生存者Ⅰ 棚ぼた
「ウァー! 眺めが良いなー」
「本当に、良い眺めねー」
「そうだろ、マンション自体は15階建てで60メートルくらいの高さしかないけど、マンションの直ぐ前は市民の憩いの場になってる広い公園だから、眺めが良いんだよ」
「でも兄貴、家賃とかはどうしてるんだ? こんな豪華なマンションを借りられる金があるんなら、サッサと貸した金を返してくれ」
「今日お前たちを呼んだ理由は、それなんだよ。
実は5年ほど前にお前に生活費を借りた時、その金でロト7を10口買ったんだ。
お前はギャンブルなんてやらないから知らないだろうけど、そのときロト7はキャーリーオーバーで約100億円の当選金があったんだが、同じ数字で10口買ったそれがドンピシャで当たって、税金のかからない100億の金を手に入れたんだ。
で、その金を今度は先物取引に注ぎ込んだらまたまた当たって4桁億円の金を手にしたんで、その金で此のマンションを建てたんだよ。
そういう訳で此の賃貸しマンションは俺の所有物。
だから家賃を払うどころか、逆に頂いてる身分なんだ。
それでだ、5年前に借りた金を含んで今までお前には6000万円近い金を借りてるから、一括返済しようと思って来てもらったんだ」
そう弟に告げ、俺はテーブルの上に置いておいたセカンドバッグから小切手を取り出し弟に渡しながら話しを続けた。
「利子と迷惑料込みで1億円、今までありがとう」
「え? 兄貴、良いのか?」
「ああ、今の俺には、1億2億なんて端金だからな。
そういえばお袋は元気か?」
「実家で元気に農作業頑張ってる。
そうだ! 今度のお盆にでも実家に行ってみろよ」
「お盆は避けとくは、民族大移動でもみくちゃになるのはご免だからな。
9月か10月、涼しくなったら行くってお袋に伝えておいでくれよ」
「お袋と本家にそう伝えとく。
それじゃ、そろそろお暇するよ」
「もう帰るのか?」
「兄貴には端金でも私には大金だ、だから早く銀行に預けに行きたいからね」
「そうか、また来いよ」
弟とその家族を玄関から送り出した俺は、専用エレベーターの隠しマイクのスイッチをいれる。
隠しマイクのスイッチを入れた途端、俺を馬鹿にする弟たちの話し声がスピーカーから流れて来た。
「会社を首になったあと働きもせずにギャンブルにのめり込んだ屑が、変われば変わるもんだ」
「ホントね、会社を首になったのも、集金した会社のお金をパチンコに注ぎ込んだからだったわね」
「お父さん、お母さん、駄目だよ悪口言っては、あのオッサンあれだけブクブク太って顔色悪かったもの直ぐにあの世に旅立つと思うよ。
旅立ったらあの資産はお父さんとお婆ちゃんの物に成るんでしょ」
「そうね、最終的にあなたの物になるわね」
「医者の私の見立てだと、持って10年、うまければ2~3年であの世行きだろう」
3人が笑い出した所でマイクのスイッチを切る。
弟とその家族をマンションに招待したのは、小切手を渡す為だけでなく俺の持つ資産を欲しがると思っての事。
昔から自分が国立の医大を出て医者になった事を自慢し、最終学歴が底辺高校の俺を馬鹿にする弟。
弟と結婚するときに大学も出ていない屑に出席して欲しく無いと面と向かって言い、結婚式に招待しなかった義妹。
此の2人の一粒種で、会う度に蔑みの目を向けて来る甥。
お袋も同じ、子供の頃から出来の良い弟だけを可愛がり俺を邪険にして来た。
だから此の4人に復讐する為の布石が一番の目的なのだ。
俺自身、それほど先が長くないのは分かっている。
だけどやっと運が向いて来て得た資産を、俺が死んでから彼奴等に相続させたく無いって思いが強いのだ。
金融財産は外国の銀行に預け暗証番号が無ければ下ろせないようにしてあるから、彼奴等にはそこに金があると分かっていても手を出すことは出来ない。
金融資産以外の不動産は奴らの手に渡るけど罠を仕掛けてある、それが此のマンション。
