本も残っていなかった。
「チッ、もう切れたのかよ」
俺は財布を掴み、サンダルを突っかけて家を出た。
外のうだるような暑さに俺はもう一度舌打ちをした。




