悪役令嬢、召喚!!
「エリー。綺麗だね」
「お姉ちゃん。よく似合ってるよ」
「あら。ありがとう。お兄様。アシルド」
帰って来たつぎの日。
エリーは外行きのドレスを着ていた。
そのドレス姿をイケメン兄弟に褒められ。エリーはお礼を言う。
かなり大人びてきているのだが、それでもエリーはときめかない。
「さぁ。向かうぞ。聖女召喚の儀へ」
「「「はい」」」
父親の呼びかけに答え、3人は揃って馬車に乗る。
馬車にガタゴト揺られながら、エリーは雑談をしつつ兄弟のカッコウを観察した。
まずは兄のバリアル。
紺のスーツで、赤いネクタイをしている。
コレでシルクハットでも被ったら、いわゆる紳士という見た目になるだろう。
ーー結構ぴっちりしたスーツだし、装備は隠せないわね。
装備やら武器やらに考えが行くエリー。
オシャレ好きな友人がいて更にその友人と色々話しているのだが、見た目より機能性を重視しているようだ。
「アシルド、少し背が伸びまして?」
「え?そうかな?」
「ああ。それは僕も思ったよ。成長が速いね」
続いてアシルドの格好を見ていく。
バリアルよりは背が低いが、お揃いの紺のスーツがよく似合っている。
ネクタイは水色で、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
ーーバリアルの方がまだ優勢ね。明るい色を1つでも身につけておいた方が、相手に良い印象を持たれやすいって言うのに。
「しかし、エリーのその紫のドレスを見るのも久々だね」
「うん。お姉ちゃんのそのドレスはよく見てたんだけどね」
「ああ。これですの?」
2人に言われて、エリーはもう1度よく自分のドレスを見てみる。
紫色のドレスで、毒々しい。
ゲーム内のエリーもよく来ていた色のドレスだ。
今のエリーもよく着ているお気に入りの服である。
「聖女様は、どんな服の似合う方なんでしょうかねぇ」
期待に胸を膨らませるふりをしながら用意を済ませてついに屋敷を出発する。
目指すのは聖女が召喚される予定の、教会本部の巨大な建物。
神殿と言えば良いのだろうか。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
出迎えの聖職者に導かれ、エリーたちは神殿へと入っていく。
すると、
「あぁ。エリー。来たか」
「あら。イルデ。ご機嫌よう」
友人のイルデがやってきた。
軽く挨拶をしておく。
「バリアルもアシルドもご機嫌よう。何人かは先に来ているから、そっちに行くと良い」
「ああ。そうさせて貰うよ」
「イルデ様。頑張ってください」
イルデ様呼びなのはアシルド。
アシルドはどうにか兄弟たちへ敬語を使わなくできたが、他のモノたちにはまだ厳しいようだ。
「さて。先に誰か来てるって言ってたけど」
「……ん。あそこに、デュランス様がいるよ」
会場に入り辺りを探していると、アシルドがデュランスを発見した。
デュランスもこちらに気がついたようで、軽く手を振ってくる。
「ご機嫌よう。デュランス」
「あぁ~。ご機嫌よ~。エリー。それに、バリアルとアシルドもぉ」
エリーたちはデュランスのそばへ歩みよい、挨拶を交わした。
デュランスのゆったりとした話し方は変わっていない。
ゲームでもそうだったので、これは変わらない運命だったのだろう。
ーー性格は変えれたと思うけどね。……たぶん。
「聖女は、どんな子が来るのかなぁ?」
「さぁ?デュランスは、どんな子が来たら良いと思いますの?」
聖女の話をし始める。
エリーの質問にデュランスは困ったような顔を見せたあと、
「扱いやすい子が良いかなぁ。エリーみたいに頭の良すぎる子だと、ちょっと困るかもぉ」
「ははっ。国益の面で見ればそうなのでしょうねぇ」
その後も話をし友人たちと合流し。
そうしていると、
パンパンッ!