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今日も朝から雨が降っている、お盆の帰省ラッシュを狙ったように台風が日本列島を横断しているからだ。
こんな土砂降りの雨が降る中、荷物を持ち子供の手を引いて帰省しようとしている奴らの顔を拝んでやるかとテレビを点ける。
テレビを点けた途端、俺の目に青白い顔をした人間が人の顔面に食らいつき、その顔の肉を咬み千切って咀嚼するのが映った。
なんだ? と思う間も無く画面が変わりニュース番組のスタジオが映される。
画面の正面に映るニュースキャスターもなにがなんだか分らないというような顔をしていた。
それでも言葉を発しようとしたその時、突然ニュースキャスターが胸を押さえ苦しそうな表情を見せながらその場に崩れ落ちる。
スタジオにいた他のスタッフ数人が倒れたニュースキャスターに駆け寄って行く。
その中の1人がニュースキャスターの腕を取り脈を診ようとした。
その自分の腕を持つスタッフの腕にニュースキャスターが噛みつき肉を引き千切る。
ニュースキャスターの顔は、最初にテレビの画面に映し出されていた人間のように青白い顔に変わっていた。
混乱し人の叫び声や怒号が響くスタジオ内の画像が直ぐに切り替わり、画面に此のまま暫くお待ち下さいのテロップが映り出される。
俺は何が起きてるんだと思いながらチャンネルを変える。
チャンネルを変えたら何時もの帰省ラッシュの模様が、地方都市にある駅から生中継されていた。
マイクを持った記者が、新幹線から降りてきた帰省客の中の小さな女の子にマイクを向け質問しようとした矢先。
隣のホームに止まった新幹線の中から悲鳴や怒号が聞こえて来て、乗客が先を争うようにホームに逃げ出して来るのが映し出された。
カメラは何か言いかけている記者を無視してその様子を映していたが、突然画面が揺れカメラが放り出される。
ホームに横倒しになったカメラがそうなった理由を映す。
テレビ局の腕章を巻いた男が青白い顔をした数人の人に押さえつけられ、身体中の肉を噛み千切られていたのだ。
青白い顔の奴らから逃げようと暴れるカメラマンと思われる男を見捨てて、階段を駆け上がって行く記者の姿も映されていた。
俺はテレビを点けぱなしにしたままバルコニーに面した窓を開ける。
窓を開けた途端にパトカーや救急車それに消防車のサイレンが、街のあちらこちらから聞こえて来た。
土砂降りの雨で良く見えないが、公園の向こう側の住宅街数カ所で黒煙が上がっているのが薄っすらと見える。
俺はそれを見て下の階にあるマンション内の監視カメラの映像を全て見ることができる、監視ルームに足を運んだ。
マンションの14階と15階のフロア全体が俺の部屋。
15階は俺の住居で、15階からしか行かれない14階は監視ルームと色々な物資が詰まった倉庫がある。
監視ルームでマンション内では火事が起きて無い事を確認し、序でにマンションの地下駐車場に通じる通路の分厚い防火扉を閉め、マンション1階の出入り口と窓のシャッターを全て下ろす、それに非常階段に出る各階の扉を全てロックした。
1階は管理人室とラウンジにゲストハウスそれに俺の趣味を満喫する為に造った浴場しか無いので、出入り口や窓のシャッターの開け閉めは監視ルームからできるのだ。
シャッターを閉め終わりまたテレビを見ようと監視ルームから出ようとした時、マンションの俺専用のエレベーターに通じる二重のオートロックの中に設置してあるインターホンが鳴った。
マンションは俺好みの若い女性が多数入居しているんで、オートロックを二重にしているんだ。
最初の扉は暗証番号を入力しなくても入れるが、一度入ったら暗証番号を入力しないと進む事も出る事も出来ない。
悪戯目的で入った奴は最初の扉と2つ目の扉の間に閉じ込められ、管理人の通報で来た警官にお持ち帰りされるって訳だ。
インターホンの音でオートロック内に設置されているインターホンのカメラの映像を見る。
シャッターを下ろす前に入ったらしい、義理の妹と甥の姿がモニターに映った。
