悪役令嬢、忙しくなる前に
「ゲホッ!」
「苦いっ!?」
咳き込んだり、マズそうにしているものも数名。
苦くて黒い飲み物と言えば、アレだろう。
「僕たちも飲んでみようか」
「え!?凄い皆嫌そうな顔で飲んでるけど!?」
バリアルが飲んで見ようと提案し、アシルドが嫌そうにしている。
ただ、エリーとしては久々に飲みたかったので、
「あらぁ。アシルド。腰が引けてますわねぇ。怖いんですの?」
「なっ!?……そ、そそそ、そんなことはないよ!」
アシルドがエリーの方を振り返り、その後ろにいたメアリーの姿を見て慌てて否定した。
ーーメアリーに格好良いところを見せたいのね。男の子だわぁ!
エリーの策略により、飲むことになった4人。
エリーと兄弟に加え、メアリーも巻き込まれることになったのである。
「苦い!」
「うっ!」
「エ、エリー様、これは飲まない方が…………って、飲んでる!?」
「……あぁ。おいしいですわぁ」
エリーが飲み物をすする。
その様子を、兄弟やメアリーだけでなく辺りの客も凝視していた。
皆苦いとか言っているのに、1人のか弱そうな少女が美味しそうに飲み物を飲んでいるのだから、その反応も当然だろう。
「ふぅ。美味しかったですわ」
口元を吹きながら、飲み物を飲み終わったエリーは手元のカップを店員に渡す。
それからしばらく静寂が店を支配していたが、だんだんとざわめいてくる。
「お、おぉ」
「凄いな。お嬢さん」
「ま、負けましたな」
客たちが、エリーを囲み、口々に褒め称える。
エリーは彼らに笑みを着くって、
「ふふっ。皆様も飲まれてみては如何ですか?……飲み比べでもします?」
「「「おぉ!」」」
「なら、俺が相手になろう!」
エリーは場を盛り上げる意味も込めて、飲み比べを提案する。
すると、数名の男が名乗りを上げてきた。
そのまましばらくエリーたちは盛り上がることとなった。
「…………な、なんか、疲れた」
「そうだね。僕たちは、何にもやってないはずなんだけど」
バリアルとアシルドが、背もたれに寄りかかって疲れたような声を出す。
彼らの言うとおり、彼ら自身はほとんど何もしていないのだが。
「エリー様。お疲れ様です」
「ふふっ。疲れるようなことは致しませんでしたが、お腹がたぷたぷですわ。後で運動をした方が良いかもしれませんわね」
エリーはそう言いながら、お腹をさする。
そのお腹は悪魔の水と呼ばれるものがたっぷりと溜まっていた。
ーーお腹いっぱいだけど、久々に懐かしいモノが飲めてよかったぁぁ~。
エリーはそう思いながら、前世のことを思い出した。
そして、背もたれに身体を預けて、
チャリッ!
金属音。
飲み比べで稼いだ金の音だ。
ーーお金も稼げて、ホットチョコレートも飲めるなんて、最高ね。
「結局、あの飲み物は何だったんだろう?」
「さぁ?あんな味、僕知らないよ」
考え込む兄弟たち。
エリーはその話を聞いていたので、教えてあげることに。
「あれは、アーニ王国産の飲み物だと思われますわ」
「「アーニ王国産の?」」
エリーたちのいるイモート王国から、海に出て南東に行ったところにある島。
その島に、アーニ王国はある。
「そうですわ。私も数度行きましたが、あの匂いは嗅いだことがありますの。まあ、味は知らなかったのですが」
「はぁ~。そうなんだ」
「じゃあ、アレが飲めるようになったのはお姉ちゃんが貿易の締結を勝ち取ってきたからなんだね!流石お姉ちゃん!!」
アーニ王国との貿易を締結したのはエリー。
これはまさに、エリーの功績と言って良いだろう。
ーーまだチョコレートに砂糖が入ってなくて、カカオ100%だったのが残念ね。でも、もう少しすれば砂糖を入れたり、別の飲み方を発見したりするかもしれないわねぇ。ああ。チョコレート食べるのが楽しみだわぁ。
そんなこともありつつ楽しく兄弟で遊び、満足した様子でエリーたちは屋敷に帰ってきて、
「それじゃあ、また」
「アシルド。お父様たちのサポート、よろしくお願いしますね」
「うん!兄様とお姉ちゃんも気をつけて!!」
アシルドに別れの言葉を告げる。
それから他の家族たちにも別れを告げ、それぞれの馬車に乗り込んだ。
「困ったことがあれば、貴族寮に来るんだよ」
「はい。その時は頼らせて頂きますわ」
エリーたちは学校に行くのだ。
2日ぶりの友人たちとの再会。
だが、嬉しいことだけではない。
ーー聖女も、今日か明日くらいには来るのよね。
ゲーム知識を持っているだろう聖女、カヤ。
エリーはそちらの対応もしなければならないだろう。
「ふふふっ。大変ね。……でも、最後に笑うのは、私よ」
負けることはない。
そう強く思って先のことに思いを馳せる。
が、現実もシッカリと見なければならず、
「クレアちゃぁぁぁぁぁん!!!!!!」
「ごふっ!?」
エリーことクレア、学校へ到着。
直後、アンナリムに突進されてうめく。
「クレア。一昨日ぶりッス!どうだったッスか?久々の家は?」
「あら。ギービー。私の方は、今日は少し楽しかったけど全体的にはあまり楽しくはなかったわ。あなたは?」
