第陸拾話 相方
ある夜の事、空に光り輝く月に重ねるように左手の薬指に存在する真珠の指輪を翳す富士宮の姿があった。
彼女は嬉しそうにクスリと笑うも後ろから足跡が聞こえ、その手を隠してしまう。
しかし、その目は彼女を捉えて離すことはない。
全てを見抜いたように余裕の笑みでタスクは口を開いた。
「あら、咲耶。その指輪、可愛いわね。どうしたの?」
「えっ、あぁ。えっと、隼にもらったんだ。本当にこの前のオルゴールと言いプレゼントのセンスが良くて驚くよ」
「えぇ!?ズルい!私もパパに買ってもらおうかしら?でも、咲耶って普段からアクセサリーとか余りつけないじゃない?その桜の髪飾りはお母さんのなんだっけ?」
「あぁ。元々、身体が丈夫ではなかったみたいで私を産んで直ぐにこの世を去ってしまったけどな。父は私と母の面影を重ねていらしたみたいで。亡くなる前はずっと、母の名を口ずさんでいた。会いに行くからと私を置き去りにして。済まない、暗い話をしてしまって」
「良いのよ。私達の事を信用してくれてるって事でしょう?咲耶、貴女は1人じゃないわ。私も隼も貴女の側にいる。皆んな此処にいるから」
「ありがとう、タスク。また君と一緒に仕事出来る事を幸せに思うよ。私達は永遠だ。君達親子は本当に不思議な力を持っている。まるで若い頃に戻ったように力が湧いてきてな日向は勿論、大隈や薩摩にも行けるようになった。私も又、彼のように完全体となったと言う事だな」
「えぇ!?何よそれズルい!愛の力って事!?母親の前でイチャイチャしないでよ!」
「ふふっ、悔しかったらご主人と仲睦まじくいるんだな!本当に...本当に良かった。もう戻れないと思って怖かったんだ。富士宮家の当主として、相応しい力をと思っていたがもう若くもないし、内心諦めていた」
富士宮が運び屋としてデビューした当時は、以前よりも広い行動範囲を勿論。その広さは比良坂町一と言われていた。
しかし、心身の弱さ。辛さが原因となり範囲が縮小して行った。
「咲耶は案外気分屋な所があるから、ハヤブサに会いたくなったからじゃないの?ほら、此処にもいるじゃない立派なハヤブサが!」
「...そうだな。きっとそうだよ、タスク。君と隼に会いたいからそれに相応しい存在でいたいと心から思ったからこその結果だ。これからもどうか、2人。いや、皆の志しとして居させて欲しい。よろしく頼むよ」
「勿論よ!最高峰の貴女には最速の相方!これは永遠に変わらないわ!私達は最強よ!」
「そう言えば、由布院が此方にお客様というか計画しているツアーに参加する人達をお招きするらしい。筑紫での観光や鶴形の温泉を堪能されるんだとか。肆区に来られるとはよく分かっていらっしゃる」
「私、知ってる!隼君のお友達がくるんですって。ほら、相方の小町ちゃん!小さくて可愛い女の子の!一緒にお子様ランチでも食べようかしら?」
「...いや。幾ら小さくとも子供ではないのだから食べないだろう」
「違うわよ、小町ちゃんじゃなくて私が食べるの!」
「君かよ!170cmの女性がお子様ランチを食べる姿はある意味、壮観だな。おもちゃはどうする?折角だし、子供用の指輪でももらったらどうだ?」
「いやよ!指輪じゃなくて、ペンダントが良い!」
「...もう好きにしてくれ」
「ママさん、ケチャップがお口に付いてるの。小町が拭いてあげるからこっち向いて」
「聞いた咲耶!?こんなに気遣いしてくれる子、他にいないわよ!?貴女とのコンビは解散して、小町ちゃんと組むわ!さようなら!」
目の前で呆れた表情をした富士宮は別れを告げる彼女に手を振った。タスクもまた、真剣な表情で手を振り返している。
「3人とも済まない。由布院の仕事が終わり次第、此方に向かうと聞いているから今はゆっくり寛いてくれ」
「ある意味、ハヤブサと小町のコンビっすね。案外、ミックスしても成り立つのかも。この4人なら。でも、生まれながらの名門エリートの富士宮さんと突如現れた天才であるタスクさんのペアだから良いんすよね?」
「そうよ!翼君、良く分かってるじゃない!小町ちゃん、ウチの隼どう?上手くやれてる?」
「それは勿論!...と言いたい所なんだけど。隼はママさんみたいに表情が豊かじゃないし。クールだから何を考えてるのか時々分からない事があるの。だから今回のツアーは隼の事を理解してあげたいなと思って肆区にきたの」
そういうと富士宮は頬杖をつきながら微笑んでいる。
「隼は良い相方に巡り会えたな。勿論、私達もだが。君たちにとって実りのある旅路になる事を願ってるよ」
その会話と同時に玄関のインターフォンの音が鳴るのを富士宮は聞き逃さなかった。
「おっと、ようやくツアーガイドのお出ましだな。皆は此処で待っていてくれ。直ぐに呼んで来るよ」
そのあと彼女は玄関へと歩を進めた。