インターホンで問いかける。
「何か用か?」
「開けて下さい、お兄様お願いです」
「伯父様、お願いですから開けて下さい」
「何で開けなくてはならないのだ?」
甥が肉が抉られて出血している腕をインターホンのカメラに映るようにして話しを続けた。
「襲われて怪我しているのです、手当てさせて下さい」
「怪我しているのなら俺の所でなく、弟の所に行けよ」
「父に連絡つかないのです」
「フーン、ところでお前らゾンビ映画って見たことあるか?」
「何なのです、そんな物見たことありません」
「だよな、ゾンビ映画なんて低俗な物、お前らが見る訳無いよな。
お前らにお前らが知らない事を教えてやろう、ゾンビに噛まれると噛まれた奴も感染してゾンビになるんだ。
だからお前らを入れる訳には行かないのさ。
だいたいお前ら俺の事を嫌っている癖に、こんな時だけ頼って来るんじゃねーよ」
「今まではそうでしたが、この前此処にご招待されてから考えが変わりました」
「そうです、伯父様に招待されて見直していたのです」
「その割りには帰りのエレベーターの中で俺が直ぐ死ぬような話しをしていて、最終的に遺産を独り占めできるかもって喜んでいただろうが」
「遺産なんて要らないから開けて下さい、助けてください」
「開けて下さい、お願いです」
「チョット考えさせろ」
そう告げて俺はテレビを見に戻る。
テレビでは自衛隊に出動命令が出され、警察と共に要所要所に検問所が作られて、身体に噛まれた跡がある人を問答無用で隔離している事を告げていた。
チャンネルを次々に変えると、医者か科学者らしい人にインタビューしている番組に行き当たる。
「そうです、最初に噛みついた人の中には噛まれた跡が無い人が多数います」
「では空気感染なのですか」
「分かりません、分らない事だらけなのです」
テレビの番組を見ていて此のゾンビ騒動は数日で収まらず長期化すると考え、下の監視ルームの隣にある倉庫の一番奥に行く。
長期化しても余裕で籠城できる物資は以前から蓄えてあるから心配無い。
屋上にはソーラーパネルと住宅用風力発電装置か設置されていて、それで得た電気は倉庫の蓄電池に蓄えられていた。
水と食料は籠城するのが俺1人だと暴飲暴食しても5〜6年は持つだけの備蓄がある。
用意できなかったのは可愛い女の子たちぐらいだな。
倉庫の一番奥の隔離してある1角に行き、密輸した自動散弾銃のサイガ12と10発の散弾を装填してある弾倉を10本取って来る。
此処には散弾銃などの武器だけでなく、密輸業者っていうか外国のマフィアに押し付けられて無理矢理買わされた、ヘロインやコカインなどの麻薬も置いてあった。
ベトナム戦争のとき負傷した米兵が痛み止めとしてヘロインを使用したように、万が一癌などになった時に使おうと思って仕舞い込んである。
それで此れが弟たちに対する罠の1ツ。
サイガ12と弾倉を持って監視ルームに行き、マンションの全住居内に設置してある隠しカメラの映像を見る。
俺のマンションの住人は、若い夫婦者や中高生の娘がいる夫婦に女子大生などの若い独身女性だけ。
そいつ等に近隣のマンションより可也安い家賃で部屋を貸している。
その見返りがマンションに住む女たちの裸の鑑賞、ま、同意は得て無いけどな。
此れが弟たちに仕掛けた罠の2つ目。
俺が死んでマンションを相続してから倉庫の武器類や麻薬が見つかっても知らなかったで済むかも知れない、だけど、マンションの住人の隠しカメラで映した映像はコレクションルームに全て保管されているから、マンションの住人や元住人に訴えられたら凄え金額の賠償金を払う羽目になると思うんだよね。
マンションの住居、2階から13階の1フロア8室で96戸の住居の中を1部屋ずつ見ていく。
お盆初日だからだろう、マンション内に残っていた人は少数だった。