「私は楽しかったッスよ!ごちそうが出てきて、美味しかったッス」
家族への挨拶で疲れたクレアとは違って、ギービーは楽しめたようだ。
少しうらやましい。
「荷物もあるし、一旦宿舎に入りましょうか」
「「うん!」」
クレアは2人に声をかけ、校舎の方へと歩いて行く。
クレアたちの寮は襲撃で崩れてしまったが、簡易の宿舎が建てられたので、そちらへ泊まるのだ。
「明日からは、校舎とかの復旧作業をすることになるかな?」
「そうかも知れないわね。きっと、逃げ出した貴族様が頑張って働いてくれるんじゃないかしら?」
簡易的に作られた寮では、すでにかなりの数の生徒がおり、友人のガガーラナやハイロラ、寮長のジャミューともあった。
部屋の場所などを確認し、小さな部屋へと入る。
簡的に作られた部屋なだけ合って、かなり狭い。
しかも、家具も少ない。
唯一の救いは、
ーー一応窓があるから、クラウンの活動は出来るわね。
ということくらいである。
クレアは夕食を食べながら聖女について考えつつ、夜が来るのを待った。
数時間後。
辺りはしんと静まり、空には星が瞬いている。
ーーそろそろ良いわね。
クレアは人がいないことを確認してから、外に出る。
「……クラウン様」
「ああ。サードか。報告を」
拠点に着くと、ケモ耳のサードが待っていた。
クレアは早速報告を求める。
「はい。逃がした苦霞と血湯のモノたちは、それぞれ帰り着いたようです。ただ、」
そこで言葉を一旦切る。
ただ、ということからして、何かあったのだろう。
「何があった?問題でも起きたか?」
「実は、両者に向かって涙角が侵略を行ったようなのです」
「……涙角か」
涙角。
クレアたちのいるイモート帝国の北東にあるアーネ帝国。
そのアーネ帝国の西側を主に支配しているのが涙角という組織だ。
「ふむ。涙角に手を打たれたことによって、我らが血湯へと攻め込むことは難しくなった訳か」
涙角は、現在ある多き悩みの組織の全てと支配地域が接触しており、かなり難しい舵取りが必要とされてきた組織だ。
かなり苦しい状況のはずだが、この何年も持ちこたえてきたのは、ひとえに優秀なモノが多かったから。
指揮官も一流。
戦闘員も、『右腕』や『左足』といった、火傷蜥蜴の元幹部には敵わないが、それでも5人ほどで組めば対等に戦える程度の実力はある。
「……そうか。なるほど。完全に予想通りだな」
クレアはそう言って、仮面の中で笑みを浮かべた。
全てはその手のひらの上なのである。
「それでは、計画通りに進めます」
「ああ。我も出よう」
サードが素速く部下の元へ向かい、クレアも準備をする。
ついに、本格的に動くときが来たのだ。
これから、クラウンの暗躍が始まる。
ーークラウンの名前を知られる前に、できるだけ動いておきたいところね。
「クラウン様。準備が整いました」
「そうか。では行くぞ」
「「「はっ!!」」」
部下たちの返事が聞こえる。
だが、すでにその時にはクレアは走り出していた。
目指す先は、北東。
ーー聖女の対応で忙しくなる前に、できるだけ私が動かないと!!
クレアは尋常ではない速度で走った。
部下たちもかなりステータスは高く足は速いはずなのだが、それでも追いつくことは出来ない。
「ふははっ!部下が来る前に3つくらい潰しておきたいな」
高笑いと共に辺りに血が飛び散る。
「1つ」
クレアは呟き、次の獲物を探す。
魔力を感じて、怪しい場所を確認。
一応会話の内容と顔を確認してから、もう1回。
バシュバシュバシュッ!と軽い動作で首を飛ばしていく、
「2つ」
クレアは全滅したことを確認して、また次の場所へ。
ーー地下に大量に人がいるわね。この辺り、まだ支配地域に入ったばかりなんだけど。
少し不思議に思いながらも、確認してからの殺害。
誰もクレアに気付くことなく、殺されていく。
「3つ。……4つ」
4つの拠点を壊滅。
そして、5つ目に行こうとしたところで、
「遅かったな」
「も、申し訳ありません…………ハァハァ」
そこでやっと疲れた様子の部下が到着。
あえてその疲労は知らぬふりをして、
「それでは、この辺りは任せるとしよう」
「はっ!必ずやご期待にお応えして見せましょう!」
クラウンのモノたちはかけだした。
直後、地下にいた大勢の人間が数を減らしていく。
ーーこの子たちの迷惑にならないところで働きましょう。
クレアはそう考え、少し奥の方まではいる。
初めての土地に初めての景色。
ーーここって、どの辺りなのかしら?まだ、イモート王国国内だとは思うんだけど。
イモート王国の支配地域は少ないはずなのだが、それでも拠点が多くある。
ただ、中にいる人員は強くない。
「予想通り、だな」
クレアは計画が順調に進んでいることを感じる。
ーー涙角。あなたたちは、決して勝者にはなれない。
クラウンたちが攻めているのは、涙角の拠点。
お互い争い合っていた苦霞と血湯を漁夫の利を狙って強襲した組織。
だが、彼らは全てを手に入れる捕食者にはなれない。
なぜなら、彼らもまた狙われているのだから。




