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悪役令嬢、挨拶とは

また明日。

そう耳元で囁かれた。


あの声はアロークス。

どうやら、アロークスは明日もクレアと会うつもりらしい。


 ーーん~。どういうことだろ。………って!?そう言えば明日、聖女召喚の日じゃない!すっかり忘れてたわぁぁぁ!!!

そう言えばそうだった。


「ん。新しい馬車が来たぞ」


聖女召喚のことを思い出して慌てていると、そんな声が聞こえてきた。

クレアは窓を見て、馬車を確認する。


「平民用の馬車って事かしら」


「そうだね。校舎もかなり壊れちゃったし、ここには残れないからねぇ」


クレアの呟きに、アンナリムが同意する。

馬車は何十台とやってきていて、確かに全員が乗るには丁度良さそうだった。


「私も、久々に実家に帰ろうかしら」


「え!?クレアちゃんの実家!?」

「ちょっと気になるッス」


クレアが実家に帰ると話すと、友人たちが興味を示してしまった。

 ーーま、マズい。ここで下手なことを言うと、疑われちゃうわ!


「実家に帰るって言っても、近所の人とかに顔出しとか色々しないと行けないから、私は忙しくて相手できないわよ」


「えぇ。でも、私、クレアちゃんの実家見たぁい!」

「私もッス!」


それでも行きたがる2人。

面倒である。


 ーー何か、ないかしら?………そうだ!

クレアは良い考えにたどり着いた。


「というか、明日は聖女召喚でしょ?あなたたちも親御さんと一緒にいた方がいいんじゃないの?」


「……アァ。そうだよねぇ」

「きっと色々やってるッスよねぇ」


2人はうなずき合う。

この世界の聖女召喚は祝賀行事のため、家族で集まって祝うことがほとんど。


おそらく、2人のためにも大量の食事が作られることだろう。

それをムダにするわけにも行かないので、


「わ、私は、今回は行けないなぁ」

「私もッス。……でも、絶対いつか行きたいッス」


どうにか諦めさせることに成功。

それから1人馬車に揺られて、久々の実家帰りである。


「あぁ。見えてきた。久々ねぇ」


クレアの目に映るのは、大量の貴族の屋敷。

その中でも1,2を争う大きさの家が、


「ただいま戻りました」


「あっ!エリー様!お帰りなさいませ!」


元気よく迎えてくれたのは、クレアことエリーの専属メイド、メアリーである。

クレアはこれからしばらく、エリーとしての言葉遣いで過ごさなければならない。


「久しぶりですねメアリー。元気でしたかしら?」


「はい。旦那様や奥様方もお元気そうですよ」


「そうですの。それは良かったですわ」


エリーは適当に話をしながら、自分の部屋を目指す。

それから、衣装を着替え、


 ーーさて、家の人たちに挨拶していかないと。まずは誰からがいいかしら?

家にいるモノたちに戻ってくることを伝えるための順番を考えていた。


 ーーよし!決めた!

