悪役令嬢、撃退完了?
「仲間が倒れてるんだ!」
敵の誰もが耳を疑った。
倒れるような要素が思いつかないのだ。
先ほどのビームは、魔力がなくなりかけたら自動で魔力供給が止まるようになっていた。
だから、魔力を消耗しすぎて倒れたということじゃない。
では、それ以前に倒れたのか。
いや、それならもう少し早く気付いたはずだ。
怪しく思いながらも、敵たちはその倒れているモノを見て、
「……う、嘘だろ?」
「おいおい。どうなってんだよ!?」
それは、あまりにも予想外な光景だった。
なんとそのものは、腹を何かに貫かれて血を流して倒れているではないか。
「誰だ!?誰がやりやがった!」
「お前らか!お前らがやったんだろ!」
元々彼の仲間だった血湯のメンバーたちは、犯人捜しに躍起になる。
そこで1番の有力候補は、目の前にいる、
「お前ら!良い奴らだと思ってたのに!」
「やっぱり心の内はどす黒かったんだな!!」
「最悪の気分だよ!!」
そう言いながら、仲間を失った血湯のメンバーたちが、剣を抜く。
その剣先は、先ほどまで共に魔法を使っていた苦霞に向けられていた。
「なっ!」
「言いがかりはよせ!」
「そんなことするわけないだろ!!」
疑いをかけられた苦霞たちは抗議をする。
だが、
「問答無用!」
「言い訳なんて聞きたくねぇよ!!」
「地獄で後悔しな!!」
もう血湯たちは止まらない。
この世界に地獄なんて概念があったんだという驚きの発言をしながら、血湯たちは苦霞に斬りかかった。
「くそっ!」
「やってやるよ!!」
「そっちがその気なら!!」
苦霞たちも剣を抜いた。
こうして、敵同士の争いが生まれたわけである。
短時間で仲良くなれるのなら、短時間で仲を悪化させることも可能なのである。
「死ねぇ!」
「くたばれぇぇ!!」
暴言を吐きながら、互いに斬りかかり合う血湯と苦霞たち。
突然のその事態に、
「え?」
「何が起きてるの?」
学生たちは困惑していた。
敵が突然争いだしたのだ、それは困惑して当然だろう。
「よ、よく分からないけど、チャンスだ!今のうちにけが人を回復魔法で癒やしておけ!!」
「「「了解!」」」
この事態を好機とみて、ガガーラナが指示を出す。
生徒たちは、迅速に行動を始めた。
けが人に回復魔法をかけるのは勿論、崩れた校舎の応急処置をしたり、防御魔法をかけたり、腐食の侵食を抑えたり。
やらなければならないことは沢山ある。
「俺たちも手伝おう」
「「「ああ!」」」
そこに貴族の友人たちが手助けに入る。
こうして、エリーの友人たちと平民の間の絆が芽生えた。
それと時を同じくして、
「いやぁ。上手くいったわねぇ」
眼下で起きている醜い争いを見ながら、クレアは笑みを浮かべた。
今回の事態は、クレアが仕組んだことである。
まず、今回の作戦を詳しく説明しよう。
最初は地雷について。
地雷の作戦のポイントは、地雷の上に光る棒を立てるところにあった。
そうすることで、どの地雷を爆発させれば良いかわかりやすくしたの。
そして他のポイントとして、踏まれて爆発すると言うことがないよう、地雷は少し地中の深いところに入れていたというのもある。
丁度敵が大勢集まったところで、ギレに指示を出して爆発させて貰っていたのだ。
他の重要なポイントとしては、ギレが何処に地雷があるのかわかりやすくするために長い間訓練させたと言うこともある。
どういう事かというと、同じように棒を立てて何度も爆発させる練習を行ったのだ。
作戦が決まってから、この数日間みっちりと。
そのために、クレアは初めて学校の授業を休んだりもした。
ーー真っ暗な状況で経験だけを頼りに地雷までの距離を探るってなかなかハードよねぇ。ギレ、よく頑張ってくれたわ。
クレアは後でギレを褒めようと誓った。
地中から敵の背中を突き刺し、醜い争いの原因を作り出したギレを。
「さて、そろそろね」
クレアは恒例になってきだしたそろそろという言葉をこぼす。
クレアの目には、かなり数が減ってきた敵の姿が見えていた。
お互いに殺し合い、数は地雷に吹き飛ばされるよりも前の、攻めてきた最初の時点から考えると10分の1以下になっている。
このくらいなら学校にいるメンバー全員で攻撃すれば勝てそう。
「流石にそれだと面白みがないから、私の手を加えさせて貰うけどね」
クレアがそう言った直後だった。
敵の動きが止まる。
「な、何だお前ら?」
「動くな。我らはクラウン。全ての闇を支配するモノだ」
数の減った敵は、黒装束のクラウンたちによって全員取り押さえられていた。
クレアは事前に敵を潰し合わせる作戦を立て、その後捕縛するところまで計画を立てていたのだ。
「さて、あっちは大丈夫みたいだけど、こっちはどうなったかしら?」
クレアは下の校舎の方に意識を向ける。
そこでは、
「騒ぐな。こいつらの命が惜しければ、大人しくしていることだ」
「「「っ!」」」
脅迫により押し黙る生徒たち。
その顔には悔しさのあふれる表情が浮かんでいた。
ーーあらぁ。随分とこの短時間に心を掴んだのね。
クレアは少しだけ感心した。
「何が目的だ?金か?それとも」
ロメルが目的を尋ねてくる。
現在クラウンの拘束しているメンバーは様々な家の長男などで、かなり価値は高い。
王族に至っては3人も捕らえているので、国から金を引き出そうと思えばかなりの額を得ることが出来るだろう。
他にも金ではなくても、政治的要求もできるかも知れない。
だが、
「いや。そんな国に色々するのは面倒」
第1王女のタキアーナを捕らえているサードが短く答える。
その言葉を聞いて、全員の顔に困惑の色が浮かぶ。
「な、なら、一体何を」
「ロメル様!?」
「お前!貴族様たちを離せ!!」
ロメルたち貴族メンバーが、クラウンによって捕らえられていた。
ーーこっちも成功。私も捕まったフリをした方が良いかしら?
