第陸拾弐話 強襲
「いやぁ!極楽、極楽!やっぱ、朝風呂は最高っすね!」
「いいでしょう〜。締めは由布院特性、柚子蜜ソーダ!召し上がれ」
お盆に乗せてあるドリンクを翼は受け取ると、旅行先にも関わらず朝から熱心に勉強している白鷹と小町の元に向かった。
「旅行先で勉強道具持ってくるってどんだけガリ勉なんだか。二人とも由布院さんが飲み物持って来てくれたっすよ」
「...そこ、置いといて。小町、ここの文章読解。この作者の場合、中段部分に大事な言葉が入ってるから気をつけて。大事な物全てが終盤に書かれる事はないから」
「そうなの!?普通、物語の結末とか結論って最後に入ってる物じゃないの!?むむっ、この作者は随分と捻くれた性格をしているの」
どうやら、定期試験が近いと言う事で小町は白鷹に勉強を教えてもらっているようだった。
由布院が二人の側にそれぞれ飲み物を置いた瞬間、その水面が不自然に揺れ始める。
全員は咄嗟に勉強をしていた座卓の下に隠れた。
自分達の側にあった携帯は勿論、他の客室からも普段は聞き慣れないアラーム音が響き渡る。そう地震が起きたのだ。
客室を貫通し、廊下の方から騒ぎ声が聞こえ更に緊張感を漂わせた。
「揺れてる!揺れてる!振動長くないっすか?」
「あの大鯰が居なくなってから地震なんて縁がないと思ってたのに、どうなってるの!」
比良坂町ではあの下町での騒動から半年以上、地震が起きていなかった。
正しく、仮初の平和に浸っていた町民達は勿論。
運び屋達だったが、此処に来て急に襲ってきた自然災害に皆恐怖していた。
「美森、大変じゃ!肆区の海岸に津波が!」
宿泊先の旅館で合流した彼女の祖父である森羅が慌てた様子でやって来た事は勿論“津波”という言葉に翼と小町は反応に背筋を凍らせた。
しかし、白鷹はそうではなかった。
翼の腕を引っ張り、共に机の下から出た。
「痛い!痛い!ちょ、いきなり何するんすか!?」
「...あっ、ごめん。強く握り過ぎた。その現場の海岸に僕達を連れてってもらえる?話というか解決策があるから」
白鷹は剛腕なのは勿論、内心では焦っているのだろう。
強く彼の腕を掴んでしまったようだ。
森羅は解決策あるという白鷹の考えに目を輝せ、直様二人を近くの海岸に案内した。
するとどうだろうか?「懐かしい」「異常」「あり得ない」そんな単語が二人の頭に過ぎる。
何故、二人が懐かしいと思ったのか?
それは、自分達が生まれた頃の比良坂町は勿論。
運び屋となった後も常に付き纏う存在があった。
そうだ、自分達の行動を遮る壁だ。
その中には何があっただろうか?
そうだ“被害者達によって滴り落ち混ぜ合わされた紫色の血だ”それが今、自分達の目の前に津波として襲って来るのだ。
しかも、その高さも異常だ。
自分達の身体何個分かと翼が数える前に白鷹が答えを出した。
「三十八メートル、翼。【雪女】の準備」
なぜ、白鷹が翼の力を借りようと思ったのか?
それは自身の能力との相性を考えての事だろう。
彼の使用する【クロヨン】は水の壁を生成する。
これを吹雪を起こす【雪女】を組み合わせるとどうなるのか?そう、氷の壁が出来るのだ。
【Code:007 承認完了 クロヨンを起動します】
【Code:008承認完了 雪女を起動します】
原因不明の津波は直ぐに自分達を飲み込もうとする。
しかし、そうはならなかった。
不気味な紫の津波は氷壁に阻まれ陸には上がって来ない。
ホッと胸を撫で下ろす翼とは反対に白鷹はその氷壁の先を見ていた。巨大な黒い影が見えるのだ。
それは優雅に動き、その紫の水そのものを飲み込んでいるように思える。
「...あっ」
白鷹は何かに気づいた、いいや“気づいてしまった”ようだが今、パニックになっている状態で更に言葉を交わせば混乱を招きかねない。
旅館にも、不安に駆られた状態の小町と由布院がいる。
まずはこの津波を食い止めた事を報告する事を優先した。
「よ、良かった。お爺ちゃん、怪我はない?大丈夫?私達もそうだけど、お客さんは近隣の人達は此処に避難したから皆んな無事だったよ」
緊急事態な事もあり、お互い連絡を取り合う事に時間が掛かりながらも避難していた高台で合流する事が出来た。
此処からも状況を見渡す事でき、いい機会だと思い白鷹は黒い影を指差しながら今回の一連の流れについて自分の推理を話した。
「えっと...あの黒い影分かる?今も、紫の水を啜ってる奴」
「こ、小町。あれを協会の屋上で見た事あるの。大鯰!帰って来たの!?ど、どうして?」
「確か、大鯰って念力を餌にしてるって下町の探索で解ったすよね?なんで紫の血を飲んで...あぁ!?まさか!?」
白鷹はそれに頷き、何故?大鯰がこんな事を起こしたのか?それを話し始めた。
「運び屋は血統によって決まる。だから、血液は念力そのもの。もし、血だけを補食出来るならそれが一番好ましい。肉まで喰らう必要がないって事」
大鯰が欲しい物はあくまで“運び屋の血液”である。
それを狙い、紫の血を求めて近海までやって来たのだろう。
しかし、色々と疑問点が出てきてしまう。
そもそも今の比良坂町で血が流れる場所などないからだ。
しかし高台から見える海はいつまで経っても変色は勿論。
海水に溶け込む事はない。
かなりの量の水量が海に流れ込み、永久に近い状態で大鯰はそれを飲み込んでいる。
それを皆、首を傾げながら見ていた。
白鷹は携帯のタイマー機能を使い、今からこの紫の水が完全に無くなるまでの時間を計測したいようだ。
「...とりあえず、地震は収まったし。僕達も旅館に戻ろう。これ、ずっと排水し続けるんじゃ。困ったな」
小町が随分と捻くれた作者だと言っているんですけど、自分の事を言っている訳じゃありません。
まず、作者は中盤に大事な事は書きません。
それよりも早い序盤に書いて、後はガス欠というかチンタラやってるタイプです。
ずっと面白いってやっぱり難しいですよね。
最後までチョコたっぷりとは中々行きませんし、出来ません。