エリーは少しの間考え、順番を決めた。


だが、次の瞬間、


「お姉ちゃん!お帰り!」


エリーの立てた計画は打ち砕かれた。

弟であるアシルドが部屋に入ってきたのである。


「アシルド。さすがにノックぐらいはしてくださいまし。はしたないですわよ。それに、先ほどまで私は着替えておりましたのよ」


「あぁ。ごめんね。お姉ちゃん!でも!帰ってきたって言うからいても立ってもいられなくて!」


口先だけで謝ったような感じのアシルド。

アシルドはこの数年で、更にエリーに懐いたのだ。


勿論兄のバリアルとも仲が良く、頻繁に2人で出掛けたりもしている。

そこに無理矢理エリーの専属メイドであるメアリーをねじ込むのが、高難易度のミッションだったりするのだ。


「予定は狂ってしまいましたが、それならそれで構いませんわ。アシルド、現在のお母様たちの機嫌を教えてくださいまし」


「はぁい!」


エリーはアシルドから情報を得て、挨拶する順番を再考する。

機嫌の悪いモノがいれば、その人の優先順位を少しだけ上げるのだ。



「……はぁ」


「………」


とても長い沈黙。

エリーは小さくため息をつく女性と無言で向き合っていた。


「………」


「………はぁ」


またため息。

このため息を聞くのは何度目だろうか。と、エリーは考え出す。


「……はぁ」


「………お母様。いい加減にしてくださいまし。他のお母様にも挨拶をしなければならないんですから、何も話して頂けないのは困ります」


エリーは明確に抗議した。

5分以上をこんな状態で過ごしており、これ以上時間を無駄には出来ないのだ。


「分かったわよ。話すわ……はぁ」


またエリーの実母はため息をつく。

 ーー最初の挨拶からこれとか、先が思いやられるわぁ。私がため息つきたい。


「それがねぇ、実は、」


母親は話してくれる気になったようで、エリーの顔を真剣に見つめて話してきた。

エリーもそれに真摯に向き合おうと、真剣に見つめ返す


「実は、」


「実は?」


「最近、太っちゃったのよぉ!もぉ!お腹とか太ももとかぷにぷにし出しちゃってぇ!」


くだらねぇ。

とか、思ってはいけない。


母親にとっては死活問題なのである。

というか、そう思わないと、エリーの今までの時間が完全にムダだったと言うことになってしまう。


「そ、それは大変ですわねぇ。でも、私には全然そんな風には見えませんわぁ。お母様、とってもお綺麗でしてよ」


「あらあら。そぉ~?エリーもお世辞が上手くなったわねぇ」


「いえいえ。お世辞ではなくて本当のことですよぉ」


そこまで話して、エリーは絶対に思ってはいけないことを、

 ーーくだらねぇ


頭を抱えたくなりながらもどうにか適当に真剣に聞いてる風にしながらも話を聞き、


「それでは、また」


「はぁい。またねぇ。エリー」


エリーは母親との話を終わらせ、次の人物へと向かう。

とだ、その足取りは重かった。


 ーー母親がコレよ。他のあまり関わりのない人たちが相手だったら、どれだけ大変になるって言うの!やっぱり、こういう用事がないとき以外は帰らない方が良いわね。

エリーはそう心に決めて、扉をノックした。


コンコンッ!

音が響く。


どうでも良いことかも知れないが、この世界においてノックの回数にルールはない。

2回ならすときはトイレの時だからどう、とか言うくだらないマナーは存在しないのだ。


「あら?エリー。久しぶりね」


「お久しぶりです。キシィお母様」


部屋で出迎えるのは、キシィ。

エリーの元教育係だ。


「随分と、大きくなりましたね」


「そうよねぇ。もうすぐよ」


エリーはキシィの腹を見た。

キシィもそれに頷いている。


大きくなったというのは、先ほどのエリーの実母との会話でも話題がそんな感じだったが、雰囲気はかなり穏やか。

 ーー身構えてたけど、ひどい様子じゃなくて良かった。


「まさか私がいなくなった間に、ここまで大きくなるとは」


「そうねぇ。私も意外だったわ」


2人はキシィのお腹を見ながら会話をする。

 ーーいやぁ。大きくなる速度が凄いわね。


「何処まで大きくなるんでしょうかね?」


「そろそろ止まるとは思うんだけど」


きっと次に見に来たときはもっと大きくなっていることだろう。

そうエリーは感じた。


「楽しみだわ」


「ええ。そうですね。私も楽しみですわ。()


和やかな雰囲気のまま、こうして先ほどとは違いそれほど時間もかけずに挨拶は終わる。

先ほどのイラつきはかなり相殺されていた。


「ふふ。どんな子になるかしらさ」


上機嫌で廊下を歩くエリー。

キシィの子供を感じられて、とても和んだのだ。


お腹を触らせて貰って、蹴られる感触を感じたりもした。

実にかわゆい。


 ーーいやぁ。この数年父親と頑張ってたけど、やっと出来て良かったわぁ。5年経ってやっとくとか、かなり時間は掛かったわね。

エリーは今までのことを思い出す。


なかなか子供が出来なくて落ち込んでいたキシィ。

そして、それを励ます父親。


思えば、なんだがあそこで愛が育まれていたような。

 ーーあれ?そう言えばあの辺りから、父親とキシィの仲がかなり良くなってた気がするわね。最初の方はあまり良い印象持っていなかった気がするんだけど。


普段はいらんことをすることも多いが、今回は良いことをしたエリー。

恋のキューピット、エリーちゃんである。


 ーーさぁて、この調子で挨拶やっていくわよぉ!!

エリーは元気よく次の挨拶へと向かった。


その夜。

ストレスの溜まった妖精が、盗賊を殺しまわったらしい。

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