会場の中心で、誰かが手を叩く。
貴族たちはその音の方向を見て、黙った。
それを確認し、
「皆様、お集まり頂き、感謝致します」
イルデはそう言って優雅に頭を下げた。
どうやらイルデが司会をするようだ。
「それでは、コレより聖女召喚の準備に入りたいと思います。皆様にはご不便をおかけ致しますが、お静かに所定の位置でお待ちください」
その指示に従い、貴族たちは自分の位置へと動き出した。
エリーも決められた位置に動く。
その席で悪い気はしない。
悪い気はしないのだが、
ーーこの席、ゲームの席と同じじゃない!よりにもよって、アロークスの隣とは!!
エリーは隣のアロークスをチラ見して、すぐに視線を下げる。
エリーはこの席に不満があるのだ。
ーーこの席だと、まるで、私が、
ーー私が、アロークスの婚約者みたいじゃない!!
なんて思いはありながらも席は変えられないまま儀式は始まり、
ぽわぁ。
と、部屋の中心部から光が溢れる。
よく見ると魔法陣が浮かび上がっており、何かしらの魔法が使われていることが分かった。
ーーよし。魔法陣の暗記完了。
さらっととんでもないことをするエリー。
この思いはなかったことにしよう。
「ふぬぅぅぅ!!!!」
「おりゃああぁぁぁぁ!!!!!」
うめくような声。
どうやら、魔法陣に手をかざす聖職者たちが気合いを入れているようだ。
すると、少しずつではあるが光が強まっていく。
ーー気合いがあれば召喚も出来るのね。
「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
約1時間が経過した。
聖職者たちはまだ唸っている。
ーーもうそろそろ魔力が限界な人が何人かいるけど、交代した方が良いんじゃないかしら?
そう思っていると、
ドサッ!
と、1人が倒れた。
完全に魔力を使い切ったらしい。
そのものは別室に運ばれていき、別の聖職者が気合いを入れ始めた。
ーーうぅ~。つまらなさすぎるわぁ。
これが、エリーの今の心境だった。
開始から2時間。
ずっと同じ光景。
飽きるのも当然だろう。
ーー私が魔力を注げば一瞬なのかも知れないけど、バレても面倒だしなぁ。やめておくかぁ。新しい商品でも考えて、時間潰そう。
エリーは考え事に集中し始める。
すでに新商品を4つほど考えついており、ある意味有意義な時間なのかも知れない。
ーーいやいや。有意義なわけないじゃない。こんなずっと同じ姿勢でいたら、身体に悪いわよ!!
エリーはそう思いながら、軽く身体に魔力を流して、固まってきている筋肉をほぐしておく。
そんなことをしているときだった。
ついに、
カッ!
と、先ほどとは比べものにならないまばゆい光があふれ出し、
ゴォォオォォx!!!!
と、強い風がエリーたちを襲った。
そして、それが終わると、
「……ここは、どこ?」
部屋の中心に、1人の少女がポツンと立っていた。
エリーはついにやってきたその少女の観察に、全神経を集中した。
「ようこそ。私たちの世界へ。聖女様」
そう言って前へ出るのはイルデ。
それに、少女は明困惑した表情を浮かべた。
「聖女、様?」
小首をかしげる少女。
だが、ほんの一瞬、何かを思い出したように目が見開かれた。
それから、キョロキョロと辺りを見回し、こちらを見ると、にやりと笑った。
いや、おそらく見たのはエリーではなく、隣のアロークスだと思われるが。
ーーん?どういうこと?
エリーは違和感を感じた。
だが、そんな違和感の原因を見つけるよりも早く、
「よく来たな聖女よ。我が………」
国王が少女に話しかけた。
少女は笑顔でその話を聞いている。
そこから国王が話し終わると、またイルデが少女に話しかけ始めた。
その間、エリーは考える。
ーーおかしい。明らかにおかしい。ゲームだったら、国王の話を聞いているときも困惑しっぱなしだったはずなのに。あの反応だと、まるであの子は知っているみたいじゃない。
そこまで考えて、エリーは1つの可能性に思い至った。
ーーもしかしてあの子も、ゲームの知識を持っている?