1202号室、此処の住人はソープに勤めてる20代後半の奥さんと内縁の旦那、朝っぱらからやる事やってる最中に奥さんがゾンビになったらしく青白い顔の奥さんが旦那の股間にある物を食い千切ろうとしていて、旦那が必死の形相で奥さん髪を引っ張って引き離そうとしている。
1006号室、此処の住人は30代半ばのシングルマザーと中学生と小学生の2人の娘の家族、母親が必死にスマホで何処かに電話を掛けていて、2人の娘は玄関のドアの内側に家財道具を積み上げていた。
801号室、此処は高校生と中学生の娘がいる夫婦者、奥さんと娘2人を先に帰省させて1人残っていたらしい旦那がゾンビになって窓を引っ掻いている。
407号室、此処には20代前半のOLが1人暮らししているのだが、呑気に爆睡中だった。
マンション内の部屋だけで無く、通路に設置してある監視カメラや隠しカメラの映像を見る。
10階の通路に1003号室の青白い顔になった若夫婦2人がいて、1006号室のドアをバン! バン! と叩いていた。
その他の階の通路には生きた人もゾンビも映っていない。
マンション内にいる人やゾンビはこんな感じだった。
ゾンビは暇な時にでも駆除するとして、生きてる女性たちは保護するって名目で連れてきて監禁すれば良いだろう。
通路の映像を見ていたら思い出したので、甥と義理妹が閉じ込められているオートロック内を見る。
インターホンのカメラに映されていたのは、自分の母親に食らいつきその肉を咀嚼している甥と、食われて泣き叫んでいる義理の妹の姿だった。
こいつ等はどうせそこから出られないので放置する事にする。
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またテレビを見ようとしたら腹が鳴り、朝からなんにも食って無い事を思いだした。
普段なら寿司とかビザとかを頼むんだが、街の中がパニックになっている今の状況では店が開いているとは思えないし、万に1つ開いてても配達はしてくれないだろうから、キッチンのテーブルの上に転がっていたカップラーメンにお湯を注ぐ。
お湯を注いだカップラーメンを持ってテレビの前に戻ろうとした時、非常階段に出る扉が外側から叩かれている音に気が付いた。
そういえばさっき非常階段の監視カメラの映像をチェックするのを忘れていた事を思い出す。
非常階段の扉の前に行き扉脇に設置されているモニターで外を見る。
見て、心の中で歓喜の雄叫びを上げた。
『ヤッター! 向こうから女の子たちが来たぞー!』
モニターには4人の美少女が映っていて、リュックサックを背負ったりショルダーバッグを肩から下げていたりした女の子3人が必死に扉を叩いている。
もう1人のマンションの住人で大学2年生の須崎桜ちゃんが持っている傘で、階段の下側にいる管理人の成れの果てのゾンビを牽制していた。
俺はテレビの前のソファーの上に放り出してあったサイガ12を取って来てから扉を開けて、女の子たちに「早く入れ」と声を掛ける。
「お姉ちゃん開いたよ」
「お姉ちゃんも早く」
「開けてくれたよ」
扉の前にいた女の子たちは口々にゾンビを牽制している桜ちゃんに声を掛けながら中に入って来る。
俺はゾンビを牽制していた桜ちゃんを中に入れてから、管理人だった爺さんの頭に向けてサイガの引き金を引いた。
女の子たちは皆ずぶ濡れで身体をガタガタ震わせ通路にへたり込んでいる。
その中の桜ちゃんが顔を上げ俺の顔を見て話す。
「開けてくださりありがとうございます……」
「話しは後で聞くから先に風呂に入りなさい、そのままだと風邪を引くからね」
続けて話そうとする桜ちゃんを止めて、女の子たちを風呂場に連れて行く。
「うちの風呂は結構広いから4人全員で入れるよ」
と言ったら、桜ちゃんが双子らしい同じ顔立ちの片方の子を指差して話す。
「此の子、男です」
心の中で『チッ!』と舌打ちをしてから返事する。
「え! そうなの? 皆んな可愛い顔しているから女の子だと思ってた。
じゃあ君は客間の風呂を使って」
そう言って男の子を客間に案内した。