「我らの目的は、あそこにいるモノたちの身柄だ。あいつらを我らに譲れ」
「あいつらを?」
生徒たちは顔を見合わせる。
そんなに重要なのだろうかと、困惑しているのだ。
「……それは別に構わない。でも、それで殿下たちの身柄は解放してくれるんだろうね?」
「ああ。無論だ」
ガガーラナが確認を取り、サードは頷く。
だが、サードが動く気配はなかった。
「……おい。殿下方を離せよ」
「ん?まだ回収が終わっていない。回収が終わったら引く」
「……そうか」
それから、沈黙が続いた。
その沈黙に耐えきれなくなったのか分からないが、
「あなたたちは、何が目的なの?」
生徒の1人が、質問を始めた。
友人と話をしても良かったが、それは場違いな感じもあったので雰囲気的に話しかけられるのがクラウンくらいしかいなかったのだ。
「我らの目的?あの者たちの回収だが」
「あぁ~。そうじゃなくて、もっと全体的な、っていうのかな?」
「全体的、か。組織全体で言えば、全ての闇を支配する、ということだが?」
サードが淡々と答える。
どうやらサードも暇だったようで、質問に答えて暇を潰そうという考えのようだ。
「じゃあ、その目的のために貴族の屋敷を焼いたの?」
少女は更に質問を続ける。
部屋の雰囲気が少しだけ軽くなっていくようだった。
「貴族の屋敷か。あれは、我らがやったわけではない。我らの名を使って、小さい組織がやっただけだ」
「え!?そうなの!?」
「ま、マジかよ」
「衝撃の事実」
サードの返答に、生徒たちが驚きの声を上げる。
貴族の友人たちも、同じように目を見開き驚いていた。
「じゃあ、クラウンってどうやってできたの?」
更に少女は質問する。
ただ、サードは少し困った。
「クラウン様が、我らのような同志を集めて作られた」
詳しいことを伝えたくないので、どうアバウトな感じで伝えるかが悩むのだ。
というか、本当のことは伝えずに偽の結成の出来事を伝えても良いのではないかと思い始めているので、これは拠点に戻ったときに会議の議題となるだろう。
「じゃあ、クラウンのボスって誰なの?」
「クラウンのボスはクラウン様だ」
サードは間髪入れずに回答した。
これは絶対に譲れない事実である。
「クラウン様って、何者なの?普段は町中で普通に働いてたりするの?」
また答えにくい質問が来た。
嘘を答えても良かったのだが、
「クラウン様は、……っと、もう回収が終わったようだ。それでは我らはこの辺りで」
答えずに逃げた。
悪い選択ではないだろう。
それからしばらくして、
「みんな。大丈夫?」
大丈夫だと知りながらも、そう声をかけて部屋に入るクレア。
その姿を見て、友人たちは目を見開き、
「クレアちゃん!!」
「ぐふっ!?」
まずアンナリムに突撃された。
綺麗にみぞおちに頭突きが決まり、クレアは顔を歪ませ蹈鞴を踏む。
「アンナリム、駄目ッスよ。クレアがダメージを受けてるッス。……クレア?大丈夫ッスか?」
「ど、どうにか大丈夫よ」
「ク、クレアちゃん!ごめんねぇ!!」
ギービーが静止してくれたので助かった。
謝ってくるアンナリムに、クレアは手を振って大丈夫だと伝える。
「クレアは襲われなかったの?」
「外傷はなさそうだが」
ハイロラとガガーラナが心配した顔で寄ってくる。
ーー襲われなかったの?っていうのは、誰から襲われなかったのかもう少し具体的に教えて欲しいんだけど…………今回は知らないフリをしましょう。
「襲われるって、誰に?屋上にいたんだし、魔法でもなかったら襲われることはないでしょ」
気付かなかったことにして友人たちから説明をしてもらうことにする。
そうしていると、
「お前も大丈夫だったか」
「ケガがないようで良かったよ」
平民の友人たちに続いて王子ペアが、そう言ってくる。
それから他の貴族の友人たちにもそれとなく心配したんだと伝えられ、クレアは関係がバレないことを願うのだった。
「あら?馬車が来たわよ。もしかしたら、殿下方を迎えに来たんじゃないかしら?」
「おお。そうかもな。では、俺たちは先に行かせて貰おう」
ロメルはそう言って、数名の生徒に声をかけている。
他の貴族の友人たちも、同じようにしていた。
ーー良かった。お友達が作れたのね。皆平民とはズレてるところがあるから心配だったけど、私、嬉しいわ。
お母さんみたいな感想を抱きながら、クレアは感慨深そうに数回頷く。
「ロメル殿下。お迎えに上がりました!」
「ああ。それでは、さらばだ」
迎えの兵士が来て、ロメルが去って行く。
その後に他の友人も続いていき、
「また明日」
「っ!?」