本当かどうかは分からない。
だが、警戒しておくに越したことはないだろう。
なぜなら、
「これから聖女様は、私と共に平民寮で生活して頂くことになります」
同じ学校にやってくるからだ。
しかも、同じクラスに。
ーーこれは面倒なことになりそうねぇ。
エリーはそう考え、どう生活していくのか見直すことにした。
まず大事なのは、聖女の人となりを知ることだ。
例え同じ世界の人間だと言っても、相手が友好的かは分からない。
それならば、自分が転生者であることは隠しつつ、聖女の情報を集める。
それから大丈夫そうであれば自分の素性を明かしてみるのも良いだろう。
「それでは聖女様。軽く自己紹介をして頂けますか?」
「は、はい。私は、」
エリーは集中した。
彼女の名前、そこで彼女が本当にエリーと同じ世界から来たかどうか分かる。
「私は、多那雷 茅です。よろしくお願いします」
そう言って、少女は頭を下げた。
その言葉で、エリーは確信した。
ーーこの子、確実に転移者だぁぁ!!!
同じ世界の出身であることを確信したのだ。
そして、同時に警戒をする。
ーーここで何か仕掛けてくる可能性があるわ。今後の対策を考えつつ、シッカリ監視しておかないと、
「さて、それでは別室にて聖女様には再度説明を行いますので」
イルデがそう言って、少女を別の部屋に連れて行こうとする。
が、
「ちょっと待って。ねぇ。あの子たちは誰?」
イルデの言葉を遮り、少女はこちらを指さしてくる。
ーーうわぁ。本当にやってきた。警戒レベルを2つくらい上げておきましょう。
「そちらの方々は、王子や貴族のご子息の方々です」
「あら。そうなんですか?良かったらお名前を聞いても?」
そう言いながら、少女、茅はこちらに寄ってくる。
エリーがチラリと横を見ると、アロークスも同じようにこちらを見ており、目が合うと頷かれた。
「初めまして。カヤ。僕はアロークス・アンダード。フィーリン。この国の第2王子だよ」
「ああ。アロークス様。よろしくお願いします」
そう言って、カヤがアロークスの手を取ろうとする。
が、そこに割って入るのが、
「申し訳ありませんが、聖女様といえど軽々しく殿下にお触れになることは出来ませんわ」
エリー。
まさしくその人である。
「えぇ。そんなぁ」
少女はわざとらしく上目遣いで、アロークスを見る。
が、その口にいやらしい笑みが浮かんでいることに、エリーは気が付いていた。
「残念ながら、この子の言うとおり、立場上、僕は人と触れられないんだよ。ごめんね」
「っ!?」
茅の目が見開かれた。
ーーこれは、ゲーム知識を持っているのも確定ね。
エリーは素速くその様子を読み取る。
なぜそんなことが分かるのか。
その理由は、ゲーム内で主人公がアロークスに接触できたからである。
ーーゲーム内では気軽に触れられたから、断られるとは思っていなかった。だから驚いたのね?
「そ、そう。残念だけど、仕方ないですね。じゃあ、私はこの辺で」
少し困惑した様子を残しながらも、表情は取り繕って去って行く。
エリーはそれを見送ってから、
「殿下。ご迷惑でしたか?」
と、尋ねておく。
ーーこの反応次第で、攻略対象が主人公の力によって簡単に墜ちてしまうかどうか分かる。できれば、無反応でいて欲しい!
「いや。そんなことは無いよ」
笑顔で言うアロークス。
ーーよし!1回話しかけられただけで撃沈されるほど弱くはなかったわ!よかったぁ!!