女の子たちが風呂に入っている間に倉庫に行き、以前いちいち買うのが面倒で色違いを纏め買いした、寝間着代わりに使っているブランド物のジャージの上下を4組と此れも纏め買いしたバスタオルを4枚取って来る。
取って来たジャージの上下とバスタオルを脱衣所に置いてからキッチンに行き、インスタントラーメンとホットココアを作る準備をしておく。
女の子3人と男の子が風呂からあがって居間に来たので、インスタントラーメンを作り始める。
インスタントラーメンを作りホットココアにお湯を注ぎ、ホットココアの隠し味として睡眠薬を砕いてトッピングした。
睡眠薬はロトに当たり先物取引で大儲けした時に、金をどうしようか誰かに取られるんじゃ無いかとの不安から睡眠不足になる。
そのとき医者から処方してもらって溜め込んでいた物。
インスタントラーメンの丼とホットココアのマグカップをテレビの前のテーブルの上に並べる。
「ありがとうございます……」
「伸びるから先に食べちゃいなさい」
桜ちゃんがまた感謝の言葉を口にしかけたんで、先に食べるよう促した。
桜ちゃんは弟妹たちと共に声を揃えて「いただきます」と言い箸を手にする。
インスタントラーメンを食べ終え睡眠薬入りのホットココアを飲み終えた桜ちゃんが、弟妹の紹介と非常階段にいた理由を話し始めた。
「大家さん、扉を開けて頂きありがとうございました」
順に弟妹を指し示しながら俺に紹介する。
「今高校3年生の楓です」
「楓です、助けてくださいありがとうございます」
「こっちの2人は双子で中学2年生の杏と楸です」
「お風呂と食事ありがとうございます」
「ありがとうございました」
「楓が来年進学を希望する大学の下見に上京し、杏と楸はそれに便乗して付いて来たのです。
3人を連れて駅から戻って来る途中、青白い顔をした人たちに襲われそうになりマンションに向けて走り戻って来たのですが、マンションの出入り口がシャッターで塞がれていてどうしようと思ってたら、偶々非常階段にいた管理人さんに非常階段の中に入れて貰えたのです」
非常階段は防犯の為、外部からは扉を開ける事が出来ない構造になっている。
「管理人さんも非常階段に絡まっていたゴミを取り除きに出て来たら、マンション内に戻れなくなったと言っていました」
「あ! ごめん、それ俺の所為だわ。
テレビで青白い顔のゾンビが出現して人々を襲っているっていうニュースが流されたんで、そいつ等がマンション内に侵入しないようシャッターを下ろしたんだ……」
「待ってればシャッターが下りている事に気がついたマンション内の誰かが開けてくれると思い、待っていたら、突然管理人さんが胸を押さえて崩れ落ちたのです。
それで管理人さんの身体を揺すろうとしたら、青白い顔になった管理人さんが私たちに襲い掛かって来たので、階段を駆け上がって大家さんの住居の扉を叩いて助けを求めていたのです」
「すまなかった、暫くマンション内に閉じこもっていればゾンビ騒動も直ぐに収まると思って、非常階段に人がいるのを確かめずに閉め切ってしまった」
俺は4人に頭を下げて謝罪する。
話しを聞いているうちに睡眠薬が効いて来たのか4人が眠そうな顔になった。
「眠いのかい?」
「ごめんなさい、安心したのと身体が暖まった事で眠くなったみたいです」
「それじゃ暫く寝たら良いよ」
そう言って俺はさっき楸を案内した客間に4人を連れて行く。
「ベッド1つしか無いけど、ロングサイズのベッドだから皆んな一緒に寝られるだろう」
「ありがとうございます」
4人は倒れ込むようにベッドに横たわる。
ベッドの上で寝息を立てる4人の女の子、じゃなくて3人の美少女と余計なのが1人か、の寝顔を暫く眺めた後、4人を拘束する物を取りに行く。
結束バンドで4人の手足を拘束してから夏用の毛布を掛けてやった。
それから客間の風呂でシャワーを浴びる。
シャワーを浴びた俺は小躍りしながら居間に行き、酒の瓶が並んでる棚からウィスキーのボトルを1本取り氷が入ったグラスをウィスキーで満たす。
そのウィスキーで満たされたグラスを持ってバルコニーに出た、雨は何時の間にか止み雲の間から青空が覗いていた。
マンション前の公園の中からゾンビに襲われているのか人の悲鳴が響く。
俺は青空が見える空に、棚ぼたで可愛い女の子たちを手に入れた事を感謝してグラスを掲げる。
その時、俺の胸に締め付けられるような痛みが走りその場に崩れ落ち意識を手放した。
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「お姉ちゃん! 起きて! お姉ちゃん起きてってば!」
私は楓の声で目を覚ました。
身体を起こそうとしたら手が身体の後ろに回され拘束されている事に気がつく。
え? 何? って顔になった私の顔を見た楓で教えてくれた。
「皆んな拘束バンドで手足を拘束されてるのよ」
その言葉で周りを見渡すと、私だけで無く弟妹たちも手足を拘束されていた。
どうしようと思案していたら、楓がベッド脇に放り出されているリュックサックやショルダーバッグを見ながら楸に命令する。
「私のショルダーバッグの中にある化粧バッグの中に、無駄毛処理用のハサミが入っているから取りだして」
楸はえーって顔をしながらもベッドから転がり落ちると、後ろ手で楓のショルダーバッグのジッパーを開けて中をまさぐった。
楸はバッグの中をまさぐり邪魔な楓の服や下着を引っ張り出す。
それをベッドの上に寝転がって見ていた楓が注意する。
「ちょっと、服はともかく下着まで引っ張り出さないでよ」
「そんなこと言ったって仕方が無いじゃないか、見えないんだから」
そう言いながらも楸は楓の化粧バッグを見つけて、中からハサミを取りだして自分の手を拘束している拘束バンドを切った。
自由になった私たちは客間の外を窺いながら話し合う。
「さて、此れからどうする?」
「最初にあのオジサンを拘束しようよ」
「そうね、大家さん、あんなに太っている上に運動不足で階段の昇り降りをするだけでも息切れしているから、私たち全員で飛び掛かれば取り押さえる事ができるでしょう」
「でも、あの散弾銃は脅威よ」
「私たちを拘束して油断してる筈だから、見つからないように近づいて取り押さえましょう」
私たちは私と杏、楓と楸で別れて大家さんがいると思われる居間に近づく。
懸念だった散弾銃は居間のソファーの上に放り出されていた。
散弾銃を手に持ち大家さんの姿を探していたら、バアン! とバルコニーに面する窓が外側から叩かれる。
皆がそちらに目を向けると、青白い顔になった大家さんがいた。
私は散弾銃のコッキングレバーを操作して薬室に散弾を装填する。
「お姉ちゃん、その散弾銃撃てるの?」
「この散弾銃、弾倉に入っている弾は多いみたいだけど、お爺ちゃんの所有する散弾銃と同じ物よ」
「そうなの?」
「ウン、それに冬に帰省した時にお爺ちゃんに猟に連れて行って貰って、撃たせて貰ったから」
此れは余計な1言だった。
言った途端、弟妹たちが口を揃えて非難して来る。
「お姉ちゃんだけ、ずるーい」
誤魔化すように私は散弾銃を手に、窓を叩く大家さんがいる場所とは違う所からバルコニーに出た。
大家さんの背後に周り注意を私の方に向け、近寄って来たところで射殺する。
それから皆んなに手伝ってもらって大家さんの遺体をバルコニーから眼下に放り出した。
一息付いてから大家さんの住居を探索する。
そうしたら色々な物か出るわ出るわ。
大量の武器弾薬、麻薬らしい白い粉、山盛りの水や食料品に生活必需品、それに私を含むマンションの住人の女性たちの裸体や、恥ずかしい事をしている所を映したDVDの山。
まぁ麻薬やDVDはともかく、それ以外の物資がこれだけあれば数年はマンションに立てこもっていられるわね。
こういうのを棚ぼたって言うのかな?
大家さんの住居の探索を終えた私たちはそれぞれ見つけた散弾銃を手にして、マンション内に残っている人たちの救出とゾンビの駆除を始める為に、階下に向けて歩み出した。